エリドの日常、あるいは非日常   作:yama娘

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基本は映画版準拠(一部小説版の設定込み)です。
本編終了後の時間軸なのでネタバレを含みます。
二次創作です。全てにおいて妄想の産物です。おかしな点は見逃して頂けると幸いです。
pixivにも同タイトルで投稿しております。


寝言十夜

 エリドのぼくの家にもモニターが設置されている。

 お互いの予定が合うとき、ぼくとロッキーで映画を見ることがある。今日はそんな日だった。

 夢日記を付けたことで夢の世界のおばけが現実に現れる……まぁ俗に言うB級ホラー映画だ。ロッキーは時折「寝ないからこうなる」とぼやきながら見ている。

 ふと、ロッキーからの視線(注:あくまでも比喩)を感じた。

「夢日記をつけると人間はこうなる、質問?」

「流石におばけはでないと思うが……夢と現実の境界がわからなくなる、とは言われているな」

 だからあまりやらないほうがいい、らしい。残念ながらぼくは日記をつけられるほど夢の記憶を保持できる人間ではないので試したことはない。

「謝罪、謝罪……ぼくは夢日記をつけたことがある」

 なんだって?ロッキーの夢日記……待てよ?

「きみたちエリディアンの眠りは夢を見ないんじゃ」

「グレースの夢日記。正確には寝言日記。ヘイル・メアリー号の中でのこと」

「ワオ……日記はどこに?」

「読みたい、質問?」

「是非読みたい!」

 ぼくが自分でつけた日記ではないんだ、現実と混在することもなかろうし。

 

 

「本当に現実と混同しない?」

「しないさ。自分で日記に付けるからそうなるのであって、時間が経ってから寝言を見たところで何の問題もないよ」

 グレースの言葉に嘘はなさそうだ。彼は時々、自分の好奇心だったり本心を隠したいとかだったりで嘘をつくことがあるが、この声色は唯々興味が強いだけの声だ。

 この”日記”を開くのは、ヘイル・メアリー号にいたとき以来だ。1P目は、”釣り”の後。ぼくが目覚めた後、グレースの眠りを見守っていたときのことだ。

『待ってくれ、エイドリアン……シャツの猫に餌はいらない……』

「この当時、きみはまだエイドリアンに会ったことがなかった」

「ああ、これは……確か夢のなかのエイドリアンはあの……海岸の岩ぐらいあった」

 グレースが指を指した先。そこにあったのは、グレースが「崖だ!」とはしゃいでいた岩。

「オーゥ、巨大」

「惑星の方のエイドリアンに影響されていたらしい」

「そうだな」

 確かにぼくのメイトはぼくよりも大きいが、流石にあそこまでは大きくない。

 

 

「これは寝言というより寝ぼけ言だが」

 ロッキーがそう言って見せてくれたのは、ぼくからするとあまりにもなじみ深い……いや、ぼくだけではない。大学を卒業した人間に共通するであろう、なじみ深い悪夢の寝言だった。

『うわああああ!!!……ああ、なんだ……とれてたんだ、単位……』

「ぼくはとてもおどろいた」

「それはごめん、だけどまぁ……定番の悪夢だよ……単位を落として卒業できない夢は……」

 そうだ。まさか宇宙でも見るとは思わなかった。単位を落として卒業できない夢と、試験内容が難しすぎて解けない夢。社会人になってもぼくらを悩ませる2大悪夢と言っても過言ではないね。

「定番」

「この前はここでもその悪夢で飛び起きた」

「初耳だ」

「医療班に2時間ほどメディカルチェックされたよ……」

 誓ってぼくは健康だ。

 

 

 これは一番理解しがたい寝言だった。

『やめろ……やめろ、ロック……ふえるな、ふえるな……!!』

「ぼくは増えない」

 そうだ。ぼくは増えない。卵は生まれるが、それは”ぼく”ではない。

「現実のぼくに言われてもな……。夢というのは記憶の整頓だという話は前にしたよな?」

「された」

 ”夢”の意味は二つ。一つは将来の希望。もうひとつは、人間が眠りの最中に行う記憶の整頓。いまぼくらが話している”夢”は、全て後者の意味だ。

「この頃のぼくはアストロファージやらタウメーバやらを増やしていた。あれらは分裂して個体を増やす」

「異議なし」

「で、同時にぼくはきみという新たな出会いを得た。するとぼくの脳はどうするか?その情報を整頓しようとする」

「……まさか」

「そう。この二つを同時に処理した結果うまれたのが、まさかの分裂するロッキーだ」

 アストロファージやタウメーバのようにふえるぼくを想像した。……いやだ……。

「……夢の中で舟が傾いて軋んだのはよく覚えている……普通に悪夢だった……」

 遠い目をして、グレースが呟いた。

 この寝言が記録されたのは、グレースがぼくの元へ戻ってきてくれたあと。エリドに向かう道中でのこと。だからこそなおのこと、”舟が軋んだ”恐怖はすさまじかっただろう。

 

 

「きみは寝る時間。ぼくは見守る」

「いいのか?」

「地球時間でひと晩泊まることはエイドリアンにも言ってある」

 なら、久々に見守られながらの睡眠といこうか。

 いやはや、それにしても。

「きみたちの眠りと比べればぼくの眠りはずいぶんとやかましかろうな」

「眠りながら動けると言うだけでも驚愕した」

 寝返り。確かにきみの”見守り”が始まった頃にされた質問攻めのなかに、寝返りの話もあったっけな。

「じゃ、おやすみ、相棒」

「おやすみ、グレース」

 今夜は夢を見るだろうか。そしてロッキーの”寝言日記”は更新されるだろうか。

 ああ、そうだ。メアリー。メアリーの内部には、もしかするとロッキーと出会う前のぼくの寝言が記録されていても、おかしくないな……ロッキーはメアリーと仲が良いし…………。

 そんなことを考えつつ、ぼくの意識は眠りにさらわれるのであった。

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