元勇者の俺は、魔王になった教え子を救いたい 作:ななひゃく2802
黒い魔力が、暴風のように荒れ狂っていた。
森が揺れる。
崩れた遺跡が軋む。
騎士たちは、近付く事すら出来ない。
「グランベル様!!」
悲鳴。
だが。
返事は無かった。
黒い侵食が、グランベルの身体を這っていく。
『壊せ』
『奪え』
『殺せ』
黒い声。
空気そのものが、軋んでいた。
カイトが踏み込む。
銀の刃。
最小動作。
暴走した黒い魔力を、正面から断ち切る。
轟音。
衝撃で、地面が砕けた。
だが。
「っ……」
カイトが、表情を歪める。
黒い魔力が、際限なく溢れ続けていた。
止まらない。
斬っても。
崩しても。
再生する。
「教官!!」
レオンが叫ぶ。
次の瞬間。
黒い衝撃が、一気に炸裂した。
カイトの身体が、大きく後退する。
「カイ先生!!」
エリシアの声。
黒いコートが裂ける。
血。
それでも。
カイトは倒れない。
灰色の瞳だけが、静かにグランベルを見据えていた。
「……核か」
低い呟き。
暴走した黒い魔力の中心。
グランベルの背後。
脈動するように、黒い結晶が浮かんでいた。
まるで。
心臓みたいに。
嫌な音を立てている。
「……ぁ……」
グランベルが、苦しげに呼吸を乱す。
黒い侵食が、首元まで広がっていく。
『壊せ』
『奪え』
『殺せ』
黒い声。
グランベルの呼吸が乱れる。
だが。
「まだです……!」
掠れた声。
「まだ……飲まれる訳には……!」
次の瞬間。
暴走した黒い魔力が、一気に周囲へ炸裂した。
「っ――!!」
騎士の一人が吹き飛ぶ。
血。
悲鳴。
「が……っ……」
地面へ叩き付けられた騎士へ、
黒い侵食が広がっていく。
騎士たちの顔色が変わった。
「離れろ!!」
「グランベル様!!」
グランベルの瞳が揺れる。
「……ぁ」
守る為に使った力で。
守るべき人間を、傷付けた。
『もっと壊せ』
黒い声が笑う。
黒い侵食が、さらに身体を這い上がっていく。
グランベルの身体が、僅かに震えた。
「……カイト、レイヴン」
掠れた声。
それでも。
まだ完全には折れていない。
「……止めて、ください」
その瞬間。
暴走した黒い魔力が、再び大きく膨れ上がった。
レオンが目を見開く。
まだ。
意識が残っている。
だが。
『殺せ』
黒い声。
グランベルの身体が、再び暴走する。
轟音。
巨大な黒い奔流が、一気に放たれた。
カイトが剣を振るう。
だが。
押し切れない。
「っ――!」
衝撃。
地面が抉れる。
レオンが息を呑んだ。
押されている。
あの教官が。
その時。
「……ルーメリア」
低い声。
ルーメリアが顔を上げる。
肩の傷が痛む。
それでも。
翡翠色の瞳は、まだ死んでいなかった。
カイトは、真っ直ぐ彼女を見る。
「手を貸してくれ」
一瞬。
ルーメリアの呼吸が止まる。
勇者としてではない。
器としてでもない。
ただ。
ルーメリア・セレスとして、必要とされた。
「……はい」
静かな返答。
でも。
迷いは無かった。
銀色の魔力が、静かに広がる。
結界術式。
幾重もの光が、暴走した黒い魔力を拘束していく。
「レオン」
「……はい!」
レオンが、反射的に顔を上げる。
灰色の瞳。
静かな視線。
「行けるな」
一瞬。
レオンの呼吸が止まった。
今まで、何度も下がれと言われた。
守られてきた。
でも。
今は違う。
「……当然!!」
地面を蹴る。
一直線。
暴走する黒い魔力の中へ飛び込む。
轟音。
剣圧。
レオンの斬撃が、黒い奔流を押し返した。
「教官!!今です!!」
だが。
黒い魔力は止まらない。
核へ届かない。
その瞬間。
「……っ」
エリシアが、ふらつきながら前へ出た。
「エリシアさん!?」
レオンが目を見開く。
エリシアは、苦しそうに呼吸を乱しながら、
黒い核を見つめていた。
「……分かります」
掠れた声。
「まだ……聞こえる」
黒い魔力が、エリシアの周囲へ集まっていく。
『壊せ』
黒い声。
でも。
エリシアは、震えながら顔を上げた。
「グランベルさん……!」
一瞬。
暴走した黒い魔力が揺れる。
「もう、苦しまなくていいんです……!」
黒い核が、僅かに軋む。
カイトが踏み込む。
最速。
銀の閃光。
次の瞬間。
剣が、黒い核を貫いた。
黒い魔力が、一気に崩壊していく。
暴風が止む。
空気が静まる。
黒い侵食が、少しずつ剥がれ落ちていった。
「……ぁ……」
グランベルの身体が揺れる。
倒れる。
その身体を、カイトが静かに支えた。
数秒。
静寂。
やがて。
グランベルが、ゆっくり目を開ける。
「……私は……」
掠れた声。
カイトは答えない。
ただ。
静かにグランベルを見ていた。
グランベルは、苦しそうに目を伏せる。
「……結局」
小さな笑み。
「あなたの方が、正しかった」
「違う」
即答だった。
グランベルが目を開ける。
灰色の瞳。
そこにあったのは、怒りではなかった。
「まだ終わってない」
低い声。
「だから、勝手に終わらせるな」
グランベルは、小さく目を見開く。
そして。
初めて。
少しだけ、
力の抜けたように笑った。
読んで頂き、ありがとうございます。
もし少しでも続きを読みたいと思って頂けたら、
フォローや評価を頂けると嬉しいです。