伊集院レイは、伝説の木の下で少女になる   作:エーアイ

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高瀬悠人は、秘密を守る

 翌日の学校は、やはりいつも通りだった。

 

 少なくとも、表面上は。

 

 朝の教室。

 黒板の前で騒ぐ男子。

 机を寄せて話す女子。

 窓際で単語帳をめくる生徒。

 廊下を走って教師に注意される誰か。

 

 高瀬悠人は、その中にいた。

 

 けれど、昨日までとは少し違っていた。

 

 ポケットの中に、目に見えないものを入れているような感覚がある。

 

 誰にも見えない。

 誰にも触れられない。

 でも、確かにそこにある。

 

 伊集院レイの秘密。

 

 そして昨日、駅前で見た伊集院の別の顔。

 

 本屋で雑誌に目を止めた伊集院。

 喫茶店でケーキを少しだけ食べた伊集院。

 自分がクリームを落としかけたのを見て、ほんの一瞬だけ笑った伊集院。

 

 あの笑顔が、どうしても頭に残っていた。

 

 学校で見る伊集院くんとは違った。

 

 けれど、別人ではなかった。

 

 どちらも伊集院レイなのだと、悠人は少しずつ思い始めていた。

 

 「高瀬くん」

 

 昼休み、廊下で声をかけられた。

 

 振り返ると、同じ学年の女子生徒が立っていた。

 何度か話したことがある程度の相手だ。明るく、人の顔をよく覚えているタイプだった。

 

 「昨日、駅前にいなかった?」

 

 その一言で、悠人の心臓が一瞬だけ嫌な音を立てた。

 

 「駅前?」

 

 「うん。夕方くらい。喫茶店の近く」

 

 喫茶店。

 

 昨日、伊集院と入った店。

 

 悠人は、表情を変えないようにした。

 

 こういう時に変に動揺すれば、それだけで怪しまれる。

 そうわかっているのに、頭の中では一瞬で昨日の光景がよみがえった。

 

 向かいの席に座る伊集院。

 紅茶。

 ケーキセット。

 店員の「お連れ様」という言葉。

 

 「いたけど」

 

 悠人はなるべく普通に答えた。

 

 「やっぱり。誰かと一緒だったよね?」

 

 女子生徒は悪気なく言った。

 

 何気ない会話。

 

 ただの雑談。

 

 けれど悠人にとっては、かなり危ない一言だった。

 

 「綺麗な人だったから、ちょっと気になっちゃって。高瀬くんの知り合い?」

 

 喉の奥が詰まりそうになった。

 

 綺麗な人。

 

 そう見えたのか。

 

 伊集院レイとしてではなく。

 学校の伊集院くんとしてではなく。

 ただ、駅前にいた綺麗な人として。

 

 悠人はどう答えるべきか、一瞬で考えた。

 

 友人。

 

 違う。

 それでは学校の誰かかと聞かれるかもしれない。

 

 家の人。

 

 少し不自然だ。

 

 知らない人。

 

 一緒にいたのを見られている以上、無理がある。

 

 その時、視界の端に、白い制服の影が入った。

 

 伊集院レイが廊下の少し先にいた。

 

 女子生徒たちに囲まれている。

 いつものように穏やかな笑みを浮かべて、何かを聞き流している。

 

 だが、その目だけが、ほんの一瞬、こちらを向いていた。

 

 聞いている。

 

 悠人は直感した。

 

 伊集院は今の会話を聞いている。

 

 高瀬悠人が、どう答えるのかを。

 

 悠人は息を吸った。

 

 「親戚だよ」

 

 口から出たのは、その言葉だった。

 

 女子生徒が瞬きをする。

 

 「親戚?」

 

 「うん。ちょっと用事があって会ってた」

 

 「へえ、そうなんだ。すごく綺麗な人だったよね」

 

 「まあ……そうだな」

 

 そこで深く頷きすぎても変だと思い、悠人は曖昧に笑った。

 

 「モデルさんとかかと思った」

 

