落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~   作:青井風太

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いざ、初任務へ

小鳥の囀りが聞こえる早朝。

学園の正門前には、箒を手にしたエルミナと樋川、そして依頼人のダロンの姿があった。

あと、オマケの遥。

 

「じぃちゃん、箒で空飛べないの?」

 

遥の問いに、ダロンは苦笑を浮かべた。

 

「私が扱えるのは、生活に必要な魔力操作程度ですよ。魔法の戦闘や応用学は学んでおりませんのでね」

 

そう言って、ダロンはエルミナ達の持つ箒へ視線を向ける。

 

「見た目以上に難しい技術なんですよ、箒飛行は」

 

「はぇー」

 

感心の声を上げる遥を見て、少し自慢げに「フン」っと鼻を鳴らしたエルミナが近づいて来た。

 

「箒飛行で参りますが、問題はありませんか?」

 

「えぇ、馬車よりも断然早いですし、私の村から駅まではかなり距離がありますから、助かります」

 

その様子を少し離れた場所から見ていた樋川は――

 

「樋川、どうかしたか?」

 

気になった遥が近づいたが、樋川は表情を変える事なく告げた。

 

「いや、馴れてるなぁって……改めて自分との差が見えちゃって言うか……」

 

俯きはしない。

 

ただ、淡々とエルミナの取る行動と自分を見比べた結果だった。

 

その姿を見た遥は、特に気にする様子もなく、フッと笑う。

 

「気にすんなよ、これから強くなってくんだろ?」

 

樋川の肩をパンっと叩いた遥。

 

「うん……ありがと」

 

少し照れながらそう言った樋川――

 

「こらぁ、赤城遥!!萌花に何してますの!!」

 

「あーもう、うっさいな」

 

遠くから叫んでいるエルミナの方へ、遥たちはぼやきながら向かった。

 

「では私とダロンさん、萌花と赤城遥とで行きましょう」

 

「お、お願いします」

 

先に箒に跨ったエルミナの後ろへ、ダロンが緊張した様子で乗り込む。

 

一方――

 

「へ、変なところ触らないでよね!」

 

「お前、毎回それ言う気か?」

 

「毎回言わなきゃその……触るじゃん!」

 

「触んねぇーよ!!」

 

相変わらずの調子の二人を呆れた顔で見るエルミナは、声を出す。

 

「行きましょう、ローダン村へ」

 

その言葉を合図に、二本の箒がふわりと浮かび上がる。

 

朝焼けの空へ向けて、彼女達は一気に駆け出した。

 

 

朝の風を切りながら、二本の箒は空を駆けていた。

 

眼下を流れていく森や川、時々見える馬車を見下ろす遥は、子供の様に目を輝かせる。

 

「すっげぇ……マジで異世界って感じ……」

 

「相変わらずですわね」

 

横を飛ぶエルミナが呆れたように返す。

 

そんなやり取りをしていた、その時だった。

 

「――はぇ……」

 

遥の声が、ぽつりと漏れる。

 

「でっかい木だなぁ……」

 

四人の視線の先。

 

山の向こう側に、一本の巨大な樹木がそびえ立っていた。

 

「樹齢、何年だよアレ……」

 

感嘆混じりに呟く遥へ、ダロンが穏やかに笑った。

 

「アレは妖精族の大樹ですよ」

「樹齢で言えば……そうですねぇ。少なくとも、私が物心ついた頃からあの大きさでしたし……」

 

「へぇー……」

 

――だが。

 

そこまで聞いた瞬間、遥の思考が一瞬止まった。

 

数秒遅れて。

 

「ん?」

 

ゆっくりと、遥はダロンの方を向いた。

 

「今なんて?」

 

「え?樹齢はちょっと私にもわから――」

 

「そこじゃなくて」

 

食い気味にそう言われたダロンは不思議そうに首を傾げた。

 

「妖精族の大樹って?」

 

「えぇ、あの山を越えれば妖精族の国ですよ」

 

ダロンがそう告げた瞬間だった。

 

「ちょっ、えぇ!?」

「妖精族!?人間以外もいんの!?」

 

突然テンションを爆発させた遥の体がぐらりと揺れる。

 

「ちょ、ちょっと!危ないからじっとして!!」

 

前に座る樋川が慌てて声を上げた。

 

「だって妖精って妖精だろ!?耳が長くて、羽が生えてて、森に住んでて。笛吹いたりしてるアレだろ!?」

 

「間違ってないけど、落ちる落ちる!!」

 

空の上とは思えない騒がしさだった。

 

その様子を少し前方から見ていたエルミナが、小さくため息を吐く。

 

「全く……」

 

「ハハハ……」

 

ダロンもその光景を眺めながら少し笑っていた。

 

そして――

 

「見えてきましたよ」

 

ダロンの声と共に、箒がゆっくりと高度を下げていく。

 

森の合間から、小さな村が姿を現した。

 

木造の家々。

畑。

煙突から立ち上る煙。

 

どこか懐かしさする感じる、小さな村だった。

 

「おぉー……」

 

その光景を前に、遥が感嘆の声を漏らす。

 

「なんかRPGの始まりの村って感じすんなぁ」

 

「また意味の分からない事を……」

 

呆れたようにエルミナが息を吐く。

 

その横で、樋川は村の入り口付近へ視線を向けていた。

 

