元勇者の俺は、魔王になった教え子を救いたい   作:ななひゃく2802

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第22話 お前が自分で決めろ

 礼拝堂には、

 重い沈黙が落ちていた。

 雨音だけが響いている。

 

 グランベルは、

 静かにカイトを見つめていた。

 

「……その魔王を、庇うのですか」

 

 穏やかな声。

 

 だが。

 礼拝堂の空気は、

 張り詰めたままだった。

 

 カイトは答える。

 

「庇ってるわけじゃない」

 

 灰色の瞳が、

 真っ直ぐグランベルを見る。

 

「助けるだけだ」

 

 騎士たちが息を呑む。

 グランベルは少しだけ目を細めた。

 

「魔王を、救うと?」

 

「そうだ」

 

「……不可能です」

 

 即答だった。

 

「過去に前例がない」

 

「だから見捨てろって?」

 

 短い返答。

 空気が冷える。

 グランベルは静かに息を吐いた。

 

「魔王は災厄です」

 

「人ではない」

 

「放置すれば、いずれ多くの命が失われる」

 

 エリシアの肩が震える。

 

 怖い。

 分かっている。

 全部、本当だ。

 

 だから。

 自分はここに居ちゃいけない。

 

「……私のせいで」

 

 掠れた声。

 エリシアの指先が震える。

 

「また、巻き込んでる――」

 

「黙ってろ」

 

 低い声。

 エリシアが目を見開いた。

 

 カイトは前を向いたまま、

 剣を握っている。

 

「今さらだ」

 

「……っ」

 

 涙が滲む。

 胸が痛かった。

 

 でも。

 少しだけ。

 救われた気がしてしまった。

 

 その時。

 礼拝堂の外から、

 慌ただしい足音が響く。

 

「カイト教官!!」

 

 レオンだった。

 びしょ濡れのまま、

 礼拝堂へ飛び込んでくる。

 

 その直後。

 ルーメリアも姿を見せた。

 金色の髪が、雨に濡れている。

 

 レオンは、礼拝堂の光景を見て固まった。

 教会騎士。

 剣を抜いたカイト。

 

 そして。

 カイトへ縋るように座り込む、

 エリシア。

 

「……何だよ、これ」

 

 声が掠れる。

 教会騎士の一人が前へ出た。

 

「レオン・フレイムガード」

 

「危険です。教官から離れなさい」

 

「は?」

 

 レオンが眉をひそめる。

 

「……何でだよ」

 

「カイト・レイヴンは現在、

 危険指定個体との接触及び――」

 

「そんなもん聞いてねぇ!!」

 

 怒声が響く。

 騎士が息を呑んだ。

 

 レオンは、

 カイトの前へ立つ。

 

「教官が何したってんだよ!!」

 

「レオン」

 

 カイトの低い声。

 

 だが。

 レオンは止まらない。

 

「人を助けただけだろ!!」

 

 礼拝堂の空気が揺れる。

 騎士たちの視線が鋭くなる。

 

 ルーメリアは、黙ったままその光景を見ていた。

 

 胸の奥がざわつく。

 合理的に考えれば、魔王は危険だ。

 排除すべき。

 それが正しい。

 

 でも。

 今のエリシアは。

 怯えているようにしか見えなかった。

 

「……ルーメリア様」

 

 騎士が視線を向ける。

 

「拘束命令を」

 

 沈黙。

 長い沈黙だった。

 

 ルーメリアは、

 静かに目を伏せる。

 

「……まだ、状況確認が終わっていません」

 

 騎士たちがざわめいた。

 

 グランベルだけは、

 静かにルーメリアを見ている。

 

「勇者様」

 

 穏やかな声。

 

「あなたは、どちら側ですか」

 

 空気が凍る。

 

 レオンが目を見開いた。

 エリシアの肩が震える。

 ルーメリアは答えない。

 答えられなかった。

 

 勇者としてなら、魔王を排除するべきだ。

 

 瞬間、脳裏に蘇る記憶。

 血の付いた手。

 閉じられた扉。

 

 「生き残れ」

 

 優しかった両親の声。

 あの時から、理想だけでは救えないと。

 合理的に動かなければ

 誰も守れないと理解したのに。

 

 でも。

 どうしてか、今のカイトが、

 かつての両親と重なった。

 

 翡翠色の瞳が揺れる。

 

「ルーメリア」

 

 灰色の瞳が向けられる。

 

「お前が自分で決めろ」

 

 短い言葉。

 

 でも。

 その声だけは、

 不思議と真っ直ぐだった。

 

 ルーメリアの指先が、

 小さく震える。

 

 そして。

 グランベルは静かに目を閉じた。

 

「……そうですか」

 

 穏やかな声。

 

 だが。

 次に目を開いた時。

 

 その瞳には、僅かな冷たさが宿っていた。

 

「ならば」

 

 礼拝堂へ、

 静かな声が落ちる。

 

「教会は、カイト・レイヴンを敵性認定します」

 

 空気が止まった。

 

 




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