 「いや、そういうんじゃない」

 

 「そっか。高瀬くん、ああいう知り合いがいるんだね」

 

 「たまたまだよ」

 

 「ふうん」

 

 女子生徒はそれ以上追及しなかった。

 

 本当にただ気になっただけだったのだろう。

 

 「じゃあね」

 

 「ああ」

 

 彼女が去っていく。

 

 悠人は、ようやく息を吐いた。

 

 危なかった。

 

 いや、何がどれだけ危なかったのか、正確にはわからない。

 だが、少なくとも何かを踏み抜きかけた感覚はあった。

 

 ふと、伊集院の方を見る。

 

 伊集院は、もうこちらを見ていなかった。

 

 女子たちに囲まれたまま、いつもの伊集院くんとして微笑んでいる。

 

 けれど、その横顔は、どこか硬かった。

 

 そして放課後。

 

 悠人の机の中には、予想通り一枚のカードが入っていた。

 

 放課後、旧校舎三階の資料室へ来い。

 遅れるな。

 伊集院レイ

 

 またか。

 

 悠人はカードを見て、小さく息を吐いた。

 

 だが、今日は理由がわかっている。

 

 昼休みの件だろう。

 

 親戚。

 

 とっさに出た嘘だった。

 

 うまい嘘だったかと聞かれれば、自信はない。

 むしろ、かなり雑だった気がする。

 

 それでも、あの場では他に思いつかなかった。

 

 悠人は鞄を持ち、旧校舎へ向かった。

 

 三階の資料室。

 

 扉の前に立つと、中からすぐに声がした。

 

 「入れ」

 

 昨日と同じ。

 

 いや、声の冷たさは昨日より少し増している気がした。

 

 悠人は扉を開けた。

 

 資料室の中には、伊集院がいた。

 

 制服姿。

 

 いつもの伊集院レイ。

 

 街で見た私服姿ではない。

 喫茶店でケーキを少しだけ食べていた少女でもない。

 

 学校の中で、誰もが知っている伊集院くんだった。

 

 ただ、その表情は不機嫌だった。

 

 かなり。

 

 「親戚とは何だ」

 

 開口一番、それだった。

 

 悠人は扉を閉めながら答えた。

 

 「そこからか」

 

 「当然だ。親戚とは何だと聞いている」

 

 「嘘だよ」

 

 「それはわかっている」

 

 「じゃあ聞くなよ」

 

 伊集院の目が鋭くなる。

 

 「君は、私を親戚だと説明した」

 

 「他に言いようがなかった」

 

 「もっとまともな嘘があるだろう」

 

 「急に聞かれたんだから仕方ないだろ」

 

 「事前に備えておけ」

 

 「昨日の今日でそこまで考えてない」

 

 「秘密保持者としての自覚が足りない」

 

 「いや、急に秘密保持者にされたんだけど」

 

 伊集院は不満そうに腕を組んだ。

 

 「君の不用意な発言で、余計な疑いを招く可能性があった」

 

 「でも、疑われなかっただろ」

 

 「今は、だ」

 

 「じゃあ一応守れたってことじゃないのか」

 

 その言葉に、伊集院は少しだけ黙った。

 

 悠人は続けた。

 

 「俺は何も言ってない。伊集院のことも、昨日のことも。あれは秘密を守るための嘘だ」

 

 「……親戚などという雑な嘘がか」

 

 「雑なのは認める。でも、あの場で一番無難だと思った」

 

 「どこが無難だ。親戚なら、今後また聞かれる可能性がある」

 

 「じゃあ何て言えばよかったんだよ」

 

 「……」

 

 伊集院は答えなかった。

 

 悠人は眉を上げた。

 

 「ほら、伊集院も思いつかないだろ」

 

 「思いつかないのではない。選定しているだけだ」

 

 「今、必死に考えてるだろ」

 

 「高瀬」

 

 「はい」

 

 「余計なことを言うな」

 

 いつものやり取りだった。

 

 だが、今日は少しだけ空気が違う。

 

