落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~   作:青井風太

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練習の成果

戦闘開始のコールが、場内に鋭く響き渡る。

 

だが――

 

樋川は動かなかった。

 

杖を構えたまま、距離を測るように静止している。

その指先は、わずかに震えていた。

 

それを見逃すアルヴェインではない。

 

腰に手を当て、くすりと笑う。

 

「……震えているじゃない」

 

余裕を含んだ声が、静かに刺さる。

 

「そうよねぇ。私に一撃すら与えられた事がないものね」

 

そして、わざとらしく両手を広げた。

 

「一撃で終わってしまっては、観客に失礼ですもの」

 

顎でしゃくる。

 

「ほら。手出ししませんわ。――撃ってきなさい」

 

「コイツ……!」

 

先に苛立ったのは俺だった。

 

「行くぞ樋川!練習の成果、見せてやれ!」

 

「う、うん!」

 

樋川が杖を握り直す。

 

同時に、俺は肩の上からその首筋に触れた。

 

――イメージする。

 

二日前から繰り返した、あの感覚を。

 

 

学園の端。

 

木々に囲まれた、小さな空間。

 

肩で息をする樋川の隣で、俺は人型に戻っていた。

 

視線の先には――上半身だけの人形。

 

その的は、わずかに焦げているだけだった。

 

「うむ……やはり威力不足じゃな」

 

頭の上から、猫の姿のババ様が淡々と告げた。

 

「で、でも……これ以上魔力を込めると、また制御できなくなっちゃいます……」

 

「うーん……どうしたもんかねぇ」

 

俺も腕を組む。

 

「当然、この程度の威力で勝てるほど、エルミナは甘くはないぞ」

 

「……わかってます……でも……」

 

俯く樋川。

 

その横で、俺はババ様に問いかけた。

 

「なぁ、ばぁちゃん。“魔法はイメージの先にある”って言ってたよな?」

 

「うむ。人の動作と同じじゃ。イメージを脳がなぞり、現実に落とし込む」

 

「じゃあさ――こういうのって、できるか?」

 

頭の中の構想を、そのままぶつけた。

 

するとババ様は一瞬だけ目を細め――

 

「……なるほどの」

 

小さく頷いた。

 

「確かにそれなら、威力の問題は解決できる」

 

さらに続ける。

 

「それに萌花は、細かな作業は得意じゃしの」

「萌花の魔力量ならば、それも可能じゃ」

 

「ま、魔法はそんなに都合よく――」

 

「よし、決まり!」

 

遮るように言った。

 

「このイメージで行こう。戦闘中の調整と指示は俺が出す!」

 

「……了解」

 

まだ不安は残っている。

 

それでも、頷いた。

 

「あ、それとさ」

 

「ん?」

 

「技名、決めない?」

 

「そんなの後でいいでしょ!!」

 

鋭いツッコミと共に――

 

意識は、現在へと引き戻される。

 

 

「九分割だ!なるべく一点に集中させろ!」

 

「りょ、了解!」

 

俺は吸い上げた魔力を、リズムを刻むように分割して送り返す。

 

一度にではない。

脈打つように、九回。

 

受け取った樋川は、それを即座に“形”に変えた。

 

ポン、ポン、と乾いた音。

 

背後に浮かぶ、九つの光球。

 

淡く脈動しながら、狙いを定める。

 

「「ヒュドラ・バースト!!」」

 

次の瞬間。

 

光が弾けるように放たれた。

 

九条の軌跡が、空間を裂くように一直線に走る。

 

「なっ――!」

 

アルヴェインの反応が、一瞬遅れる。

 

咄嗟に掌を突き出した、その直後。

 

ドガンッ!!

 

重い衝撃音と共に、直撃。

地面が揺れ、土煙が一気に巻き上がった。

 

「直撃ー!!」

 

アナウンスが響く。

 

「えぇ!?何今の!あの子、魔法制御できないんじゃなかったの!?」

 

「さぁね……」

 

対照的に、ヒスカの低い声が返す。

 

「タヌキが指示出してたように見えたけど……それだけで扱える魔力量じゃないはず……」

 

観客席がざわめく。

 

やがて、煙がゆっくりと晴れていく。

 

その奥。

 

ぼんやりと浮かび上がる人影。

 

その正面に――淡く光る壁が立っていた。

 

「……ちっ」

 

つい、俺の舌打ちが漏れた。

 

「防がれたか……」

 

その瞬間。

 

ぴしり、と乾いた音が走った。

 

光の壁に、一本の亀裂。

 

「なっ――!」

 

