落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
「高等部一年、エルミナ・アルヴェインです」
その言葉と同時に、学園長室の扉が静かに開いた。
「昼時にすまんかったのエルミナ」
開口一番そう告げたババ様にエルミナは返す。
「いえ、おばぁ様のお呼びとあらば、当然参りますわ」
一礼を行い、エルミナは続けた。
「それで学園長、何故私を?」
その疑問を遮る様に、ババ様が口を開いた。
「その前にじゃ……」
「ほれ、隠れとらんと出てこい」
その視線は学園長室の扉の向こうに向けられていた。
扉の外で、二人の肩がびくりと跳ねる。
そしてその二人はおそるおそる顔を覗かせた。
「あ、アレ?バレてた?」
そう告げたのは遥だった。
「赤城遥……っと、萌花!?」
驚くエルミナと違いババ様は冷静な口調のままだ。
「当たり前じゃ、エルミナにバレぬ様、こっそりついてきおって」
「ほらバレてたじゃん!だからやめようって言ったのに!」
慌てて遥に詰め寄る樋川を横目に、エルミナはため息をついた。
「全く……あなたは……」
一瞬だけ遥達へ呆れた視線を向け――すぐに切り替える。
「それはそうと、学園長。そちらの方は?」
その問いに、ババ様はゆるく頷いた。
「うむ。本題に入るとするかの」
ババ様はそのまま真横に立つ老人に片手を向けた。
「こちら、今回の依頼人。ローダン村の村長――」
その言葉に老人は続いた。
「ダロン・ベールスと申します」
老人――ダロンは優しく微笑みながらそう告げた。
そして横に顔だけを向け、続けた。
「大魔女様、こちらの方々が先程お話頂いた?」
「えぇ、右から。エルミナ・アルヴェイン、樋川萌花。そして――」
説明する様、一人一人に手を向け、指し示すばば様は一拍置き、遥に視線を向けた。
「ノクス、赤城遥です」
「おぉ、この子が……ノクス!」
ダロンは顎髭を整えながら、遥を足元から顔まで見上げた。
「少し……懐かしい感覚ですなぁ」
「じぃちゃん、あんまり驚かないん――」
遥がそう尋ねた瞬間、ババ様は一歩踏み出し、そのまま遥の頭に、迷いなく拳を落とした。
「いってぇー!!」
「依頼人と言うたであろう!言葉遣いくらいちゃんとせい!!」
至極当然の指摘だが、遥はその頭部への痛みを掌で覆う事に意識が集中していた。
「ハハハ、構いませんよ大魔女様」
少し笑ったダロンは遥の方へ向き、答えた。
「私の父の友人がノクスだったのでね、幼い頃何度か話した事があったんだよ」
その言葉に、遥の脳裏にふとレンの言葉がよぎる。
「あぁー、昔は人間界とも交流があったって、レンが言ってたなぁ」
元の位置に戻ったババ様がダロンに変わる様に続けた。
「うむ。ダロンさんのご両親の世代でもノクスは珍しかったが、今と比べれば交流も盛んじゃったからのぉ」
「そうですねぇ」
少しだけ目を閉じたまま、ダロンは短く相槌を打った。
「いかんいかん、脱線してしもうたわ」
軽く手を打ち、ババ様は場の空気を引き締める様に言った。
「――では改めて。本題に入るとするかの」
その一言で、先程までの穏やかな空気がすっと落ち着く。
「今回の依頼は、先程も言った通り、ローダン村のダロンさんからじゃ」
「ローダン村……」
エルミナが小さく復唱する。
「学園より北西に位置する村……ですわね」
その確認に、ダロンは穏やかに目を細めた。
「えぇ、小さな村ではありますが……静かで、良い場所ですよ」
どこか誇らしげな声色だった。
だが、その表情にわずかな影が差す。
「――それで、依頼内容ですが」
静かに促すエルミナにダロンは一度頷き、ゆっくりと語り始めた。
「最近……村の周辺で、魔物の目撃が頻発しておりまして」
その言葉に、遥はわずかに眉をひそめた。
「魔除けの魔道具……だっけ?アレは置いてないの?」
思わず口を挟むと、ダロンは苦笑を浮かべて頷いた。
「えぇ、もちろん。村を囲うように配置しております。実際、村の内部へ侵入された事はありません。ですが……」
言葉を区切り、わずかに視線を落とす。
「どうにも、普段より魔物が村に近づいてきている気がして」
静かだが、確かな違和感を含んだ声だった。
「……原因は不明、と」
エルミナが淡々と確認を行った。
「はい。確証はありませんが、万が一の場合もありえますので、最悪の事態を避ける為にも、早めに手を打ちたいのです」
一歩踏み出し、ダロンは頭を下げた。
「原因の調査と、必要であれば魔物の討伐――それをお願いしたいのです」
