ようこそ暴力至上主義の教室へ   作:戦竜

1 / 6
第一話 VS堀北鈴音&伊吹澪

高度育成高等学校という場所は、

表向きこそ実力と知略を競わせる教育機関を気取っていやがるが、

結局のところ最後にモノを言うのは人間の根っこの部分――

つまり「暴力」だと、宝泉和臣はずっと思っていた。

 

どれだけ頭が良かろうが、どれだけ特別試験でポイントを稼ごうが、

どれだけ周囲から信頼されようが、

殴られた瞬間に恐怖で身体が竦むような奴は、その時点で下なのだ。

 

だからこそ最近の宝泉は、腹の底に妙な苛立ちを抱えていた。

 

退屈だった。

喧嘩が足りねぇ。

 

この学校に来てからというもの、周囲は妙に頭を使う連中ばかりで、

まともに殴り合いへ発展する機会が減った。

 

もちろん暴力沙汰そのものが消えたわけではない。

 

だが、それは宝泉が求めるものとは違う。

 

小賢しい駆け引き。

陰湿な心理戦。

裏で手を回して相手を追い込むくだらねぇゲーム。

 

そんなもんばかりだ。

 

宝泉は、もっと単純で、もっと原始的で、もっと分かりやすいものが欲しかった。

 

拳。

骨。

血。

痛み。

 

人間が恐怖に顔を歪める瞬間。

それを感じていないと、自分の身体が腐っていくような感覚があった。

 

「……クソつまんねぇな、この学校」

 

昼休みの廊下を歩きながら、宝泉は舌打ち混じりに呟く。

周囲の生徒たちは、その声を聞いただけで視線を逸らしていく。

 

相変わらずだ。

 

自分を見ただけでビビる。

それはそれで悪くない。

 

だが最近は、その反応すら刺激にならなくなっていた。

 

もっと強い奴が必要だった。

もっと殴り甲斐のある奴が。

 

そして、その頂点にいるのが綾小路清隆だということも、宝泉は理解している。

 

あの無表情野郎。

人を舐め腐ったみてぇな目をした男。

あいつだけは、まだ本気でぶっ壊せていない。

 

だからこそ、そこへ辿り着く前に、

自分の身体をもう一度「戦闘用」へ戻しておく必要があった。

 

鈍った感覚を研ぎ直す。

暴力の勘を取り戻す。

 

だったら手始めに必要なのは――雑魚狩りだ。

 

「……まずは肩慣らしだな」

 

宝泉の口元が、獰猛に歪む。

 

そして最初に頭へ浮かんだのは、二人の女だった。

 

堀北鈴音。

伊吹澪。

 

片方は学年でも有名な優等生。

片方は牙を剥く野良猫みてぇな不良女。

 

どっちもそれなりに喧嘩慣れしている。

 

ちょうどいい。

 

潰すには。

 

 

放課後。

 

人気のなくなった校舎裏には、夕暮れの赤黒い光が長く伸びていた。

 

コンクリートの壁。

室外機の低い唸り。

遠くで聞こえる運動部の掛け声。

 

そんな空気の中、先に姿を現したのは伊吹だった。

 

「……アンタ、何の用よ」

 

露骨に不機嫌な声。

腕を組み、鋭い目で睨みつけてくる。

相変わらず気の強ぇ女だ。

 

だが宝泉からすれば、小型犬が必死に吠えている程度にしか見えない。

 

少し遅れて堀北も現れる。

 

「呼び出しに応じたわ。話は?」

 

こちらは冷静を装っている。

だが、宝泉の姿を見た瞬間、肩にわずかな緊張が入ったのを見逃さなかった。

 

なるほど。

 

完全に肝が据わってるわけじゃねぇ。

 

「クク……お前ら二人まとめて来るとは仲良しごっこかァ?」

「くだらない挑発なら帰るわよ」

「帰れると思ってんのか?」

 

空気が止まる。

 

宝泉は壁から背を離し、ゆっくり二人へ歩み寄った。

 

「最近よォ、身体がなまって仕方ねぇんだわ」

「は?」

「だから運動しようと思ってなァ。ちょうどいいサンドバッグ探してたんだよ」

 

伊吹の眉が跳ね上がる。

 

「あぁ?」

「お前らなら多少は楽しませてくれんだろ?」

 

その瞬間だった。

 

伊吹の拳が飛ぶ。

 

速い。

女にしちゃかなり速ぇ。

 

だが宝泉は首を少し傾けるだけで回避した。

 

拳が頬の横を掠める。

 

同時に堀北が低い姿勢で踏み込み、鋭い回し蹴りを放ってくる。

 

「私はあなたの暴力には屈しないわ!」

「へぇ」

 