「……あれ?」

「なんだか、魔除けのランタンの火……小さくない?」

 

村の外周を囲うように、一定間隔で、白い炎が灯った魔除のランタンが並べられている。

 

樋川はじっとランタンを見つめたまま、小さく首を傾げた。

 

「うーん……そうですか?私からは普段通りにしか見えないのですが……」

 

ダロンはその言葉と共にランタンへ目を向けた。

 

「いえ、私の気のせいかも知れません。魔力の感じ方には個人差がありますから」

 

樋川がそう言っている間にも、箒はゆっくりと高度を下げていく。

 

やがて四人は、村の入口近くへと降り立った。

 

土を踏む感覚と同時に、遥は小さく息を吐く。

 

「やっと……着いたぁ!」

 

「あなたは乗っていただけでしょう」

 

箒から降りたエルミナが呆れたように言った。

 

その横では、樋川がまだランタンへ視線を向けている。

 

「そんなに気になるのか?」

 

遥が尋ねると、樋川は少しだけ眉を寄せた。

 

「うーん……なんて言えばいいんだろ」

「嫌な感じ……っていうか」

 

はっきりとは言えないが、どこか胸の奥がざわつく。

 

そんな感覚だった。

 

「考えすぎではありませんかな?」

 

ダロンは穏やかに笑いながらそう返した。

 

「最近は魔物の話ばかりでしたから、村の皆も少し神経質になっているのかもしれません」

 

その時だった。

 

「おぉ!ダロン村長!」

 

畑仕事をしていた男が、こちらへ気付いて駆け寄ってくる。

 

「無事戻られたんですね!」

 

「えぇ、魔法使いの方々に来てもらったよ」

 

ダロンの言葉に、男の表情がぱっと明るくなる。

 

「本当ですか!これで安心だ!」

 

その声につられるように、近くの村人達も次々と顔を向け始めた。

 

「若いのに魔法使い様かぁ」

「綺麗なお嬢さん達だねぇ」

「これで村も安泰じゃな」

 

口々にそんな声が飛び交う。

 

その反応に、エルミナは軽く胸を張った。

 

「依頼を受けた以上、責任を持って解決してみせます」

 

堂々とした言葉。

 

だが――。

 

その時、遥はふと気付いた。

 

笑っている村人達の中に、時折ちらちらと森の方を見ている人が居た気がした。

 

まるで、何かを警戒するように。

 

「……?」

 

小さな違和感。

 

だが、それが何なのかまでは分からない。

 

「ひとまず、私の家へどうぞ」

 

ダロンがそう言って歩き出す。

 

三人は、ダロンの後を追うように村の中へと足を進めた。

 

村の景色は穏やかだった。

 

杖で洗濯物を操り干す女性。

走り回る子供達。

薪を割る男。

 

どこにでもありそうな、小さな村の日常。

 

――なのに。

 

「……」

 

樋川は一度だけ、振り返った。

 

村の入口に並ぶ魔除けのランタン。

 

その白い炎が。

 

一瞬だけ、ふっと弱く揺れた気がした。

 

 

「こちらです」

 

案内されたのは、村の中央付近に建てられた木造の家だった。

 

「おぉー、でっけぇ」

 

「一応、村長をやらせてもらってますので……」

 

遥の言葉に、ダロンは少し照れたように笑う。

 

家の中へ入ると、木の香りがふわりと鼻を抜けた。

 

「では皆さん、長旅で疲れたでしょう」

「お茶を用意しますので、少々お待ちを」

 

ダロンが奥の部屋へ消えていく。

 

その間に、エルミナはすぐ仕事の顔へ戻っていた。

 

「萌花」

 

「え?」

 

「あなたも、ランタンの違和感は気になっていたのでしょう?」

 

その問いに、樋川は小さく頷いた。

 

「うん……なんか、魔力が薄い感じがして」

 

「魔除けの効果が弱まっている可能性がありますわね」

 

腕を組み、エルミナは静かに考え込む。

 

その横で、遥は窓の外をぼんやり眺めていた。

 

「……なぁ」

 

「なんですの?」

 

「この村さ」

 

遥はゆっくりと森へ視線を向けた。

 

「なんか変じゃね?」

 

その言葉に、部屋の空気が少しだけ静まる。

 

「変、と言いますと?」

 

「いや……上手く言えねぇんだけど」

 

上手く言葉に出来ないが、村は平和に見えるのに、妙に静かだった。

 

人の声もある。

笑い声もある。

 

なのに――。

 

「やけに森を気にしてる人が居た気がして……」

 

「魔物の目撃が多発してますのよ?当然の反応ですわ」

 

エルミナの言葉はその通りだ。

 

だが、何か引っかかる、根拠のない違和感が遥の胸にはあった。

 

その瞬間だった。

 

カラン――……

 

窓の外で、魔除けランタンの火が小さく揺れた。

 

それを感じたエルミナは立ち上がり告げた。

 

「……一度、日が落ちる前に、周辺を確認しましょう」

 

その言葉に、樋川も真剣な表情で頷いた。

 

「うん。私も、ちょっと気になる」

 

そして遥もまた、窓の外へ視線を向ける。

 

村の外れ。

 

森の奥。

 

そこに――誰かが立っていた気がした。




読んで頂きありがとうございました。
また次回も見ていただけますと嬉しいです。
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