落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
戦闘開始のコールが、場内に鋭く響き渡る。
だが――
樋川は動かなかった。
杖を構えたまま、距離を測るように静止している。
その指先は、わずかに震えていた。
それを見逃すアルヴェインではない。
腰に手を当て、くすりと笑う。
「……震えているじゃない」
余裕を含んだ声が、静かに刺さる。
「そうよねぇ。私に一撃すら与えられた事がないものね」
そして、わざとらしく両手を広げた。
「一撃で終わってしまっては、観客に失礼ですもの」
顎でしゃくる。
「ほら。手出ししませんわ。――撃ってきなさい」
「コイツ……!」
先に苛立ったのは俺だった。
「行くぞ樋川!練習の成果、見せてやれ!」
「う、うん!」
樋川が杖を握り直す。
同時に、俺は肩の上からその首筋に触れた。
――イメージする。
二日前から繰り返した、あの感覚を。
◇
学園の端。
木々に囲まれた、小さな空間。
肩で息をする樋川の隣で、俺は人型に戻っていた。
視線の先には――上半身だけの人形。
その的は、わずかに焦げているだけだった。
「うむ……やはり威力不足じゃな」
頭の上から、猫の姿のババ様が淡々と告げた。
「で、でも……これ以上魔力を込めると、また制御できなくなっちゃいます……」
「うーん……どうしたもんかねぇ」
俺も腕を組む。
「当然、この程度の威力で勝てるほど、エルミナは甘くはないぞ」
「……わかってます……でも……」
俯く樋川。
その横で、俺はババ様に問いかけた。
「なぁ、ばぁちゃん。“魔法はイメージの先にある”って言ってたよな?」
「うむ。人の動作と同じじゃ。イメージを脳がなぞり、現実に落とし込む」
「じゃあさ――こういうのって、できるか?」
頭の中の構想を、そのままぶつけた。
するとババ様は一瞬だけ目を細め――
「……なるほどの」
小さく頷いた。
「確かにそれなら、威力の問題は解決できる」
さらに続ける。
「それに萌花は、細かな作業は得意じゃしの」
「萌花の魔力量ならば、それも可能じゃ」
「ま、魔法はそんなに都合よく――」
「よし、決まり!」
遮るように言った。
「このイメージで行こう。戦闘中の調整と指示は俺が出す!」
「……了解」
まだ不安は残っている。
それでも、頷いた。
「あ、それとさ」
「ん?」
「技名、決めない?」
「そんなの後でいいでしょ!!」
鋭いツッコミと共に――
意識は、現在へと引き戻される。
◇
「九分割だ!なるべく一点に集中させろ!」
「りょ、了解!」
俺は吸い上げた魔力を、リズムを刻むように分割して送り返す。
一度にではない。
脈打つように、九回。
受け取った樋川は、それを即座に“形”に変えた。
ポン、ポン、と乾いた音。
背後に浮かぶ、九つの光球。
淡く脈動しながら、狙いを定める。
「「ヒュドラ・バースト!!」」
次の瞬間。
光が弾けるように放たれた。
九条の軌跡が、空間を裂くように一直線に走る。
「なっ――!」
アルヴェインの反応が、一瞬遅れる。
咄嗟に掌を突き出した、その直後。
ドガンッ!!