宝泉は腕で受けた。

 

重い衝撃。

 

思ったより威力がある。

 

特に堀北の蹴りは、体重移動が綺麗だった。

 

ただし――軽い。

致命的に。

 

「こんなもんかよ」

 

宝泉は笑いながら、伊吹の腹へ膝を突き刺した。

 

「がっ……!」

 

空気が潰れる音。

伊吹の身体が折れる。

 

そこへ堀北がすぐさま追撃してくる。

判断は悪くない。

仲間が崩された瞬間に止まらず攻める。

 

だが、その程度で宝泉は止まらない。

 

横薙ぎの蹴り。

 

宝泉は真正面から受けた。

 

鈍い衝撃。

少し身体が揺れる。

 

「……っ!」

 

堀北の表情に驚きが走る。

 

効いていない。

 

いや、多少は効いている。

 

だが宝泉の身体は、その程度のダメージを無視できる。

 

「いい蹴りじゃねぇか」

 

次の瞬間。

 

宝泉の拳が、堀北の脇腹へめり込んだ。

 

ゴッ、と嫌な音が鳴る。

堀北の呼吸が止まる。

 

身体がくの字に折れ、そのまま数歩吹き飛んだ。

 

「堀北!」

 

伊吹が叫び、再び飛び込んでくる。

 

今度は低い。

足狙い。

 

宝泉の膝へ鋭いローキックが叩き込まれる。

 

確かに痛い。

 

だが、それだけだ。

 

「チッ……!」

 

伊吹は舌打ちする。

手応えが薄い。

宝泉はその顔を見て笑った。

 

「お前、いいなァ」

「……!」

「ちゃんとビビってんのに、それでも向かってくる」

 

そして次の瞬間、宝泉は伊吹の髪を乱暴に掴み、

そのままコンクリートの壁へ叩きつけた。

 

鈍い激突音。

 

「ぐっ……!」

 

伊吹の身体が崩れる。

 

そこへ堀北が背後から飛びかかる。

 

腕を取る。

関節を極めにきた。

 

だが宝泉は笑うだけだった。

 

「軽ぃんだよ」

 

力任せに腕を振る。

それだけで堀北の身体が宙へ浮いた。

小柄な身体が大きく回転し、地面へ転がる。

 

「かっ……!」

 

肺の空気を吐き出し、堀北が苦痛に顔を歪める。

 

宝泉は二人を見下ろした。

 

汗。

乱れた髪。

荒い呼吸。

 

だが、それでも二人の目は死んでいない。

 

特に伊吹。

 

口の端から血を流しながら、まだ睨んでくる。

その反抗的な目が、少しだけ宝泉を楽しませた。

 

「まだ来るか?」

「……ッ、舐めんな……!」

 

伊吹が再び突っ込んでくる。

 

その瞬間。

 

宝泉の拳が真正面から炸裂した。

 

顔面。

 

伊吹の身体が横へ吹き飛び、地面を転がる。

 

今度こそ立ち上がれない。

 

「伊吹さん!」

 

堀北が叫ぶ。

 

怒り。

焦り。

 

感情が乱れている。

 

もう冷静じゃない。

だから弱い。

 

堀北は一直線に飛び込んできた。

 

宝泉はそれを待っていた。

 

腹へ前蹴り。

 

衝撃で堀北の身体が止まる。

 

そこへ追撃の肘打ち。

 

頭部。

 

視界が揺れたのだろう。

 

堀北の身体がふらつく。

 

最後に宝泉は、その肩を掴み、地面へ思い切り叩き落とした。

 

コンクリートへ背中が激突する。

 

「……ぁ……」

 

短い声。

そして沈黙。

 

終わりだった。

 

校舎裏に残るのは、荒い呼吸音だけ。

 

宝泉は首を鳴らす。

 

「……悪くねぇ」

 

多少は汗をかいた。

多少は痛みもある。

 

だが、所詮はこの程度。

 

まだまだ物足りない。

 

宝泉は倒れた二人を見下ろしながら、ゆっくり笑みを深めていく。

 

「この調子で行くかァ」

 

身体は軽い。

暴力の感覚も戻ってきた。

 

殴る。

潰す。

勝つ。

 

やはり、それが一番気持ちいい。

 

綾小路。

龍園。

高円寺。

 

そして、この学校の強者ども。

 

片っ端からぶっ壊してやる。

 

そんな万能感にも似た高揚を抱えながら、宝泉は夕暮れの校舎裏を後にした。

 

まだこの時の彼は知らない。

 

自分がこれから先、本物の怪物たちに心を折られていくことを――。




モチベ維持のために感想・評価をもらえると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。