エリドの日常、あるいは非日常   作:yama娘

2 / 12
小説版準拠です。本編中(終盤)時間軸なのでネタバレを含みます。
全てにおいて妄想の産物です。おかしな点は見逃して頂けると幸いです。
pixivにも同タイトルで投稿しております。


グミサプリ

Side ロッキー

 

「グミが良いかもしれないな」

 相棒のグレースがそんなことを言い出した。

 彼は今、試作品(そしてグレースの治療のために必要)の水溶性ビタミン液と脂溶性ビタミン液の『治験』中だ。そしてぼくは治験をみる必要がある。……ほとんど食事をみるようなものなので、プライバシー保護のためにこの部屋にはぼくとグレースしかいない。ぼくは……下品だが、既にヘイル・メアリーでグレースの食事をみてしまっているため……。

 とにかく、ぼくは食料をたくさん持っていた。グレースは持っていなかった。だからグレースはタウメーバを食べた。……病気になった。悪い、悪い病気。治し方もわかる病気。けれど、ヘイル・メアリーの中ではなにもできなかった。エリドについてから、科学エリディアンが『ビタミン』の合成に成功して、グレースはギリギリ間に合った。それで、そう。

「グミとは何、質問?」

「グミっていうのは、あー……普通は果物の味がするお菓子のことなんだが、今ぼくが言いたいのはグミのようなサプリメントだ」

「サプリメント」

 知らない単語がたくさん出てくる。ヘイル・メアリーの中では聞かなかった単語達。ぼくらはきっと、グレースの全てを知ることはできない。それでいいのかもしれない。悪いかもしれない。少なくとも今は悪い寄り。

「つまり、普段の食事が雑だったりする人間がそれを補うための薬だ」

「なぜグミの形、質問?」

「味と食感だろうな。それも、ぼくがグミサプリを提案した理由だ」

 グミサプリ。グミとサプリメントの合成語と推測。ぼくもかなり『英語』がわかるようになってきた。『英語』に関してならエリドではグレースの次に詳しい、と思う。多分。

「ぼくはここのところタウメーバのバーとビタミンの液体しか飲んでいない。つまり、顎が弱る」

「悪い」

 弱る。それは、悪い。ただでさえグレースは長くてあと60年ほどしか生きられない。グレースはぼくらの基準だと『こども』のうちに死ぬ。悲しいが、仕方がない。グレースはエリディアンではないから。だからせめて、少しでも早く、そして長く『良い』状態にしなければならない。急務。

「グミの本はあるか、質問?」

「お菓子作りのページなら……あった。この作り方でグミサプリになるかは、わからないが」

「尋ねてみる」

 科学エリディアンならなんとかできるかもしれない。その上で、機械が必要となったら、ぼくの出番になる。

 

 

Side グレース

 ロッキー達エリディアンは、とても良くしてくれている。そもそもぼくがいる『ここ』はエリディアンにとって猛毒の酸素がたっぷり21%あるし、地面の砂も重金属を全く含まないように加工されたものだ。

 そして彼らの食料を全く口に出来ないぼくに、彼らはとても良くしてくれた。ぼく用の『ビタミン液(β版)』は現在進行形で改良中だ。以前炭酸をリクエストしたから、次はソーダがくるかもしれない。

 だからこそ……少しばかり気が重い。

「グレース、暗い表情。問題が、質問?」

「ああ、大したことじゃないんだ。大丈夫」

「大丈夫そうに聞こえない」

 しまった、彼らはぼくなんかよりずっと耳が良い。ぼくが『つとめて明るく、なんでもないように』振る舞ったところでバレバレだ。ここは白状するしかないか……。

「その、申し訳ないな、と思って」

「なにが」

「きみらは、その、ぼくのためだけにかなりのリソースを既に裂いてくれている。ぼくのためのタウメーバ食、ぼくのためのビタミン液。それから、ぼくのためのクローン技術」

 ロッキーは静かに聞いている。もし彼に首があれば、小さく頷いていたかもしれない。

「そこに、さらに『脂溶性ビタミン液をグミサプリにしてくれ』と、ぼくはわがままを言っている。きみらは更にぼくにリソースを裂かなければならない。……それが、申し訳ない」

「グレース、まだ"より愚か"」

「なんだと?」

「グレース、ぼくの親友。ぼくの相棒。大火傷と餓死のリスクを負って、ぼくを助けた」

「きみだってぼくのために『大火傷』を負った」

「そしてきみはぼくら全員を救った」

 真剣な声色。それこそ、宇宙にいたときぶりに聞いたかもしれない。それほどに彼は、真剣だった。

「エリディアン、きみを助ける。当然。ぼくは、きみに生きてほしい。当然。きみは、生きたい、質問?」

 ああ、そうだ。そうだったな、戦友。

 鎮痛薬が底を尽きたときも、宇宙船の中で壊血病の症状が現れはじめたときも、エリドに来てボロボロの身体に重力がのしかかって関節と骨が悲鳴を上げたときも、ぼくは一度も『死んだ方がマシだ』なんては言わなかった。それは――。

「生きたい」

 地球にいたときから今の今まで、1度たりとも、ぼくは、死にたくなんかなかったからだ。

「良い、良い。助ける」

「……ありがとう」

 ああ、ロッキー。きみは間違いなく、今まで生きてきた中で一番ぼくをわかってくれる友人だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。