落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~   作:青井風太

22 / 23
魔法と詠唱と

教室に、チョークの乾いた音が響いていた。

 

「では赤城遥。この中で、魔法制御に最も適した持ち方はどれだ?」

 

黒板の前で”それ”を書き終えたグランツ先生は、いつもの無機質な声音で言った。

 

急に指された事で、俺は肩が跳ね、慌てて黒板へと視線を向けた。

 

そこに書かれていたのは、AからDまでの四つの図。

 

人の上半身が側面から描かれ、右手で杖を構えている。

 

目を細める――が。

 

……違いが分からん。

 

握る位置か?

いや、どれも似たようなもんに見えるし。

 

形も…同じ。

角度も同じ……か?

 

「そろそろ正答して欲しいものだな」

 

間違い探しの様に必死に四つの図を見つめていると、催促の声が届いた。

 

いや、分かるかこんなもん!

 

だが、この沈黙も気まずい。

 

俺は勇気の回答(あてずっぽう)の為に、口を開いた。

 

「Cぃ~寄りのB?」

 

「答えはDだ」

 

瞬殺だった。

 

掠りもしない回答。

教室に小さな笑いが起きる中、グランツ先生はすっと、薬指でメガネを押し上げながら、淡々と続けた。

 

「Dの持ち方。杖の中心よりやや下で保持する事。これが最も効率良く、杖全体に魔力を流す方法だ」

 

片手に持っていた指示棒で軽く黒板を叩く。

 

「もっとも――」

 

一拍おいて続けた。

 

「杖を用いずとも魔法を制御できる者もいる」

 

俺の視線は自然と、座席の離れている彼女――エルミナに向いた。

 

「だが魔法制御が苦手な者や、戦闘経験が未熟な者は杖を使え」

 

教室全体を見渡しながら、グランツ先生は続けた。

 

「工程の短縮――杖無しの制御も当然素晴らしいが、基礎を大事にする事も忘れないように」

 

その言葉の中に一つ気になる事があった俺は手を上げた。

 

「短縮って……?」

 

「ふむ、良い質問だ」

 

再び、メガネを押し上げた先生は、指を三本立てる。

 

「杖ありの場合――魔力を杖へと流し、調整し、放つ」

 

そのまま一本ずつ、指を折り。

 

「要するに攻撃や防御までに、最低でも三工程の手順が必要となってくる」

 

そして、再び上げた指。

今度は二本だった。

 

「対して、杖なしの場合――己の中で調整し、放つ」

 

同じ様に指を折る。

 

「工程が一つ減る分、当然、発動速度は速くなる」

 

先生は静かに続けた。

 

「実力が拮抗している相手ならば、理論上、杖無しの方が早く魔法を打ち込める」

 

その言葉で俺がイメージしたのはやはり、前回の決闘。

 

確かに杖を使った樋川より、エルミナの方が魔法射出速度は速かったような気がする。

 

そして俺の頭の中には一つの疑問が浮かんだ。

 

「じゃ、じゃあさ――」

 

思わず身を乗り出して告げた。

 

「前の決闘でエルミナがやってた詠唱は?」

 

その言葉に一瞬、教室が静まり、グランツ先生はわずかに目を細めた。

 

「……少し脱線になるが、まぁ良いだろう」

 

指し棒の伸縮を戻し、言った。

 

「本来は二年次に教える内容だ。」

「故に、今覚えるべき基礎を疎かにするなよ」

 

軽く、教壇を叩く。

 

「――先日の決闘に沿って説明しよう」

 

その言葉に、俺も教室内の空気も少し静かになる。

 

「樋川が放った【リビュオン・レイ】。アレは自身の魔力のみで構成された魔法だ」

「必要になる事は、己の魔力の制御のみ」

 

そして、視線をゆっくりと動かす。

 

「対してアルヴェインの【リビュオン・イグニス】。これは自身の魔力に加え、”自然魔力”を取り込んだ魔法だ」

 

「自然……魔力……?」

 

俺は聞き慣れない言葉に首を傾げた。

 

