本編終了後の時間軸なのでネタバレを含みます。
全てにおいて妄想の産物です。おかしな点は見逃して頂けると幸いです。
pixivにも同タイトルで投稿しております。
グレース視点とロッキー視点が交互に来ています
白状しよう。
ヘイル・メアリー号での『不摂生』とエリドに来てからの重度ビタミン欠乏症に伴う安静によって、ぼくの概日リズムは崩壊した。
やむを得ないだろう!そもそも人間の概日リズムは(詳しい理由はさておき)24時間ではない。確か25時間ほどだったかな?それを太陽光でせっせと修正している。……地球に太陽光がある限り。
対して、ヘイル・メアリー号。太陽光のかわりにタウ光はあったが……基本、船内は明るい。停電でもしない限り、船内は寝ても覚めても明るかった。そして常に物音がした。最も、病院の集中治療室よりは寝やすかっただろうが。
エリドに来てからの2、3年は本当にひどかった。エリディアン達はとても頑張ってくれた。何せ太陽光なしにビタミンの合成をやってのけた。地球人が知ったら学会がひっくり返ること間違いなしだ。だが、それでも……1度欠乏したビタミンは、補充がはじまってもしばらく欠乏したまま。それが満たされて初めて身体の症状が減る。抗いがたい倦怠感と末梢神経障害による手足のしびれは……本当にひどいものだった。とはいえ、心不全には至っていなかったので『最悪』は免れた。エリドにもヘイル・メアリー号にもさすがに利尿薬はないので。
つまり何が言いたいか?
「グレース、寝る!」
「だから、眠れないんだ!」
……この心配性な相棒に、ぼくの概日リズムの崩壊がバレてしまった。
「不思議」
「そうだな、ぼくも不思議な気分だ」
グレースの身体が『地球日』を理解しなくなってしまったので、それを治すための方法を本やラップトップで調べた。そこで出てきた『治療法』の一つ:夜更かし。いっそ丸一日ほど徹夜して身体をへとへとにさせる、というもの。
「有効ではないかもしれないな」
「それはどうして?」
「ほら……ぼくってば30時間ほど徹夜してたりしたから、ヘイル・メアリー号で」
「愚か」
「おいおい!あの環境で早寝早起き朝ごはんができるのは相当な『良い子』だけだろ!」
一理ある。し、グレースもそこまで怒っていない。あくまでもジョーク。ある種の戯れだ。
「とはいえ……朝に日の光を浴びるは行っているし、睡眠薬は今すぐにはない。すると、まずはこの夜更かし作戦からやってみるしかないな」
「手伝う」
そういう訳ではじまった。ぼくとグレースの、『プロジェクト・寝るための夜更かし』。
「さて、何をしよう?」
「ぼくが来なければきみは何をするつもりだった?」
「明日の授業の用意」
本当に楽しそうにグレースが言う。この地球人は『考えること』『計算すること』『他人にものを教えること』がとにかく大好きだ。思えばぼくと最初に出会ったときだってぼくが必死に説明しているのをほっぽり投げて『計算』をしに自分の船に帰ってしまったことがあった。あれはまぁ、興奮していたからというのもあるらしいが。
ふと、彼が授業で使っているキーボードの一部のキーが少し、ほんの少しだけ歪んでいるのが見えた。よく使う部分だ、ちょっとずつ摩耗してしまったのかもしれない。なにしろこれはラップトップをアレンジしたものだから、エリディアンのぼくからすると『ちょっと脆い』のだ。
「ぼくの仕事道具になにか?」
「やや摩耗を見つけた。直しても?」
「勿論!」
許可が出たのでグレースを見守るのと同時に彼の仕事道具を直すことにした。ぼくはエイディアン。並行作業の方が得意。
「思えば、ロッキー。きみたちはかなりぼくによくしてくれているが、ぼくらだけで何かをするのはあの頃以来じゃないか?」
「たしかに。だが、あの頃と違う所がある」
「なんだ?」
「この共同作業は、多少ヘマをしても死なない」
思わず笑うぼく。
「本当にその通りだ!あの頃の共同作業はどれもこれも一歩間違えれば死ぬものばかりだったな」
本当に死ぬかと思ったことが何度もあった。エイドリアン(惑星)の引力にひかれて墜落しそうになったこともあったし、燃料タンクが破損して大変な事になったこともあった。肺が潰れたりしてもおかしくなかった。……ロッキーが、助けてくれた。
「そんな状況を乗り切ったんだ、きみの身体が地球時間を忘れたこともなんとかなる」
