落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
劇場を後にした俺は、手にした地図をもう一度見直した。
「……えーっと」
やたらと広い。
というか広すぎる。
通路がいくつも分岐していて、建物もやたらと多い。
普通の学校ってレベルじゃない。
「迷路かよ……」
軽くぼやきながらも、地図と見比べて進んでいく。
途中、空中に浮かぶ本や、動く絵画、廊下を滑るように移動する何かを、横目に見つつ――
いや、いちいちテンション上げてたらキリねぇな。
正直、始めこそ魔法魔法していた園内に興奮していたが、一向に前に進まないので、冷静になる事にした。
手元の地図も魔法が掛かっているみたいだし。
目的地の場所が赤く光り、俺の進むべき道をマップアプリの様に線で引いてくれている。
「ジョブス顔負けだな」
なんてくだらない事を思いながら歩いていると。
やがて、それらしい扉の前に辿り着いた。
「……ここ、か」
小さく呟き、扉を開ける。
「ここは手動なのね」
中は既にそれなりに人が集まっていた。
ざっと見た感じ、年齢はバラバラ。
席も決まっていないのか、各々好きな場所に座っている。
テレビで見た大学もこんな感じだったよな……
過去の記憶と今の光景を照らし合わせ、大学っぽさをより実感した。
軽く周囲を見渡しながら、空いている席に向かおうとした――その時。
「おっ、ノクス!」
軽い声が飛んできた。
視線を向けると、さっき集会で笑っていた男子が手を上げていた。
あいつだ。
俺が忘れないと決意した――
「親友!!」
「親友?」
思わず発してしまったその言葉に、彼は当然きょとんっとした表情。
「いや、こっちの話」
軽く手を振って誤魔化すと、そいつは気にした様子もなく笑った。
「まぁいいや」
そして、親指で自分を指す。
「俺、飛山レン」
「飛山?」
思わず聞き返す。
「えっ、日本人!?」
「まぁ、遠からず、だな」
あっさりと頷いた。
「俺、クォーターなんだよ」
顎に手をやり、飛山は続けた。
「曾祖父か曾祖母がノクスだったらしくてさ」
「その辺から血が混じってるって話だ」
「そんなパターンもあるのか」
素直に感心した俺に、飛山は肩をすくめた。
「別に珍しいわけじゃねぇよ」
「昔はもっと人間界への行き来も活発だったみたいだし、苗字がそっち寄りのやつも、まぁまぁいるぜ」
「なるほどな」
軽く相槌を打つ。
「だからさ――」
飛山は少しだけニヤッと笑った。
「“100%ノクス”って意味じゃ、魔法界でもお前くらいだろうな」
「ジュースみたいに言うなよ」
呆れた顔で突っ込んだが、ひとまず――
「まぁ改めて、赤城遥だ。よろしく飛山……君」
「レンで良いって、俺も遥って呼ぶからさ」
笑いながらそう言った飛山――いや、レンと軽い握手を交わし。
「よろしく」
返事をしつつ、席に腰を下ろした。
それにしても……凄い視線だ。
教室の最後列の席に座ったが、前席からの視線が凄い。
俺の方をチラチラ見ながらヒッソリと仲間内で話し合う人達ばかりだ。
少し落ち着かないが、まぁそれだけ俺が異常な存在なんだろう。
転校生が来た時って言うか、何と言うか。
それを思うと――
なんか人気者感あっていいかも知れない。
そんなことを考えていた、その時だった。
ガラッ――と、扉が開く。
全員の視線が自然とそちらへ向いた。
俺の人気終了のお知らせ。
俺も皆に続く様に前方を確認し、入って来た人を確認した。
……あ。
入ってきたのは、樋川だった。
樋川も同じ講義だったのか……
俺の中で、点と点が繋がった。
だからばぁちゃん、この教室に行けって言ってたのか。
納得している間に、”それ”は始まっていた。
「あら?樋川じゃない」
二人の女生徒が、樋川の進路を塞いでいた。
「ずいぶん早い帰還ねぇ」
「魔法少女には慣れたの?」
「っ……」
樋川は俯いたまま、何も言わない。
「やめなよぉ」
「どうせズルして行ったんでしょ?」
くすくす、と笑いが広がる。
「ねぇ教えてよ」
「どうやって行ったの?コネ?お金?もしかして……」
その女性とは不敵な笑みを浮かべ、嘲笑交じりに続けた。
「体とかぁ~?」
アハハハハッ。
周囲もつられて、次第に笑い声が広まった。
止める者など、誰もいない。
誰もが、第三者と言う視線だ。
いや、むしろ、面白がっている。
「ねぇ、アルヴェインさんもそう思うでしょ?」
話を振った先。
少し離れた席にいた金髪の少女が、ゆっくりと視線を向ける。
彼女の次の言葉に注目するかのように、ざわめきが自然と収まる。
アイツっ!!
俺からはその後ろ姿しか見えていないが、ハッキリと覚えている。
汽車で見た、金髪の魔法少女!
