自分が主人公じゃないことにようやく気付いた男は、流れ着いた片田舎で魔術を教える   作:栗色cc

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第二話

「では、儂は戻らせてもらう。どうかこの子を、よろしく頼む、アーサー君」

「ええ、任せてください。夕食時までにはそちらに送らせていただきます」

 

 魔術を使えない村長はアーサーの家から去っていく。

 少し名残惜し気に、独りでに動いている物体をチラ見しながら。

 

「じゃあ、シズ。二階においで」

「は、はい!」

 

 シズはまだ緊張した様子だった。

 ピタリとアーサーの後ろを歩き、足を前に出す動きは固い。

 

「聞きたいことがあるんだけど……」

「な、なんでしょう?」

 

 アーサーは緊張したシズを気遣ってか、二階への階段を上がりながら彼女に話しかける。

 

「君は、魔術を学びたいのかい?」

 

 それはただの雑談であり、同時に本質をつく問いでもあった。

 アーサーは村長からの依頼を受けて魔術を教えようとしたが、シズ自身の意思は聞いていなかった。

 

 アーサーは一応、聞いておこうと思ったのだ。

 無いとは思っているがもし彼女の意思に反するのならば……。

 

「……わかりません」

 

 意外な答えだった。

 シズは俯いて裾をぎゅ、と握っている。

 

 アーサーには、それが怖がっているように見えた。

 だからアーサーは後ろにいる彼女に振り向き、彼女の頭に優しく手を置く。

 

「別に、それでも良いと思うよ」

「!」

 

 分からないで当然なのだ。

 だってシズは魔術のことを何も知らないのだから。

 

 良く分からないものを学ぶというのは、とても勇気が必要な事。

 

「で、でも……」

 

 それでもなお食い下がろうとする悲観的なシズに、アーサーは苦笑する。

 

「じゃあ、追加の課題としよう。君が魔術を使えた時に、その答えを教えてくれ」

 

 安心させるようにアーサーは笑みを見せて、前へと進みだす。

 その後ろをシズが慌てて追っていった。

 

「あの!」

「うん?」

「アーサーさん、は……どうなんですか?」

 

 アーサーの歩は変わらない。

 立ち止まりもしないし、減速も加速もしない。

 

「私も……分からないかな」

「え」

「私にとって、魔術はもう生活の一部として組み込まれてしまっている。だから、魔術を学ぶのは食事と同じ……何だと思う」

「そう、なんですか」

 

 シズには、それがどうしてか本心ではないように聞こえた。

 

「魔術は生業《仕事》だからね。仕事に好き嫌いは無いよ」

 

 言い終わり、アーサーは立ち止まる。

 二階に上がり、角の部屋。

 

 扉を開けてレディーファースト、先にシズを中へと入れた。

 

「わぁ……!」

 

 シズは、目を見開いてその光景を見上げる。

 杖、杖、杖。

 

 数十本、たくさんの杖が規則正しく並べられ、壁に立てかけられてある。

 

「魔術師は杖を使って魔術を使う」

 

 アーサーは立てかけられている杖から一本、手に取る。

 杖を使って空に円を描く。まるで空に絵を描いているかのようだった。

 

 次の瞬間、水の球が空中に現れた。

 ふよふよとその場に浮いている。

 

 シズはいきなり水の球が現れたことに驚いていた。

 

「こんな風に杖を振るうと、魔術師の紋章と反応して魔術が出るんだ」

 

 アーサーは水の球を消して、その杖を彼女に渡す。

 シズは杖をまじまじと見て、アーサーと同じように円を描いた。

 

「……?何も起こらない」

「うん。紋章が反応していないからね」

 

 シズは勢いよく手を挙げる。

 

「紋章って、なんですか?あ、いや……私の肩にあるのは分かってるんですけど、どういうものなのかなって……」

「紋章とは魔術を使うための素養にして、電池だ」

 

 電池?とシズは首を傾げる。

 

「器、と言えば良いかな?紋章を器に、魔術を使うために必要な燃料である魔力が貯蔵されるんだ」

「紋章……魔力……」

「まあ、ここの理解は適当で良いよ。そこまで肝心なものじゃないから、おいおいとだ」

 

 アーサーは苦笑しつつ、シズへと近づいて彼女が持っている杖に触れる。

 彼女の目の前まで持っていって聞いた。

 

「シズ、杖をみて何か気付くことは無い?」

「……何か、線が走ってる?ミミズみたい」

「ミミズか、面白い表現だね」

 

 杖には、黒色のインクで書かれた線が引かれていた。

 杖自体の材質が黒色であったため見えづらかったが、注視すれば簡単に分かった。

 

「これは、刻印と言ってね。これでどんな魔術を出すかを決めるんだ」

 

 この杖の場合は水の球だね、とアーサーは付け足す。

 

「でも、それだと一つの魔術しか使えないんじゃ。……あ」

「そう、だから魔術師は杖をたくさん作る。もちろん一つの杖に複数の魔術を入れることはできるけど、すべてじゃないからね」

 

 魔術師は別名、杖職人ともいわれている。

 アーサーのように、何十本も、何百本も杖を作るのだから。

 

 

「魔術に必要なのは、刻印と紋章と魔力。杖に刻んだ刻印に紋章を反応させて、魔力を消費して魔術を発動するんだ」

 

 

 アーサーは、用意していた木のかごを魔術で浮かしてシズの手元までやって来させる。

 

「はいコレ」

「なんですか、これ?」

 

 シズは籠の中を覗き込む。

 

 白色の杖に、ペンとインク。

 シズでは見たこともないほど薄い紙が何枚か。

 

「杖に刻印を刻む材料」

「なるほど……え」

 

 にっこりと、アーサーは満面の笑みで言った。

 

「君にはこれから、杖を作ってもらう。自分だけの杖を、魔術をね」

「え」

 

 えええええええええええええええええええ!?という大きな声が、アーサーの家に響き渡った。

 

「魔術を使うとは、杖をつくるということさ。刻印は、刻んだ本人にしか効果が無いんだ。紋章が反応しなくなってしまうから」

 

 シズが先程水の球を発生できなかったのは、単純に杖に刻まれた刻印が、紋章と反応しなかったため。

 それは刻印が他の者によって――アーサーによって刻まれたものだからだ。

 

 つまり、シズが魔術を使うには自分自身の手で杖に刻印を刻み込むしか無いのだ。

 

「これこそが、私が君に課した試練だよ」

 

 

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