落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
戦場の音が、ゆっくりと戻ってくる。
ざわめき。息遣い。遠くで反響する声。
そのすべてが、まるで水の中から浮かび上がるように、輪郭を取り戻していく。
「――っ」
アルヴェインは、小さく息を呑んだ。
視界が定まる。
自分が、ほんの一瞬――意識を手放していたことを理解する。
「……いま、私……」
そう呟く声は、誰にも聞こえてはいなかった。
胸の奥に残る感覚。
あの、視線。
あの、言葉。
「……っ」
ぎり、と奥歯を噛み締める。
「もう……思い出したくない……」
かすれた声が、零れる。
「私は……私は……」
だが、その言葉は途中で止まった。
足に、力が入る。
ゆっくりと――立ち上がる。
「立ち上がった!!」
実況の声が弾けた。
「アルヴェイン、まだやる気のようです!」
「さっき様子がおかしかったけど……」
ヒスカが淡々と続ける。
「流石に、あの程度で終わる奴じゃないわね」
アルヴェインは、顔を上げた。
視線が、まっすぐに樋川を捉える。
その瞬間――
「――ぶへっ……!」
鈍い音と共に、空気が歪んだ。
「がはっ……!」
樋川の口から、赤い液体が噴き出した。
地面に、ぽたり、と滴り落ちる。
「……え」
一瞬、誰も理解できなかった。
「お、おい!どうしたんだ急に!?」
慌てて声をかけた遥も同様だった。
「な、なんだ!?樋川がいきなり吐血!?さっきの攻撃が――」
「……違う」
動揺と共に声を上げた実況に低く、割って入る声。
ヒスカだった。
「多分、アレは……」
視線は鋭く、状況を捉えている。
「……魔力の”拒否反応”」
その言葉に場が、凍りついた。
「タヌキがさっきの【クーウェル・スティングス】を吸収した時……その魔力を、そのまま樋川に流して魔法を撃たせた」
「それって……」
「……体内で、混ざったのよ」
ヒスカは続けた。
「樋川の魔力と、アルヴェインの魔力が。一瞬だけ……」
荒い呼吸を繰り返す樋川。
「はぁ……っ、は……」
肩が上下し、足元がわずかに揺れる。
「と、樋川……大丈夫か!?すまん、俺が――」
言い終える前だった。
アルヴェインの瞳が、すっと細められる。
「……なるほど」
低く、冷たい声。
その視線は、まっすぐ遥へと向けられていた。
「あなたが……樋川さんの魔力を調整していたのね」
一歩、踏み出す。
「どうりで――あの“魔力モンスター”が、まともに魔法を扱えている訳だわ」
確信に満ちた声音。
そして、次の瞬間には――もう動いていた。
「――レクシオン!!」
短い魔法名と共に、冷たい声が、割り込む。
アルヴェインだ。
既に、手は前に突き出されている。
高く上がった三本の光は、放物線を描き、こちらへと迫っていた。
「クソっ!」
反射的に、右手を前に出す。
全て吸収する――そのつもりだった。
だが。
光が、わずかに軌道を変えた。
「――なっ!?」
次の瞬間。
ズドンッ!!
光は足元に、直撃した。
衝撃が地面を揺らし、砂煙が一気に巻き上がる。
視界が、白く閉ざされた。
「ごめん……もう、大丈夫……」
掠れた声と共に樋川が立ち上がる。
そして口元の血を、袖で拭った。
「ちょっと……混ざっちゃっただけ……」
だが、その視界もまた、砂煙に遮られていた。
その時だ。
ぼんやりと、遥の視界に影が浮かぶ。
煙の中。
確かに“何か”が、こちらへと近づいてくる。
一歩。
また一歩。
迷いのない足取り。
「っ――」
次の瞬間。
喉が、締まった。
「うぐっ……!」
気づいた時には、首を掴まれていた。
「赤城く――」
「邪魔ですわ!」
最後まで言わせないかの様な鋭い一蹴が樋川を襲った。
「きゃっ――!」
樋川の体は煙の外まで弾き飛ばされた。
そして砂煙が、ゆっくりと晴れていく――
その中で。
アルヴェインは、遥の首を片手で掴んだまま、立っていた。
その瞳に、もう迷いはない。
「……少量でも、あの拒否反応」
静かに、告げる。
「知識と経験が足りませんわね」
冷たい声は続いた。
「才能を過信するから……」
ぐっと、力が込められる。
呼吸が、詰まる。
「足元を掬われますのよ」
その言葉には、遥かには理解できない感情が……嫉妬と怒りが混じった感情が込められていた。
「……っ、うるせぇ……!」
絞り出すように、声を返す。
依然、首の締め付けは緩まない。
だが――その距離は、近い。
密着している。
ならばと。
右手を、無理やり持ち上げた。
触れればいい。
アルヴェインの魔力を、全部吸収すれば――
「甘いですわ!」
その思惑は即座に、見抜かれ、次の瞬間には視界が回転した。
「がっ……!」
そのまま、投げ飛ばされる。
地面に叩きつけられ、二度、三度と転がった。
「ぐっ、ガハッ……ゴホッ……」
喉の解放から、咳を吐き。
息を整え、顔を上げる。
視線の先。
アルヴェインが、こちらを見下ろしていた。
「もう一つ――」
静かに、告げる。
「あなたの知識不足を、教えてあげますわ」
両手を、ゆっくりと持ち上げ、掌をこちらに向けた。
空気が、張り詰め始める。
「――」
そして。
詠唱は、始まった――
読んで頂きありがとうございました。
また次回も見ていただけますと嬉しいです。