アルヴェインの目が見開かれる。

 

「樋川の魔法で……ヒビ入れたのか!?」

 

「信じらんねぇ……」

 

亀裂は広がり、やがて防壁は霧のように崩れ落ちた。

 

ゆっくりと、顔が上がる。

 

その瞳から、余裕は消えていた。

 

「……やってくれましたわね」

 

低く、抑えた声。

 

「落ちこぼれ!!」

 

突き出した片手から収束する光。

 

掌の上で圧縮され、歪み、球体へと変わる。

 

「お返しですわ!」

 

その言葉に続き、告げた。

 

「レクシア・フレクション!!」

 

弾けた光が分裂し、無数の弾となって四方へ広がる。

 

その弾は、まるで樋川を包囲するかのようだ。

 

逃げ場を塞ぐように、同時に迫る。

 

「24分割!円形で展開しろ!」

 

「うん!」

 

俺は手の位置を首筋から肩へと滑らせる。

 

全身を使って、空気入れの様に魔力を叩き込む。

 

「うぉぉりゃゃぁ!!」

 

一心不乱に魔力を送り続ける。

 

すると、樋川の足元から光のカケラがせり上がり始めた。

 

六角形のパネルが、次々と組み上がっていく。

 

パキパキと硬質な音を立てながら、隙間なく繋がり――

瞬く間に円形の防壁が完成した。

 

「「亀光陣!!」」

 

次の瞬間。

 

全方位から光弾が叩きつけられる。

 

連続する衝撃。

 

だが――

 

バチバチバチ!

 

っと、激しい音を立てながら、防ぎ切る。

 

そのすべて、弾いた。

 

「おぉー!!」

 

観客席から歓声が上がる。

 

その中にはアナウンスのミコラの声も混ざっていた。

 

「防いだー!!」

「全方位攻撃を完璧に!?」

 

「過去の戦績だと、樋川は前方に不安定な壁を一枚張るだけ……」

 

ヒスカの声が冷静に続く。

 

「だから全方位攻撃で瞬殺されてた。それが……これか……」

「しかも、アレだけ分割して魔法を繰り出したのに、魔力量もほとんど落ちてない……」

 

「なになにヒスカちゃん、帰りたいんじゃ――」

 

「うるさい」

 

鈍い音と共に、ミコラが沈んだ。

 

やがて、防壁が粒子となって消えていく。

 

「や、やった……」

 

樋川が小さく呟く。

 

その様子を見て、アルヴェインは舌打ちした。

 

「……腹立たしいですわね」

 

アルヴェインの思考が走った。

 

あの量の魔力を経った数日でコントロールできる様になった?

いや、そんな筈はない……何か杖以外にタネがある――と。

 

しかし、回答などすぐに出るはずもない。

 

アルヴェインが今分かっている事は、このまま撃ち合えば魔力量の少ない自分が負けると言う事。

 

それならば――

 

アルヴェインは既に地面を蹴っていた。

 

一気に間合いを詰める。

 

それと同時に、片手を突き出す。

 

「クーウェル・スティングス!!」

 

三本の光槍が空間に現れ。それは時間差で、順に放たれた。

 

「正面三本!六分割で防ぐぞ!」

 

「亀甲壁!!」

 

攻撃の準備から防御の準備へと思考を切り替えた俺は、直ぐに六回、魔力を樋川に送る。

 

すると先程の様に、樋川の前方から一枚ずつパキパキと音を立て、障壁が集まる。

 

六枚の障壁が重なり、一枚の防壁を形成した。

 

バギンッ!!

 

一発目。

 

激しい衝撃が叩きつけられ、壁が大きく歪む。

 

だが、割れない。

 

二発目。

 

まったく同じ一点に、正確に撃ち込まれる。

 

逃げ場のない衝撃に、亀裂が走る。

 

「なっ――」

 

三発目。

 

三度の正確な一撃を受けた障壁はついに――

 

パリンッ!!

 

乾いた音と共に、防壁が内側から弾け飛んだ。

 

「うっ!!」

 

思わず、樋川が腕で目を覆った。

 

だが、その隙を――槍は逃さない。

 

一直線に迫る。

 

「くそっ!!」

 

考えるより先に。

 

右手が、前へと突き出されていた。

 

その瞬間。

 

触れた槍が、わずかに揺らぐ。

 

輪郭が崩れ――

 

光の粒子へと分解されていく。

 

そして、そのまま。

 

吸い込まれるように。

 

俺の掌へと、消えた。




読んでいただきありがとうございました。
また次回も見てもらえると嬉しいです。
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