元勇者の俺は、魔王になった教え子を救いたい 作:ななひゃく2802
第34話 また、泣いてるんですか
教会地下。
古い石階段を、一行は静かに降りていた。
湿った空気。
冷たい石壁。
足音だけが、やけに大きく響いている。
誰も、ほとんど喋らなかった。
レオンは、前を歩くカイトの背中を見ていた。
三百年前。
五代目勇者。
魔王。
救えなかった。
聞きたい事は、山ほどあった。
でも。
今のカイトへ、軽々しく踏み込める空気ではなかった。
ルーメリアは、胸の奥の違和感を押さえていた。
地下へ近付くほど。
妙な感覚が強くなる。
懐かしいような。
気持ち悪いような。
知らないはずなのに。
ずっと昔に、ここへ来た事がある気がした。
「……ルーメリアさん?」
エリシアが、小さく声を掛ける。
「顔色、良くないですよ?」
「……大丈夫です」
静かな返答。
だが。
翡翠色の瞳には、隠し切れない不安が滲んでいた。
カイトは、小さく呼吸を吐いた。
その息は、僅かに掠れていた。
やがて。
長い階段の先に、巨大な扉が見えた。
黒い封印術式。
古びた紋章。
そして。
無数の傷跡。
まるで。
何かを閉じ込め続けてきたみたいに。
「ここ、か……」
レオンが息を呑む。
カイトは答えない。
扉へ手を伸ばしたカイトの呼吸が、微かに乱れた。
その瞬間。
ルーメリアの胸が、強く痛んだ。
「っ……」
視界が揺れる。
夕焼け。
崩れた街。
知らない少女の笑顔。
『きっと、なんとかなります』
明るい声。
次の瞬間。
世界が黒く染まる。
「ルーメリアさん!」
エリシアが支える。
以前みたいに、自分の呼吸まで乱れる事は無かった。
ルーメリアは、荒い呼吸を繰り返した。
「……今、また……」
夢。
あの少女。
どうして。
こんなにも胸が苦しいのか。
カイトの手が、静かに止まる。
灰色の瞳が、僅かにルーメリアを見る。
だが。
何も言わない。
数秒の沈黙。
やがて。
重い音を立てながら、
封印区画の扉が開いた。
冷たい空気が流れ出す。
そこは、巨大な記録庫だった。
無数の石碑。
古い羊皮紙。
砕けた剣。
朽ちた外套。
そして。
壁一面に刻まれた名前。
勇者。
そして。
その隣に並ぶ、歴代魔王の名。
ルーメリアの視線が、引き寄せられた。
『カイト・レイヴン』
――そして。
その隣。
『ノエル・レイヴン』
レオンが目を見開く。
「……レイヴン?」
その時。
部屋の奥で、淡い光が揺れた。
誰も触れていない。
なのに。
古い記録装置が、静かに起動していた。
「……なんだ?」
レオンが警戒する。
だが。
ルーメリアだけは、動けなかった。
光を見た瞬間。
胸の奥が、酷く熱くなる。
頭の奥へ、誰かの声が響いた。
『また、泣いてるんですか?』
明るい少女の声。
ルーメリアが目を見開く。
「……え」
ルーメリアが、震える声を漏らす。
次の瞬間。
光が、一気に溢れ出した。
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