落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~   作:青井風太

1 / 20
楽しそうなので書いてみました。
拙い文ですが、読んで頂けると嬉しいです。


プロローグ【月夜の発見】

夜の街を、一本の箒が切り裂くように駆けていた。

 

満月を背に、黒いローブが大きくはためく。

 

夜風が顔を叩く程に速い。だが――

箒はわずかに揺れ、上下する高度。

軌道が安定しない。

 

乗り手の焦りが、そのまま表に出ている。

 

樋川萌花は唇を噛みしめながら、夜の街を見渡していた。

 

いない……どこなの……

 

この街に現れたはずの“魔物”の気配が、どうしても掴めない。

 

探らなければならないのに、意識が散る。

 

焦りが、思考を鈍らせていたその時。

 

「これ、萌花!落ち着かんか」

 

帽子の影から、老婆の声が響く。

 

大きな三角帽子――そのつばは広く、目深に被れば顔の上半分をすっぽりと隠す形になる。

 

その内側から、ひょいと顔を出したのは小さな灰色の猫。

 

子猫は、ため息交じりに言った。

 

「闇雲に飛び回っても意味はない。まずは止まれ」

 

「で、でもババ様、このままじゃ――」

 

反射的に言い返しかけて、言葉が詰まる。

 

街は静かだ。

 

けれど、そのどこかに“異物”が紛れ込んでいる。

 

それを放置すればどうなるか――考えたくもない。

 

「人間も魔物も互いに見えとらん。魔物の目が人間界に馴染むまではそう簡単に被害は出ん」

 

ババ様は落ち着いた声で続ける。

 

「じゃが、このまま見つけられなければ話は別じゃ。だからこそ、落ち着いて魔力を探れ」

 

ぐっと息を飲む。

 

未熟さは、自分が一番分かっている。

 

魔力の感知も、制御も、戦う力も――どれも足りていない。

 

それでも。

 

「……はい」

 

小さく頷き、箒の速度を落とす。

 

やがて空中で静止した。

 

目を閉じる。

 

呼吸を整え、意識を沈める。

 

雑音を切り離し、魔力の流れだけを探る。

 

すると、夜の街が、ぼんやりと頭の中に浮かび上がる。

 

その中に――

 

ひとつだけ、濁った“何か”があった。

 

煙のように揺らめく、異質な塊。

 

「……っ!」

 

目を開く。

 

「見つけたか?」

 

「はい!」

 

次の瞬間、箒を傾け。

 

一気に加速した。

 

屋根を越え、通りを越え、一直線にその気配へ向かう。

 

やがて、それは視界に現れた。

 

巨体。

 

家屋を見下ろすほどの大きさ。

 

四肢で地を踏みしめる異形。

 

黒く濁った体表と、不自然に発達した腕。

 

裂けた口から覗く牙。

 

「……魔物」

 

思わず、喉が鳴る。

 

恐怖が、背筋をなぞった。

 

「対象確認じゃな」

 

ババ様の声は変わらず静かだ。

 

「……はい」

 

返事をしながらも、手はわずかに震えていた。

 

――その時だった。

 

「……ん?」

 

ババ様が、視線を横に流す。

 

魔物の進行方向。

 

その先に――

 

人影があった。

 

「え……?」

 

萌花も気づく。

 

その人物は声を上げながら走っている。

 

いや、必死に、逃げている。

 

だが、その動きは明らかに異様だった。

 

見えている者の動き。

 

見えていなければ、ああはならない。

 

「うそ……」

 

思わず声が漏れる。

 

そして、次の瞬間。

 

「あ、赤城君!?」

 

口をついて出た名前に、自分で驚いた。

 

見間違えるはずがない。

 

同じクラスの男子。

 

「萌花の知り合いか?」

 

「は、はい……クラスメイトです……」

 

自分で言っていて不思議な感覚だった。

 

「赤城君って魔法界の人だったんだ……」

 

魔法が見える者。

だからこそその結論に至ったのだが――

 

「いや、あの子は間違いなく人間界の、ただの人間の様じゃ」

 

ババ様はジッと彼を見つめたまま否定した。

 

でも……

 

それならば尚更理解できない事があった。

 

「でも、確実に"見えてますよね"?」

 

「その様じゃの……」

 

空中に浮遊したまま、共にそのあり得ない状況に困惑していたが、ババ様が決断を下す。

 

「ともあれ、あの子は戦えん様じゃ。ならば目的は変わらず魔物の討伐じゃ、行くぞ」

 

そこまで言って、萌花の表情が一気に焦りへと変わる。

 

「ままま待ってください!……このまま行ったら……顔が……身バレしちゃいます!」

 

思わず帽子のつばを押さえる。

 

その仕草は、戦う前のものとは思えなかった。

 

「バカ者!」

 

即座に、ため息混じりの一言が飛ぶ。

 

「その帽子に不可視の魔法を仕込んである」

 

ババ様は呆れたように続ける。

 

「人間からはお前の顔など認識できんと何度も言うたであろうが!」

 

「で、でも……!」

 

なおも食い下がる萌花に、ババ様はぴしりと言い切った。

 

「それに万が一の場合はワシが記憶を処理する。お前は余計な心配をするな」

 

「うっ……」

 

言い返せない。

 

ぐっと言葉を飲み込む。

 

「分かったら早う行け!」

 

その催促の一言に萌花は。

 

「わ、分かりました!」

 

その言葉と共に、少年目掛けて一気に加速した。

 

こうして、ただの高校生である赤城遥は、

どこか危なっかしい魔法使いと共に――魔法の世界へ足を踏み入れることになる。




読んでいただきありがとうございました。
次話も足を運んでもらえると嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。