落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~   作:青井風太

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リターン

「――初日から何をしておるんじゃ!」

 

部屋に怒号が響いた。

 

静まり返った学園長室に、その怒号だけが重く響いた。

 

俺は正座のまま、背筋を伸ばして答えた。

 

「はい、すみません……」

 

「皆に仲良くせよと言ったであろう? お主が問題を起こしてどうする!」

 

間髪入れずに叩きつけられる言葉。

 

もはや俺に逃げ場など、ありはしなかった。

 

「入学初日に決闘申請をされる生徒など、前代未聞じゃぞ……まったく」

 

深いため息。

 

呆れ半分、本気の叱責半分といったところだった。

 

それでも俺はあんな光景を、見て見ぬふりができるほど人間ができてはいなかった。

 

だから――

 

「で、でもさ――」

 

「でも、ではない!」

 

ぴしゃりと遮られ、反射的に口を閉じた。

 

俺の反撃は始まる前に終わった。

 

「……萌花は何も言わなかったのか?」

 

少しだけトーンが落ちる。

 

俺は視線を逸らしながら、小さく答えた。

 

「普通に怒られました……」

 

その瞬間――

さっきの光景が、脳裏に蘇る。

 

 

「もう、バカバカバカ!!」

 

空き教室に、甲高い声が響いた。

 

目の前で頬を膨らませているのは樋川だ。

 

「どうして君はそんなに無鉄砲なの!?」

「どうして勝手に決闘の約束なんてしちゃうのよ!!」

 

「で、でもほら、アイツムカつくし――」

 

「でもじゃないわよ!!」

 

ぴしゃりと切り捨てられ、俺はここでも口を閉じた。

 

その勢いのまま、彼女は続けた。

 

「それにどうして君が賭けの対象になるのよ……」

 

少し俯きながらそう言った樋川だったが、俺は軽く笑う様に答える。

 

「俺は樋川の補佐係だからな。それに――」

 

軽く親指で自分を指しながら言う。

 

「樋川なら勝てるって!」

 

それを堂々と口にした瞬間。

 

樋川は、がくりと膝から崩れ落ちた。

 

「勝てるわけないじゃない……」

 

消え入りそうな声で続けた。

 

「アルヴェインさんだけじゃないのよ? 私、一度だって決闘で勝ったことないんだから……」

 

ぽつり、ぽつりと、言葉が落ちていく。

 

「学年順位だって下から数えた方が早いし……」

「逆に、アルヴェインさんは……トップ常連……」

 

「まじ?」

 

「マジ!!」

 

食い気味の即答だった。

 

そのまま彼女は顔を伏せる。

 

「……今からでも遅くないよ。決闘の申請……撤回してもらおうよ?」

「私が謝るから……」

 

その言葉に、俺は思わず眉をひそめた。

 

「なんで、樋川が謝るんだよ」

 

「だって――」

 

言いたい事は分かる。

 

それでも――

 

「悔しいんだろ?」

 

言葉を重ねた。

 

「馬鹿にされて」

 

「努力しても報われなくて」

 

「っ……」

 

肩がわずかに揺れる。

 

その感情は本音を隠しきれてはいなかった。

 

「ヨモのおっちゃんも言ってたろ」

 

「”諦めなければチャンスは巡ってくる”、って」

 

「でも……」

 

未だに不安な表情を拭いきれない樋川に、根拠はないが。

言いたい事があった。

 

「安心しろ」

 

一歩、距離を詰める。

 

「樋川、ポテンシャルだけは最強なんだろ?」

 

「だけって……」

 

か細いツッコミ。

 

少しだけ、いつもの調子が戻る。

 

「なら後は、そのポテンシャルを発揮できるようにすればいい」

 

軽く笑ってみせる。

 

が、樋川は勢いよく声を上げた。

 

「それが出来ないから!苦労してるのよ……」

 

その声は次第に弱くなる。

 

だが――

 

「――俺がやる」

 

「え?」

 

俺の言葉に顔を上げた樋川に続けた。

 

「前の戦いでなんとなくコツは掴んだ。後はそうだな……」

 

顎に手を当て、答えをだす。

 

「実践とイメージだけだな」

 

「根拠ないなぁ……」

 

呆れた目で、いつもの様に見つめて来る樋川に。

 

「まぁ要するに」と前に置き。

 

「二人なら、最強だぜ!」

 

ニッと微笑み、親指を立てる。

 

俺のその場のノリの様な言葉でも、少しは落ち着いたのか。

 

「……赤城君」

 

その声は、さっきまでより少しだけ強かった。

 

 

「――なるほどの」

 

現実に引き戻される。

 

ババ様は腕を組み、しばし黙り込んでいた。

 

怒鳴るでもなく、ただ考えている。

 

やがて、小さく息を吐いた。

 

「……お主に、あぁは言ったが、あの子の学校での扱いを知っておいて、偉そうに説教できる立場では無かったな……すまなかった」

 

「……」

 

何も言わずに、ただババ様を見つめた。

 

「……教師が介入すれば、ああいったものはすぐに収まる」

 

ぽつりと、ババ様は言った。

 

「じゃがな、それでは根本は何も変わらん」

 

視線がこちらに向く。

 

「上から押さえつけただけでは、形を変えて繰り返すだけじゃ」

 

「単なる言い訳かもしれんがの……」

 

「だから、教師達は見て見ぬ振りしてたってことか?」

 

少し棘のある言い方になった。

 

だが、ババ様は否定しなかった。

 

「……そうかもしれんな」

 

静かな肯定。

 

「“教育”のつもりで距離を取っておったが――」

「ただ逃げておっただけかもしれん」

 

初めて見た。

 

この人が、少しだけ弱さを見せた気がした。

 

「じゃから――」

 

ゆっくりと、俺を見る。

 

「本来、こういう事を片側の生徒にのみ、言うべきではないのかもしれんが」

 

間を置いて。

 

はっきりと言い切った。

 

「勝て」

 

空気が、張り詰めた。

 

「お主が勝てば、全員とは言えずとも、見る目は変わるじゃろう」

 

しばしの沈黙。

 

俺は、ゆっくりと立ち上がった。

 

正座の痺れがまだ残っている。

 

それでも、足はしっかりと床を踏んでいた。

 

「違うよ、ばぁちゃん」

 

小さく息を吐く。

 

視線をまっすぐ向ける。

 

「二人で勝つんだ」

 

ほんの少しだけ口元を上げた。




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