室内に、短い沈黙が落ちる。
その中で、エルミナがゆっくりと口を開いた。
「依頼内容は理解しました」
「ですが――ひとつ、お聞きしても?」
「え?」
その言葉に、ダロンが顔を上げた。
「なぜ、私なのでしょうか」
エルミナは続けた。
「確かに私は魔法少女。依頼とあらばもちろんお受けいたします」
「しかし、村の危機の可能性があるのならば、魔法省の魔女や魔導士の方々に依頼した方が、確実ではありませんか?」
その指摘に、ダロンは一瞬言葉を詰まらせた。
そして――申し訳なさそうに、苦笑する。
「それはその……お恥ずかしい話かつ、大変失礼な事ですが」
少しだけ頭を掻きながらダロン続けた。
「魔法省の方々に比べて、学園の……魔法少女の方々の方が……依頼料が安価でして」
空気が、ほんの少しだけ気まずくなる。
だが、ダロンは直ぐに顔を上げた。
「調査だけならば、魔法少女の方であれば良いのですが……討伐となると、アルヴェイン家の方であれば、安心できますので」
「貴方が優秀な魔法少女である事は、マリィ・アンソワーズ様にお聞きしました」
「えっ……そ、そうですか」
少しババ様と目が合い、照れた表情のエルミナは視線を落とした。
そしてすぐ、静かに息を吐く。
「――理由も、依頼内容も理解しましたわ」
エルミナは胸を張って続けた。
「調査はもちろん。魔物討伐も含め――この依頼、お受けいたしますわ」
「本当ですか!」
その返答に、ダロンの表情がぱっと明るくなる。
「うむ、これで依頼成立ですな」
その一連のやり取りを見ていたババ様は満足そうに頷く。
「なぁなぁ」
そう告げたのは遥だった。
ババ様と同じく、一連の流れを見ていた遥が、ふと手を挙げた。
「さっきから気になってたんだけどさ」
「魔法少女とか、魔女とか、魔導士とか……結局何が違うんだ?」
その疑問に、エルミナが呆れた視線を向けた。
「そんな事も知らずに、こちらの世界に来てましたの……?」
「悪かったな!」
遥がそう言い返すと、ババ様が小さく笑った。
「まぁ良い。簡単に説明するとじゃな」
そう言って、指を一本立てる。
「まず、一定の試験を突破した見習いを魔法少女及び、魔法士と呼ぶ。呼び名の違いは性別じゃな」
続けて二本目。
「学園卒業後、魔法省……まぁ魔法使いの派遣機関の様な所に所属した者を魔女・魔導士」
「んー……」
遥は少し考えるように顎へ手を当てた。
「俺の世界で言うところの――」
「バイトが魔法少女見習いで、社員が魔法少女」
指を折り続ける。
「んで、マネージャーが魔女。ばぁちゃんが店長って感じか?」
「ま、まねぇーじゃー?」
聞き慣れない単語だったのか、エルミナが怪訝そうに眉を寄せた。
だが、ババ様は少し笑いながら答えた。
「まぁ、概ねその認識で間違っておらんが、相変わらず、お主は独特の表現を使うのぉ」
その言葉に、学園長室に小さな笑いが広がった。
「では、出発は明日の早朝で問題ありませんか?」
「はい、明日はよろしくお願い――」
予定を確認したエルミナへダロンが回答しようとした時だった。
ババ様が口を挟んだ。
「遥、萌花、お主らも付いていけ」
「え?」
その言葉に最初に反応したのは樋川だった。
「わ、私もですか?」
「うむ、ちょうどいい機会じゃ、エルミナの仕事ぶりを勉強させてもらえ」
落ち着いた口調のババ様とは違い、ダロンは少し慌て気味だった。
「あ、あのマリィ・アンソワーズ様。流石に三人分の依頼量は持ち合わせていなくてですね……」
ババ様は少し微笑み、答えた。
「安心してくだされ。追加の二人は、こちらの判断で同行させるだけですよ。それにエルミナ以外は見習いですので」
「は、はぁ……」
「どうですかな?見習いとは言え、二人とも優秀になる予定の魔法使い。依頼はより安全になるかと思いますが」
ダロンは少し申し訳無さそうな表情のまま返す。
「いやしかし、それはこちらに得しか――」
その言葉に直ぐババ様は反応した。
「先程も言いましたが"勉強"ですよ。言うならば実地教習です。同行の許可、それが報酬ですよ」
ニコッと微笑んだババ様に、それ以上ダロンは何も言わなかった。
「承知しました。こちらとしても有難い提案です」
そして樋川と遥の方へ体を向けたダロンは、お辞儀をした。
「お二人共、明日は宜しくお願い致します」
「は、はい」
「おう!」
不安げな樋川とは対照的に、遥だけは妙に乗り気だった。
読んで頂きありがとうございました。
また次回も見ていただけますと嬉しいです。