元勇者の俺は、魔王になった教え子を救いたい   作:ななひゃく2802

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第41話 僕が守る

 白い粒子が、静かに空へ消えていく。

 

 誰も動けなかった。

 あまりにも静かだった。

 

 世界を救ったはずなのに。

 どうしてこんなにも、救いが無いのか。

 

 アルディウスだけが、そこへ残されていた。

 伸ばした手。

 掴めなかった指先。

 灰になって消えていく光。

 

「……アステリア……」

 

 声は、もう返ってこない。

 暖かな風だけが吹く。

 その時。

 世界が、ゆっくり揺らぎ始めた。

 記録が終わろうとしている。

 

 アルディウスは動かない。

 ただ。

 何も居なくなった場所を、静かに見つめていた。

 やがて。

 掠れた声が落ちる。

 

「……残った」

 

 誰へ向けた言葉でもない。

 

「悪意が」

 

 ルーメリアが息を呑む。

 アルディウスの視線の先。

 世界の奥。

 黒い何かが、まだ蠢いていた。

 侵食獣は消えた。

 だが。

 悪意そのものは、消えていない。

 空気の奥で、静かに脈打っている。

 

「……そんな」

 

 レオンが顔を歪める。

 

「あれだけやっても、終わってねえのかよ……」

 

 アルディウスは答えない。

 ただ。

 静かに空を見上げていた。

 

「……君が、全部抱えたから」

 

 震える声。

 

「世界は、まだ保っている」

 

 ルーメリアの胸が痛む。

 理解してしまった。

 アステリアは。

 悪意ごと、自分へ引き受けたのだと。

 だから。

 消えた。

 アルディウスが、ゆっくり目を閉じる。

 その表情は、壊れそうなほど静かだった。

 

「……でも」

 

 掠れた声。

 

「これじゃ、いずれ滅ぶ」

 

 その瞬間。

 世界の奥で、黒い悪意が脈動した。

 空間が軋む。

 レオンが息を呑む。

 

「っ……!」

 

 まだ終わっていない。

 アステリアが居なくなっても。

 悪意は、世界から消えない。

 アルディウスは、小さく拳を握る。

 その指先が、微かに震えていた。

 

「……忘れない」

 

 静かな声。

 

「君が笑って、守ろうとした世界を」

 

 黒い術式が、空間へ浮かび上がる。

 ルーメリアが目を見開く。

 複雑な紋様。

 見ているだけで、

 胸がざわつく。

 

「悪意を流す」

 アルディウスが、

 ゆっくり顔を上げる。

 

「人が、壊れ切らないように」

 

 術式が脈動する。

 空気そのものが、書き換わっていくみたいだった。

 

「勇者を繋ぐ」

 

 低い声。

 

「器を作る」

 

 空気が震える。

 カイトの灰色の瞳が、静かに細められた。

 

「……これが始まりか」

 

 掠れた呟き。

 アルディウスは、震える息を吐いた。

 

「……君が守りたかった世界は」

 

 涙の残る瞳。

 なのに。

 もう戻れない人の目だった。

 

「僕が守る」

 

 その瞬間。

 ルーメリアの胸へ、激痛が走った。

 

「っ……!」

 

 エメラルドグリーンの瞳が揺れる。

 頭の奥で、誰かの声が響く。

 

『泣かないで』

 

 優しい声。

 アステリア。

 次の瞬間。

 世界が、一気に白く染まった。

 

 




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