「賄賂かどうかは知らないけど」
金髪女は落ち着いた声のまま、読んでいた本を閉じ、視線を樋川へ向けた。
「実力が足りてないのは、事実よね」
その言葉だけで、その場の空気は決まった。
椅子からゆっくりと立ち上がった金髪女は「あぁそうだ」と前に置き続けた。
「昨日の列車でも惨めでしたよねぇ」
「低位の魔物に手も足も出ない……私がいなければ魔物はおろか、犯人すら捕らえる事もできない」
髪をかき上げ、女はフっと笑う。
「アレで魔法少女やってるつもりなら、相当身の程を知れていないわ」
「くっ……」
歯を食いしばっている樋川は、何も言い返そうとはしない。
それを良しと思っているのか、嫌がらせは止まらない。
「さっすが、名家のアルヴェイン家!」
「魔力だけの落ちこぼれとは違うわ……」
周囲からそんな声が漏れる。
「憧れは悪い事じゃないわ」
エルミナは淡々と続けた。
「ただ、もう少し現実を直視すべきね。落ちこぼれさん」
「怪我する前に、やめた方がいいんじゃない?」
「くっ……」
樋川の握る拳が肩が震える。
その瞬間――
「お前は最後にトドメを刺しただけだろ」
気付けば、俺の口は動いていた。
教室の視線が一斉にこちらへ向く。
「あら?何かしら、ノクス」
「昨日の列車の話だよ」
一歩、前に出る。
「確かにトドメを指したのも犯人を捕まえたのもお前だよ」
「でもさ――」
少しだけ、声に力が乗る。
「その前に樋川が乗客を守る為に戦って、魔物追い込んでただろ」
空気が静まる。
「おいおいおい、やめとけ遥」
静まる空気とは違い、俺の横の人物だけは声を震わせながら、小さな声で静止を促していた。
だが、止まる気は無かった。
「そこに来て、お前がトドメ"だけ"持ってったんだろ?」
視線を逸らさない。
「勝手に情報改ざんして、樋川を貶めてんじゃねぇよ」
俺の言葉に金髪はフッと口角を上げた。
「あら、言うじゃない、あなた」
そしてその声色が少し低くなった。
「……文字通りの部外者は黙ってなさい」
金髪が言い切る。
「魔力もないノクスが私に……アルヴェイン家に意見なんておこがましいわ」
一瞬、空気が張り詰めた。
「アルヴェイン家?」
俺は小さく笑った。
そして肩をすくめる。
「俺、”部外者”だから知らねぇし」
ざわめきが広がる。
「その“名門様”がどれだけ偉いのか知らねぇし」
一歩、踏み出す。
「興味もねぇ」
視線をぶつける。
「でも、目の前で頑張ってるやつ笑ってる時点で」
「大したもんじゃねぇんだろ?」
空気が変わる。
ほんのわずかに金髪――基、アルヴェインの表情が動いた。
「……いい度胸ね」
その視線はギロリとこちらを見つめた。
「そこまで言うのは――相応の覚悟あってのことよね?」
「あぁ――」
「も、もういいから赤城君!」
全てを言い切る前に俺と金髪の前に、樋川が割り込んできた。
だが止まる気などない。
「関係なくない。こんな性根の腐った奴は一回痛い目見るべきだからな」
「そう、ならいいわ」
「決闘で決めましょう」
ざわり、と教室が揺れた。
「決闘は三日後、申請は私が通しておいてあげますわ」
そのやり取りの後――
アルヴェインがふっと口元を緩めた。
「あぁそうだ……」
少しだけ楽しげに言う。
「負けた方が何でも言うことを一つ聞くっていうのはどう?」
そして、さらりと髪を払い。
「私、ノクスの下僕が欲しかったの」
そのなめ腐った微笑みすら、俺を苛立たせた。
「はっ」
思わず笑った。
「あぁ、良いぜ」
軽く言い放つ。
「俺が負けたら、ノクスだか野糞だか知らねぇけど」
「下僕にでもなってやるよ」
「なっ……なんて下品な……!?」
アルヴェインの頬が、わずかに赤くなる。
「その代わり」
一歩、踏み込む。
「お前が負けた時は――」
視線を固定する。
「樋川に、誠心誠意謝罪しろ」
「あらやだ」
わずかに声が上がる。
「あなた本気で私に勝つつもりなの?」
「あぁ、だが戦うのは俺じゃない」
「は?」
アルヴェインは目を開く。
「お前を負かすのは――」
俺は隣にやってきた、彼女の肩に手を置いた。
「樋川だ」
「えぇぇぇぇぇぇ!!?」
その言葉に、最初にリアクションしたのはアルヴェインでも取り巻きでもない。
当の本人だった。
「情報のないあなたならともかく、私が樋川さんに負けるわけないでしょ」
「やってみなけりゃわかんねぇだろ。それに――」
「俺が樋川を勝たせる」
「……いいですわ」
その目は細くなる。
「そこまで言うなら――受けて立ちます」
視線が鋭くなる。
「せいぜい楽しんでおきなさい」
「下僕になるまでの、短い時間をね」
その言葉に――
つい、口角が上がる。
「お前こそ謝罪文、二万字用意しておけよ!!」
ざわめきを背に受けながら、俺は踵を返した。
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