落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
「――以上の経緯があり、我が学園で保護する事とした」
その言葉が響いた瞬間、ざわついていた会場の空気が、すっと静まり返った。
壇上に立つのは、昨日会ったばかりの老婆――
いや、この場では学園長。
その体から発せられる声は、まるで会場全体を包み込むように、隅々まで届いていた。
すげぇ人数……
思わず、心の中で呟く。
視界いっぱいに広がるのは、階段状に並べられた無数の座席。
そこにびっしりと座る生徒たち。
ざっと見ただけでも、千・二千人では足りない数だ。
その一人一人が、壇上へと集中しているのがわかる。
一部寝ている者もいるが……
舞台袖からその光景を覗いている俺と、視線が合っているわけでもないのに、見られている気がして落ち着かない。
サイドの席には教師と思われる人物たちも並んでおり、その中には見覚えのある顔――グランツ先生の姿もあった。
学園長の話した内容自体は、概ねあの夜――俺が体験した出来事と同じだった。
突然現れた魔物。
逃げ惑う人(俺)
そして、樋川との出会い。
ただ一つ違うのは――
俺を見つけたのが、樋川"だけ"ってことになってる点だ。
ほんのわずかな違和感。
だが、それもすぐに納得へと変わった。
まぁ、ばぁちゃんが樋川と共に人間界へ行ってるのは秘密だったしな。
俺は内心で小さく息を吐く。
「えー、ここにいる者の大半が、人間界へ派遣された事の無い者じゃろう」
学園長は一拍置いてから、ゆっくりと会場を見渡し、続けた。
「良い機会じゃ。ノクスとの交流として、仲良くするように」
その言葉に応えるように、会場のあちこちから拍手が起こる。
最初はまばらだったそれも、やがて一つの波のように広がっていった。
そして――
「では、一言挨拶してもらおう」
その一言で。
俺の思考が、止まった。
……え?
ゆっくりと顔を上げる。
壇上の学園長と、目が合った。
いやいやいや……
嫌な予感が、確信に変わる。
話すの?俺が?ここで?
視線を横にやると当然目に入るのは――
客席。
客席。
客席。
どこを見ても、人、人、人。
むりむりむりむり!!!
全力で首を横に振りたくなる衝動を、なんとか堪える。
だが――
「何をしとる?はよ出てこんか」
一拍の間を置いた後、しびれを切らしたように、学園長がこちらへと歩み寄ってきた。
「いやいや無理だって、ばぁちゃん!何人いると思って――」
言い訳を並べようとした、その時だった。
「ん?」
ぴたりと、学園長の視線が止まる。
「遥、お主……制服はどうした?」
「どうって……着てるけど……?」
自分の格好を見下ろす。
人間界で通っていた高校の制服。
知らない場所でいきなり私服というのもどうかと思い、選んだ“無難な服装”だ。
だが――
「違うわ!うちの学園の制服じゃ!」
ぴしゃりと、言い切られた。
「部屋のベッドに置いてあったじゃろうが!」
「あれ今日着るやつだったの!?」
思わず声が裏返る。
確かにあった。
寮の部屋、ベットの上に置かれていた、白いシャツにネクタイ、それに黒いローブ。
いかにも“それっぽい”服装一式。
だが――
「いやほら、衣替え的な?一人だけ季節ズレてて浮くやつあるじゃん?
あれを恐れて――」
「何を訳の分からんことを言っておる!」
呆れたように一蹴される。
「もう良い。そのままで良いから、さっさと行け!」
ぐいっと背中を押され。
「ちょっ――!」
抵抗する間もなく、体が前へと押し出された。
数歩よろけるように進み――
気が付けば、壇上の中央に立っていた。
うわ……
視線だ。
さっきまで“遠くに感じていた数”が、今はすべて“圧”になってのしかかってくる。
逃げ場など、どこにもない。
ごまかしも効かない。
マジかよ……
小さく息を吐いたが、その音さえ、やけに大きく感じられた。
集まる視線と合わない様に必死に目を泳がせたが、数回に一度目線がかち合う。
俺は緊張しながら、そして誰も見えないと言う意識を保ちながら、教壇上の魔道具に触れた。
それは先程までババ様の声を響かせていたものだ。
スイッチらしきものは見当たらないが……とりあえず、何か話すしかない。
「え、えっと――」
キィィィィン!!
俺の声は、無惨にもハウリングにかき消された。
一瞬の静寂。
劇場ホール内の微かな音すらも完全に……消えた。
元々壇上を見ていた者。
隣の席同士で話していた者。
寝ていた者……
全員の視線が俺に突き刺さる。
終わった……
まだ四文字しか話していない。
だが、もうやるしかない。
この居たたまれない雰囲気から一秒でも早く脱出する為に。
俺は覚悟を決め、今度は声を抑え気味に口を開いた。
「ご、ご紹介にアズカリモウシタ、ワレ……赤城遥とモウスル――」
「なんじゃその訳の分からん言葉は!」
バシッ!!
「痛ぁー!」
「少し落ち着いて話さんか」
俺の後頭部を襲ったのは、ババ様の平手打ちだった。
しかし反射的に痛いとは言ったが、正直この状況故に、痛みは感じなかった。
それに変な汗も止まらない。
オマケに自分でも何を言っているのか分からない。
「い、いやでもさ――」
言い返しかけた、その時だった。
ワハハハハ、と。
正面の席から、笑い声が上がった。
その声の主は、軽く拍手をしながら言葉を発した。
「いいぞー、ノクス!」
その一言をきっかけに、周囲に、ホール内全体に笑いが――
拍手が伝播した。
張り詰めていた空気が、一気に崩れた瞬間を実感した。
た、助かった……
俺はきっと、彼の顔を忘れない。
そして心の中で、感謝を告げた。
ありがとう……君は今この瞬間から、俺の偉大な親友だ。
感動に浸る俺をよそに、ババ様は一歩前に出た。
「こやつがノクス、赤城遥じゃ」
堂々とした声が、再び会場に響く。
その声と共に、拍手も笑い声も、一度止まった。
「見ての通り、まだ何も分かっとらん小僧じゃが」
「皆、よろしく頼む」
その言葉に――
今度は、はっきりとした拍手が返ってきた。
初日は出だしが肝心って、誰かが言ってた気がする……
……まぁ――
「ギリギリセーフ!」
誰にも聞こえない声だが、俺は力強くそう言った。
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