自分が主人公じゃないことにようやく気付いた男は、流れ着いた片田舎で魔術を教える 作:栗色cc
男は魔術の天才だった。
周囲よりも早く魔術を覚え、強力に扱えた。
年が変わっても、魔術学院という場所に身を移して環境が変わっても、男の天才性は陰りを見せなかった。
すぐに男は将来を嘱望され、もてはやされる存在となった。
もしもこの世界が物語のようならば、自分は主人公である。
そう男は信じて疑わなかった。
調子に乗っていたのだ。
『——君は、特別じゃない』
そんなことを言われた。
言った人は男にとっての憧れで、魔術師の頂点に立つほどの凄い人だった。
酷くショックを受けたことを男は覚えている。特別が何を指しているのか、分からなかったけど男の事を否定している事だけは理解できた。
なんでそんなことを言うのだろうか、分からなくて、悲しかった。
『でも、彼は特別のようだ』
代わりに憧れの人が特別だと言ったのは、落ちこぼれの少年だった。
男とは違い、簡単な魔術を覚えるのにも一苦労、何をやるにも遅い落ちこぼれ。
――なんでこいつなんだ。
――どうして俺じゃないんだ。
――だって俺の方が優れている。
多分、元々男は落ちこぼれの彼が嫌いだったのだろう。
落ちこぼれなのに、才能は無いのに必死に食らいついてくる姿に。
そして何よりも、彼の周りにはいつも人で溢れていた。男ほどではないが才能に溢れる優秀な生徒も、彼と共にいた。
彼に劣ることなんてないはずなのに、何か劣っている気がして。
天才である自分には無いものを彼は持っている気がして。
だから嫌い、だったのだろう。
潜在的な嫌悪が、憧れの人によって掘り起こされたことで初めて男は醜い感情を把握した。
――ふざけるな。
怒りにも似た情動から男は憧れの人に反発した。
落ちこぼれに圧倒的な差をつけて勝利して、それでも足らずに研鑽を続けた。
やはり男は天才であり魔術の腕は留まることを知らず、ぐんぐんとやればやるだけ伸びていった。
落ちこぼれと差が開き続ける事で、憧れの人が言った言葉と怒りを忘れかけていた時の事だ。
その日は毎日のように、思いついた魔術を練習していた。
魔術の出来栄えに満足していた直後、突然大量のモンスターが強襲してきたのだ。
街の中で、モンスターが現れるはずが無かった。でも現れた。
たくさん現れた。
人を殺した。
たくさん殺した。
男は、何も出来なかった。
鍛えた魔術を使って出来る限りの人を助けたけれど、殺される数の方が圧倒的に大きかった。
そして自分もあっけなく命を落としそうになるとき、落ちこぼれの彼が現れたのだ。
彼は見たこともない不思議な魔法を使い、縦横無尽に空間を駆け、全員を助けた。
もちろん、男を含め。
『大丈夫?』
彼は心配そうに手を差し伸べてきた。
男を案じる言葉に、かつての憧れに言われた言葉が重なる。
『君は、特別じゃない』
『あの子は特別のようだ』
呪いのように一つの結論が空から零れ落ちる。
口と声をもって、かつての憧れと同じ否定を告げた。
『お前ではない』
そうして――男の心はぽきり、と折れた。
男は主人公《とくべつ》ではなかったのだ。