重い衝撃音と共に、直撃。
地面が揺れ、土煙が一気に巻き上がった。
「直撃ー!!」
アナウンスが響く。
「えぇ!?何今の!あの子、魔法制御できないんじゃなかったの!?」
「さぁね……」
対照的に、ヒスカの低い声が返す。
「タヌキが指示出してたように見えたけど……それだけで扱える魔力量じゃないはず……」
観客席がざわめく。
やがて、煙がゆっくりと晴れていく。
その奥。
ぼんやりと浮かび上がる人影。
その正面に――淡く光る壁が立っていた。
「……ちっ」
つい、俺の舌打ちが漏れた。
「防がれたか……」
その瞬間。
ぴしり、と乾いた音が走った。
光の壁に、一本の亀裂。
「なっ――!」
アルヴェインの目が見開かれる。
「樋川の魔法で……ヒビ入れたのか!?」
「信じらんねぇ……」
亀裂は広がり、やがて防壁は霧のように崩れ落ちた。
ゆっくりと、顔が上がる。
その瞳から、余裕は消えていた。
「……やってくれましたわね」
低く、抑えた声。
「落ちこぼれ!!」
突き出した片手から収束する光。
掌の上で圧縮され、歪み、球体へと変わる。
「お返しですわ!」
その言葉に続き、告げた。
「レクシア・フレクション!!」
弾けた光が分裂し、無数の弾となって四方へ広がる。
その弾は、まるで樋川を包囲するかのようだ。
逃げ場を塞ぐように、同時に迫る。
「24分割!円形で展開しろ!」
「うん!」
俺は手の位置を首筋から肩へと滑らせる。
全身を使って、空気入れの様に魔力を叩き込む。
「うぉぉりゃゃぁ!!」
一心不乱に魔力を送り続ける。
すると、樋川の足元から光のカケラがせり上がり始めた。
六角形のパネルが、次々と組み上がっていく。
パキパキと硬質な音を立てながら、隙間なく繋がり――
瞬く間に円形の防壁が完成した。
「「亀光陣!!」」
次の瞬間。
全方位から光弾が叩きつけられる。
連続する衝撃。
だが――
バチバチバチ!
っと、激しい音を立てながら、防ぎ切る。
そのすべて、弾いた。
「おぉー!!」
観客席から歓声が上がる。
その中にはアナウンスのミコラの声も混ざっていた。
「防いだー!!」
「全方位攻撃を完璧に!?」
「過去の戦績だと、樋川は前方に不安定な壁を一枚張るだけ……」
ヒスカの声が冷静に続く。
「だから全方位攻撃で瞬殺されてた。それが……これか……」
「しかも、アレだけ分割して魔法を繰り出したのに、魔力量もほとんど落ちてない……」
「なになにヒスカちゃん、帰りたいんじゃ――」
「うるさい」
鈍い音と共に、ミコラが沈んだ。
やがて、防壁が粒子となって消えていく。
「や、やった……」
樋川が小さく呟く。
その様子を見て、アルヴェインは舌打ちした。
「……腹立たしいですわね」
アルヴェインの思考が走った。
あの量の魔力を経った数日でコントロールできる様になった?
いや、そんな筈はない……何か杖以外にタネがある――と。
しかし、回答などすぐに出るはずもない。
アルヴェインが今分かっている事は、このまま撃ち合えば魔力量の少ない自分が負けると言う事。
それならば――
アルヴェインは既に地面を蹴っていた。
一気に間合いを詰める。
それと同時に、片手を突き出す。
「クーウェル・スティングス!!」
三本の光槍が空間に現れ。それは時間差で、順に放たれた。
「正面三本!六分割で防ぐぞ!」
「亀甲壁!!」
攻撃の準備から防御の準備へと思考を切り替えた俺は、直ぐに六回、魔力を樋川に送る。
すると先程の様に、樋川の前方から一枚ずつパキパキと音を立て、障壁が集まる。
六枚の障壁が重なり、一枚の防壁を形成した。
バギンッ!!
一発目。
激しい衝撃が叩きつけられ、壁が大きく歪む。
だが、割れない。
二発目。
まったく同じ一点に、正確に撃ち込まれる。
逃げ場のない衝撃に、亀裂が走る。
「なっ――」
三発目。
三度の正確な一撃を受けた障壁はついに――
パリンッ!!
乾いた音と共に、防壁が内側から弾け飛んだ。
「うっ!!」
思わず、樋川が腕で目を覆った。
だが、その隙を――槍は逃さない。
一直線に迫る。
「くそっ!!」
考えるより先に。
右手が、前へと突き出されていた。
その瞬間。
触れた槍が、わずかに揺らぐ。
輪郭が崩れ――
光の粒子へと分解されていく。
そして、そのまま。
吸い込まれるように。
俺の掌へと、消えた。
読んでいただきありがとうございました。
また次回も見てもらえると嬉しいです。