 伊集院は怒っている。

 

 それは間違いない。

 

 けれど、怒りの下に別のものがある気がした。

 

 昼休み、伊集院は聞いていた。

 

 自分の秘密が、知らないところで他人の口に触れかけた瞬間を。

 

 それは怖かったのだろう。

 

 だから怒っている。

 

 高瀬が嘘をついたことではなく、嘘をつかなければならない状況になったことに。

 

 あるいは、その嘘で守られたことに。

 

 「高瀬悠人」

 

 フルネームで呼ばれた。

 

 悠人は少し身構える。

 

 「君は、今日の件がどれほど危険だったかわかっているのか」

 

 「わかってるつもりだ」

 

 「つもりでは困る」

 

 「でも、あの子は本当にただ見かけただけだろ。深く疑ってる感じじゃなかった」

 

 「だから何だ」

 

 「だから、変に焦って否定する方が危なかった。親戚って言えば、それ以上突っ込みにくいと思ったんだよ」

 

 伊集院は黙った。

 

 悠人は、少しだけ言葉を選んだ。

 

 「伊集院の秘密を守るための嘘だった。それだけは本当だ」

 

 伊集院の指が、わずかに動いた。

 

 机の縁に触れていた指先が、ほんの少しだけ力を失う。

 

 すぐに戻ったが、悠人には見えた。

 

 伊集院は、揺れている。

 

 守られたことに。

 

 自分のために、とっさに嘘をつかれたことに。

 

 それを素直に受け取れず、怒りに変えている。

 

 そんなふうに見えた。

 

 「……私は、君に嘘をつけとは命じていない」

 

 「じゃあ、正直に言えばよかったのか?」

 

 「そういう意味ではない」

 

 「じゃあ、どういう意味だよ」

 

 「君は、もっと慎重に振る舞うべきだと言っている」

 

 「わかってる。でも、俺もいきなり聞かれたんだ」

 

 「だから備えておけと言っている」

 

 「備えるなら、一人で考えるより、伊集院も一緒に考えた方がいいだろ」

 

 伊集院の眉が動いた。

 

 「なぜ私が」

 

 「伊集院の秘密だから」

 

 「そうだ。私の秘密だ」

 

 「でも、もう俺も知ってる」

 

 資料室が静かになった。

 

 悠人は、そこで一度だけ息を吸った。

 

 「俺も、もう関係者だろ」

 

 伊集院の表情が固まった。

 

 「君に関係などない」

 

 「あるだろ」

 

 「ない」

 

 「じゃあ、俺を呼び出すなよ」

 

 その言葉に、伊集院は返事をしなかった。

 

 悠人は続けた。

 

 「秘密を知ったのは事故だった。そこは本当に悪かったと思ってる。でも、今は違うだろ」

 

 「何が違う」

 

 「伊集院は俺を呼び出してる。監視してる。利用してる。昨日は街にも連れ出した」

 

 「監視の一環だ」

 

 「そういうことにしておく」

 

 「その言い方はやめろ」

 

 「でも、そうやって俺を巻き込んでるなら、俺にも考える必要があるだろ」

 

 伊集院はじっと悠人を見ていた。

 

 怒り。

 警戒。

 そして、その奥にわずかな戸惑い。

 

 悠人は、その目を見返した。

 

 「秘密を守るって決めた以上、俺ももう関係ある。だから、全部一人で決めて、全部命令で済ませるのはやめてくれ」

 

 「……君は、自分の立場を忘れているようだな」

 

 「忘れてない」

 

 「私は、君を信用したわけではない」

 

 「それもわかってる」

 

 「ならばなぜ、そこまで言う」

 

 「秘密を守るためだよ」

 

 悠人はそう答えた。

 

 「俺が伊集院の秘密を守るなら、俺も最低限どう動けばいいか知っておく必要がある。今日みたいに聞かれた時、どう答えるかとか。誰に見られたら危ないとか。そういうのを俺が全部その場で考えるのは無理だ」

 

 伊集院は、わずかに視線を逸らした。

 