「ああ、きっと」
本当に最終手段として『ぼくが寝るときに暗くすることでそこを新たな夜の基準にする』というものも考えついたが……まぁ、これがうまくいかなかったときにとっておこう。どんな計画にもバックアップは大事だ。『バックアップ』のぼくが言うんだから間違いない。ああ、後半は口にはしないでおく。多分ロッキーに怒られるので。
「よし、こんなところかな。そっちはどうだ?」
「まもなく完了する。それで、このあとはどうする?」
……そうだった。ぼくらは今日は夜更かしをするのだった。ロッキーが来る前に食事は済ませていたので、あとできることといえば……ううん、映画はロッキーが十分に楽しめないだろうし……お。
「それは?」
「オーディオブック。つまり、あー……プロによる本の朗読だ。これならきみも『本を聴く』ことができる」
「良い!」
さて、どの本にしようか……。
「思うに、作者のシェイクスピアは寝不足だった」
「そりゃどうして?」
「こんなに長々と『睡眠』を称えているし、それに……寝不足で"愚か"な人間を書くのが上手」
「……まさかこんな遠く離れた異星の地でシェイクスピアの寝不足を案じる日が来るとは……おっと!目覚ましの音だ」
たっぷりひと晩、本を聴いた。そして、感想を言い合った。『目覚まし』が鳴る直前に聞いていたのは、シェイクスピアという地球人が大昔(400地球年。ぼくからすれば「一昔前」ぐらい)に書いた「マクベス」という劇の台本だ。
そしてゆっくり支度をしたグレースは(やや愚かな状態だが)仕事に行った。こればかりは仕方ない。あの調子では、帰った頃にはヘトヘトだろう。それが多分、この治療法の狙いだ。
思えばあの頃、30時間以上寝ていなかったグレースは寝坊して遅刻した。2時間も遅れた。……ぼくがもう少しあの頃から生活リズムを管理しておくべきだったか?
それからは、授業が終わるのを待った。ぼく自体の仕事は休みにしているし、エイドリアンにも『1地球日以上グレースの元にいる』という話はしてある。
なぜ?決まっている。グレースのことだ、ヘトヘトになって帰ってきて玄関で寝る、などという愚かなことをしかねない。この点において、ぼくはグレースを『信頼』している。やりかねない。ほんとうに。
その間、暇つぶしにぼくはグレースの人形を作ることにした。ものすごくたくさんできあがった。つまりグレースはそれだけの間、授業をしていたということだ。地球人は睡眠を我慢できるのは知っていたが、改めてすごいな。
外から足音。グレースだ。玄関まで迎えに行こう。
「……ワオ……ロッキーがいる……」
「おかえり、グレース」
「……ただいま……おやすみ……」
そらみたことか!思った通りグレースは玄関で寝た!全く、ここは宇宙船の中でもなければ0Gでぷかぷか浮いていられてる場所ではない。むしろ重力は地球より強いのだから床で寝れば身体を悪くするというのにい。
「おやすみ、相棒」
今日は久しぶりに、きみの睡眠をみていることにするよ。
すっきり目が覚めた。それはそれはもう、清々しく目が覚めた。いまは何時だ?
「おはよう。地球時間で朝の6時だ」
「ああ、おはよう」
清々しく挨拶を返した。
それで、朝の6時?そういえばぼくはどうやって寝たのだったか……思い出せない?ええと、落ち着け。ぼくはライランド・グレース。大丈夫、大規模な記憶喪失ではなさそうだ。
昨日は仕事をした、間違いなく。寝不足だったものだから計算ミスをして子ども達に指摘された。ぼくは指摘した子どもを褒めた。いいぞ、順調だ。そして仕事が終わって……家に帰って……ん?『おはよう』?
「待てロッキー!きみ昨日からずっとぼくの家に居るのか!?」
「今更すぎる」
「エイドリアンになんて言えば良いんだ……!」
「言ってから来ている」
なら、まぁいい、のか……?ロッキーにはエイドリアン宛にお礼の品でも持たせて帰らせないとな……。
「それで、どうだグレース。きみの身体は地球時間を思い出した?」
「恐らく……それこそ今日昼寝なんかしなければ、夜もぐっすり眠れるだろう」
ここ最近朝になると眠たくなって夜になるほど元気になっていた。少なくとも今朝のぼくは元気だ。
「なにより」
「ありがとう」
記念のフィストバンプをする。プロジェクトの成功にはフィストバンプが必要だ。
「『プロジェクト・寝るための夜更かし』は成功だ!」