小説版も映画版も混ざっています。
本編終了直前の時間軸なのでネタバレを含みます。
全てにおいて妄想の産物です。おかしな点は見逃して頂けると幸いです。
pixivにも同タイトルで投稿しております。
Side:グレース
「幽霊とは何、質問?」
エリドへ向かう途中、たまたま選んだ映画がホラー映画だった。いわゆるB級ホラー。地球にいた頃はそこそこ好きだったような気もするが……"本物"を知ってしまった今では、そんなに恐怖を感じない。
「幽霊の話をする前に魂の話をしよう」
「魂」
「きみからしたぼくは『ぶよぶよの塊』だろうが、そんなぼくにも意識がある。科学的に正しいことを言うとこの意識の正体は脳の電気活動だが……科学が未発達な頃は、人間には肉体を動かす何かがあると信じられてきた」
ほんの少しだけ正確ではない。科学が発達した今だって、魂の存在を固く信じている人間はごまんといる。
「それが魂」
「そうだ。そして、人間の肉体が死んだ後も、この魂は残ると信じられている」
エリドではどうかはわからないが、少なくとも地球において宗教を信じるのは人間だけだ。死を恐れるのは、人間だけだから。
Side:ロッキー
「……幽霊は非科学、質問?」
「そうだな。……少なくとも、今の科学では」
グレースの言葉に、含みを感じた。きみは幽霊を信じるのか?と聞きたくなった。けれど、グレースが"悲しい"音をしていたので、違う事を訊くことにした。
「どんなときに"幽霊"をみる、質問?」
「そうだな……例えば、玄関から物音がしたとき。だいたいの場合はものが倒れただけだとか、そういう理由があるが……メイトを亡くした後だったら、幽霊を感じるかもしれない」
想像する。
メイトを亡くしたエリディアン。作業をしている最中に、ふと玄関で物音が聞こえる。エリディアンは……ああ。あり得ないとわかっていても、メイトの帰還を、感じるかもしれない。それが、幽霊。
「了解した」
「何よりだ」
思い出す。ぼく以外のクルー全員が放射線の病で倒れた船を。あの船で、ぼく以外の物音は一切なかった。……きみの船の存在を知らせる、アラートの他には。
「きみは幽霊になる、質問?」
……我ながら、直球過ぎることを尋ねてしまった。
Side:グレース
「ぼくが幽霊にか……なれたとしたら、きっと素敵だな」
「何故」
"質問"というよりは困惑だろうか。ぼくも段々エリディアン語のニュアンスがつかめてきた。
「幽霊には肉体がない。肉体がなければ火傷もない。幽霊のぼくはきっと、キセノサイトの防壁なしにエリドを自由に歩ける」
せっかくの異星だ、隅々まで観察したいじゃないか!……最も、幽霊の肉体では機器の操作はできないのでただの観光になってしまうわけだが。
「決めた。ぼくも幽霊になる」
「え?」
「幽霊になれば、いつでも仲間の眠りを見守れる。肉体がなければ猛毒の酸素も、著しく低温なぶよぶよに触れることも問題ない」
ああ、なるほど。ぼく(幽霊)が"生身"でエリドを歩けるように、ロッキー(幽霊)は"生身"で地球を歩けると。
「お互い幽霊になればきみを地球の観光に連れ出すことも簡単なのか」
パスポートも入館料もなしにあらゆる観光地へ行き放題だ。星を跨ぐ幽霊とは、随分と壮大な夢ができてしまったな。
「エイドリアンにも幽霊になってもらう。そうすればどこにいても一緒」
「そりゃあいい!それが叶うまでは、ハグもフィストバンプも壁越しだ」
きみには話していないが、幽霊には別の側面がある。……自分の死への恐怖の緩和だ。もしかするとぼくはエリドに来てすぐに死ぬかもしれない。死なずに済むなら死にたくはないが、それすら了承の上でぼくは踵を返したわけだ。
オーケー相棒、もしぼくが幽霊になったら、どうにかしてぼくの声を聞ける機械を作ってくれ。きみに作れないものはない、そうだろ?