 「君の能力不足だ」

 

 「そうだよ。だから相談しろって言ってる」

 

 「相談ではない」

 

 「じゃあ確認でもいい」

 

 「……」

 

 「伊集院の好きな言葉でいいよ。監視でも確認でも命令でも。でも、俺に何かさせるなら、少しは共有してくれ」

 

 伊集院は答えなかった。

 

 資料室の窓から、夕方の光が差し込んでいる。

 

 埃っぽい空気の中で、沈黙だけが長く伸びた。

 

 やがて、伊集院が口を開いた。

 

 「……次からは」

 

 その声は、いつもより少し低かった。

 

 「次からは、もう少しまともな嘘をつけ」

 

 悠人は一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 

 それから、少しだけ笑いそうになった。

 

 「そこなのか」

 

 「重要だ」

 

 「いや、今の流れなら、少しは相談する、とかそういう話になると思ったんだけど」

 

 「ならない」

 

 「ならないのか」

 

 「君の嘘の質が低いから、私が指摘しているだけだ」

 

 「親戚、そんなに駄目だったか?」

 

 「駄目だ。関係を追及された場合、説明が増える。家族構成や居住地を聞かれれば破綻する」

 

 「そこまで聞かれるか?」

 

 「可能性はある」

 

 「じゃあ、何ならいいんだよ」

 

 「……知人」

 

 「広すぎないか?」

 

 「広い方が安全な場合もある」

 

 「でも、それだと逆に怪しくないか?」

 

 「君の言い方次第だ」

 

 「結局、俺の問題か」

 

 「そうだ」

 

 悠人は苦笑した。

 

 怒られているのに、なぜかさっきより空気は軽くなっていた。

 

 伊集院も、それに気づいているのかいないのか、いつもの調子で言葉を続ける。

 

 「今後、似た状況が起きた場合、余計な情報を加えるな」

 

 「つまり?」

 

 「曖昧に流せ。深く答えるな。相手に興味を持たせるな」

 

 「難しいな」

 

 「できないなら、話すな」

 

 「無茶言うな」

 

 「君には努力義務がある」

 

 「また義務か」

 

 悠人は肩をすくめた。

 

 そして、少しだけ真面目な声に戻した。

 

 「じゃあ、相談しろよ」

 

 伊集院の視線が止まる。

 

 「何?」

 

 「俺が変な嘘をつかないように。伊集院が困らないように。必要なことがあるなら、先に言ってくれ」

 

 「……」

 

 「何も知らないまま守れって言われても、限界がある」

 

 伊集院はしばらく黙っていた。

 

 その沈黙は、先ほどまでの怒りとは少し違っていた。

 

 考えている。

 

 たぶん。

 

 高瀬悠人を、ただの危険人物として扱うべきか。

 利用するだけの相手として見るべきか。

 それとも、秘密を守るために最低限何かを共有するべきなのか。

 

 伊集院は、まだ迷っているように見えた。

 

 やがて彼女は、ゆっくりと息を吐いた。

 

 「必要があればな」

 

 それだけだった。

 

 だが、悠人には、それが伊集院なりの譲歩だとわかった。

 

 「わかった」

 

 「勘違いするな。君を信用したわけではない」

 

 「わかってる」

 

 「私は、君の判断力に不安を覚えただけだ」

 

 「それはちょっと傷つくな」

 

 「事実だ」

 

 「はいはい」

 

 「返事は一回でいい」

 

 「はい」

 

 そのやり取りの後、少しだけ沈黙が落ちた。

 

 だが、最初のような張り詰めた沈黙ではなかった。

 

 悠人はふと思った。

 

 伊集院は、怒っていた。

 

 でも、それだけではなかった。

 

 昼休み、自分が嘘をついたことを責めながらも、本当はその嘘で秘密が守られたことに戸惑っていたのではないか。

 

 誰かに守られることに慣れていない。

 

 守られたことを、素直に受け取れない。

 

 だから怒る。

 

 責める。

 