「地面や樹木、大気中に存在する不可視の魔力。自然が発するソレを、我々は自然魔力――マナと呼ぶ」

「そしてそのマナに”命令”を与える工程――それが詠唱だ」

 

教室の空気が、さらに静かになる。

 

「例えば"炎を纏え"、とマナに伝わる命令式で詠唱を行う事が出来れば、魔法の威力も現象も変わる」

 

「じゃあ、そのマナと自分の魔力をくっつければ強くなるって事?」

 

詠唱を行えば簡単に火力アップを見込めると、そう思ったのだが。

 

「言うは易し、だ」

 

その考えは即座に否定された。

 

「詠唱が破綻していれば命令は伝わらず、魔法は不発……暴発するケースもある」

「だが、繰り返し扱い、正しい命令式を理解する事で、マナとの”認識”が一致する。そうなれば詠唱の短縮も可能だ」

 

先生は腕を組み、教室を見渡した。

 

「魔法名を告げる行為も、命令の一部……皆が普段から自身の魔力で魔法を放つ際に、魔法名を読み上げる行為も当然意味があるからだ」

 

「魔法名ってカッコいいから言ってた訳じゃないのか……」

 

ぽつりと漏れた俺の言葉に、グランツ先生は小さく息を吐いた。

 

「……少し脱線してしまったな」

 

軽く咳払いをし

 

「ひとまず以上だ、授業に戻すぞ」

 

それ以上は語られなかった。

 

 

「エルミナさん凄いね!あんな難しい事してたんだね」

 

樋川は昼ご飯のお弁当を持ちながら、先程の詠唱についてエルミナにそう告げた。

 

「あ、アレは私もまだ完璧ではなくて……」

「って言うか、そんな事よりも……」

 

そう話すエルミナの笑顔は次第に鋭い目つきに代わり、対面の俺と目が合った。

 

「どうしてあなたも居ますのよ!赤城遥!!」

 

「えっ!今更!?」

 

昼休憩に入り、共に中庭まで昼ご飯を食べにやって来たのに、この言葉。

 

俺は見えていないのか?

 

「私と萌花の、女子だけのお昼ごはんですわよ!男の――ノクスの入るスペースなどありませんわ!」

 

「また野糞言ってるよ、このお嬢様」

 

「なっ……!また、下品な……」

 

その言葉にまたしても赤面したお嬢様は怒りのトーンのまま続けた。

 

言葉を強調するように。

 

「ノ・ク・ス!いい加減覚えなさい!赤城遥!!」

 

「遥で良いって、毎回フルネームは呼びにくくない?」

 

一時は喧嘩もしたが、今は学友と思っている俺は、ここ数日そう提案をしてきたのだが、どうも、俺が「エルミナ」と呼ぶのも気に入らないらしい。

 

そんな事を考えていると、隣から樋川が仲裁に入った。

 

「まぁまぁ、エルミナさんも落ち着いて」

 

両手を使ってそう告げた樋川の言葉は耳に届いていないのか、エルミナの言葉は続いて。

 

「忘れてませんわよ。あなたが私のサンドイッチをつまみ食いした事!」

 

「すまん。アレは美味しかった……」

 

「この――」

 

怒りのままに、エルミナが立ち上がったその瞬間だった。

 

――コン、と。

 

軽い鐘の音が、校内に響いた。

 

校内アナウンスを意味するそれに、エルミナも制止した。

 

そして、そのままアナウンスが流れた。

 

『高等部一年、エルミナ・アルヴェイン。学園長が及びです。至急学園長室まで来ること』

 

繰り返されるアナウンス。

 

「ババ様がエルミナさんを?」

 

樋川は不思議そうにアナウンスの声聞いていた。

 

「ひとまずサンドウィッチの件はお預けですわ」

 

そう言ったエルミナは、直ぐにお弁当を片付けた。

 

そして、樋川に”のみ”言葉を告げた。

 

「ひとまず行ってきますわ。萌花、お昼はまた明日お願いしますわ」

 

「うん、気にしないで」

 

そう返した樋川と、俺は校内に向かうエルミナを見送った。




読んで頂きありがとうございました。
二章が始まりました、また見て頂けますと嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。