全てにおいて妄想の産物です。おかしな点は見逃して頂けると幸いです。
pixivにも同タイトルで投稿しております。
「話し合おう」
それは、いつだったか保留にした問題。僕は授業にいかなければならず、ロッキーはエイドリアンの睡眠を見守る必要があった。故にこの問題は、先延ばしにされた。
「ああ。ぼくらには話し合いが必要だ」
それは、つまり、『ぼくが地球に帰るのか否か』という問題だ。
以前、ソルが……太陽が元に戻る前までは、ぼくは地球に帰らないつもりでいた。5年半の孤独に耐えたところで帰ったところでとんでもないことになっている可能性だってあったから。だが、今は違う。太陽は元に戻った。地球は勝利した。ぼくの故郷は無事だ。帰ればぼくは英雄として称えられる。……そして、ロッキーとは永遠の別れになる。
「ぼくの考えは変わらない。ぼくはきみにここにいてほしい」
真っ直ぐにぼくの『目を見た』――正確にはぼくの顔のあたりを見上げたロッキーが言う。
地球に帰れば、英雄だろう。ぼくの教え子達は生きているはず。友人は……どうだろう。地球では71年が経っている。ぼくが戻った頃には84歳だ。ぼくは……戻ったときにはだいたい60歳ぐらいかな?
ここに留まったとしよう。エリディアンはぼくのことを歓迎してくれているし、この宇宙で最も仲の良い友人であるロッキーもここにいる。あのアパートには帰れないが、ここにだって『家』はある。
ロッキーとともに地球に帰るか?配偶者のエイドリアンも一緒に。そう考えたこともあったが……やめた。地球人はときにはともに協力できるが、それが良い方向に行くだけとは限らない。みんなで『協力』してロッキーやエイドリアンにひどいことをするかもしれない。
それらを総合したぼくの答えは、つまり――。
「ぼくは……ぼくは、ここに留まる」
「それは……」
やや高い声。だが、ロッキーはそれ以上の言葉を紡がない。
「……それは、ぼくが引き留めたから?」
先ほどより低い声で、彼が問いを投げかけた。ああ、優しいロッキー!きみはぼくの決断を、きみだけの責任として背負おうとしているのか。だが、それは違う。決して、違う。
「ノー。ぼくもあれから、沢山考えた。考えた上で出した結論が、こうだ」
食糧の問題は概ね解決している。ただ、ぼくが一定時間を孤独に過ごすことにかわりはない。あの日、ロッキーを助けに戻る必要がなかったとして、ぼくは無事に地球に辿り着けたか?答えは、半々だ。
「いいのか?」
「ああ。これでいいんだ」
もうぼくも約53歳。リスクを取って地球に帰るには、少々歳を取りすぎた。エリドへの愛着も、かなり湧いてしまったことだし。それに……多分、あの頃以上にぼくは孤独に耐えられなくなってしまった。
数日後。ぼくの家のドアにノックの音が響く。
ミーティングルームのキセノサイトの壁越しではなく、あの宇宙での日々を彷彿とさせる、キセノサイトのボール越しのロッキーだ。
ぼくはエリドに残ることにした。それを聞いて、そしてぼくが足を悪くしていることを気にして、ロッキーが贈り物をくれることになっていた。
「グレース」
「おはよう、ロッキー」
いつもと同じ調子の声……訂正。少しだけ声が低い。まだ気にしているのだろうか、ぼくがここに残ると決めたこと。つまり……故郷に帰ることを『諦めた』ことを。
「言っておくが。ぼくはあの日、きみを助けに行ったことを後悔した瞬間は一度もない」
「一度も?」
「ああ。壊血病で全身痣だらけになった時も、脚気やらウェルニッケ脳症やらで”より愚か”になっていたときでさえも」
「それはなぜ?」
おいおい、それをぼくに言わせるのか、きみは。
「決まってる。きみが友達だから。あの宇宙で偶然巡り会って、死線をくぐり抜けた友達を、見捨てられるわけがない。……きみが、ぼくのためにあれこれ作ってくれるのと同じだ」
そう言いきって、ぼくはビタミン強化ソーダを飲む。良薬口にすっぱし、だ。ただ、これのおかげで健康になれると思えば、多少すっぱいことぐらいどうってことはない。現にここ最近は歯を磨いたって歯茎から血が出ることはない。地球にいた頃はたまにあった。あちこちにガタが来ているとはいえ、栄養バランスは地球にいた頃よりずっと良いものを食べていると自覚している。
「ひょっとするとぼくは、地球にいたときよりも健康かもしれないな?」
少しばかり重い空気を明るくしたくて、そんな事を呟いた。
「グレース、健康。しあわせ!しあわせ!しあわせ!」
ここ最近のロッキーにしては珍しく、あの頃のような話し方だ。余程嬉しいのだろう。いけない、懐かしさで『水洩れ』しそうだ。
「ああ。そう言ってくれて嬉しい。さて、そろそろ本題に入ろう。きみの持っている『贈り物』をよく見せてくれ」
『贈り物』の見た目は、実験室に置いてある人骨模型にそっくりだ。
老エリディアンも身体にガタが来ることがあるらしい。そんな彼等が歩行の補助に用いる補助外骨格がある。そんな話を、以前ロッキーから聞いた。つまりこれは、それの地球人バージョンだ。ロッキーが作ってくれたのなら、きっとうまく働く。
「エリドに暮らし続けるなら、きっと役に立つ。それから……」
「それから?」
「EVAスーツよりは着やすいと思う」
「そりゃあいい!」
装備品において、つけやすいか否かはとても重要だ。