 嘘の出来を批評する。

 

 伊集院レイらしいと言えば、あまりにも伊集院レイらしかった。

 

 「何を見ている」

 

 伊集院が言った。

 

 「いや」

 

 「また余計なことを考えているな」

 

 「考えてない」

 

 「嘘が下手だ」

 

 「さっきから嘘の採点が厳しいな」

 

 「必要な能力だからだ」

 

 「じゃあ、次から練習しておく」

 

 「無駄な方向に努力するな」

 

 悠人は少し笑った。

 

 伊集院は不満そうに目を細める。

 

 それでも、最初のように退学をちらつかせることはなかった。

 

 「今日はもういい」

 

 伊集院が言った。

 

 「帰っていいのか?」

 

 「許可する」

 

 「相変わらず許可制なんだな」

 

 「高瀬」

 

 「はい」

 

 「今日のことも、誰にも言うな」

 

 「言わない」

 

 「昼休みの女子生徒にも、余計なことを話すな」

 

 「話さない」

 

 「もしまた聞かれたら」

 

 「曖昧に流す」

 

 「余計な情報を足すな」

 

 「わかった」

 

 「親戚などと言うな」

 

 「それ、かなり根に持ってるな」

 

 「当然だ」

 

 伊集院は腕を組んだまま、少しだけ視線を外した。

 

 「……ただ」

 

 「ただ?」

 

 「秘密を守ろうとしたことについては」

 

 そこで言葉が止まった。

 

 悠人は黙って待った。

 

 伊集院は、ほんの少しだけ唇を引き結ぶ。

 

 そして、結局こう言った。

 

 「次からは、もっとましにやれ」

 

 礼ではなかった。

 

 感謝でもなかった。

 

 けれど、悠人にはそれで十分だった。

 

 「了解」

 

 「返事は一回でいい」

 

 「はい」

 

 悠人は鞄を持ち、扉へ向かった。

 

 取っ手に手をかけたところで、伊集院の声がした。

 

 「高瀬」

 

 振り返る。

 

 伊集院は資料室の夕陽の中に立っていた。

 

 学校では伊集院くんとして見られる人。

 街では少女として少しだけ笑った人。

 そして今、秘密を守られたことを認めきれず、怒ることで誤魔化している人。

 

 「必要があれば、また呼ぶ」

 

 「監視か?」

 

 「確認だ」

 

 「言い方が少し変わったな」

 

 「気のせいだ」

 

 「そういうことにしておく」

 

 「その言い方はやめろ」

 

 悠人は小さく笑い、今度こそ資料室を出た。

 

 旧校舎の廊下は、昨日と同じように夕陽で赤く染まっていた。

 

 階段を下りながら、悠人は昼休みのことを思い出す。

 

 親戚。

 

 雑な嘘だった。

 

 たぶん、伊集院の言う通り、もっとましな答えはあったのだろう。

 

 けれど、あの瞬間、悠人は確かに秘密を守ろうとした。

 

 誰かに命じられたからではない。

 

 退学が怖かったからだけでもない。

 

 伊集院レイが、困ると思ったから。

 

 あの秘密を、軽く扱ってはいけないと思ったから。

 

 悠人は足を止めずに階段を下りる。

 

 外からは、部活動の声が聞こえる。

 

 いつものきらめき高校。

 

 その中で、自分だけが少し違うものを抱えている。

 

 秘密を知っている。

 

 秘密を守っている。

 

 そして、どうやらもう自分は、その秘密の外側には立てないらしい。

 

 「関係者、か」

 

 自分で言った言葉を、悠人はもう一度胸の中で繰り返した。

 

 思ったより、重い言葉だった。

 

 けれど、不思議と嫌ではなかった。

 

 面倒ではある。

 

 確実に面倒だ。

 

 伊集院レイは相変わらず理不尽で、命令口調で、嘘の採点まで厳しい。

 

 それでも。

 

 高瀬悠人は、今日初めて、自分からその秘密を守った。

 

 そのことだけは、確かだった。

 

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