落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~   作:青井風太

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嵐の前の静けさ

「――ひとまず、ダロンさんの予感通り、魔物が確認できましたわ」

 

村へ戻ったエルミナは、村長宅のテーブル越しにそう告げた。

 

窓の外では、夕暮れの光が少しずつ薄れていく。

 

「森の周辺には複数の魔物の痕跡がありました。しかも種別の違う魔物同士が、ほぼ同じ範囲を移動していた形跡もあります」

 

「やっぱり異常……だよね」

 

樋川が不安そうに尋ねる。

 

エルミナは静かに頷いた。

 

「えぇ……」

「少なくとも、ダロンさんが感じていた“魔物が近付いている違和感”そのものは、間違いではありません」

 

その言葉に、ダロンは小さく息を吐いた。

 

「そう……でしたか」

 

安心したような。

だが同時に、不安が確信へ変わってしまったような複雑な表情だった。

 

だが、そんな空気を断つようにエルミナは続ける。

 

「とは言え、現時点で魔除けは機能しています。魔力の弱まりは少し気になりますが、すぐに村へ魔物が侵入するほどではありません」

 

「なら安心って事か?」

 

遥がそう尋ねると。

 

「少なくとも、直近で何か起こる可能性は低いですわね」

 

エルミナは姿勢を正したまま、答えた。

 

「明日、もう一度森を調査します」

「原因さえ掴めれば、対処は可能ですわ」

 

その言葉に、ダロンも少しだけ表情を緩める。

 

「ありがとうございます……本当に」

 

 

その後。

 

ダロンの家では、簡単な夕食が振る舞われた。

 

焼いた白身魚。

野菜のスープ。

少し硬めの黒パン。

 

豪華ではない。

だが、どこか落ち着く味だった。

 

「うめぇー」

 

食事を頬張った遥が素直に声を上げる。

 

「ふふ、ありがとうございます。学園の食事に比べられると、見栄えはしませんが、村で採れた自慢の野菜です」

 

「いやいや、これだよこれ。この落ち着く雰囲気で食べるご飯が一番美味しいんだよなぁ」

 

そんな遥の様子を見て、樋川も小さく笑う。

 

その横でエルミナは、優雅にスープを口へ運びながらため息を吐いた。

 

「本当に、どこでも順応しますわねあなたは」

 

「そうか?でもこれ凄く美味しいぞ?」

 

「美味しいかどうかの話はしてませんわ!」

 

そう言い返した後、

エルミナは少しだけ視線を逸らす。

 

「……美味しいですけど」

 

そんなやり取りに、ダロンは穏やかに微笑んでいた。

 

 

夜。

 

寝る準備を終えた後、三人は来客用の一室へ案内された。

 

「では、萌花はこちらのお布団を使ってください」

 

「うん、ありがとう」

 

女子二人は客間へ。

 

「ほんじゃ俺は――」

 

三枚並べられた布団の右端に行こうとした

遥は――

 

「赤城遥」

 

「ん?」

 

エルミナは当然のように告げた。

 

「あなたは廊下ですわ」

 

「は???」

 

遥の声が家に響く。

 

「いやいやいや!?なんで!?」

 

「当然でしょう」

「女性二人と同じ部屋で寝る気ですの?」

 

「だって、そこに布団が……なぁ樋川も何とか言ってくれよ!」

 

布団の上に座ったままの樋川は答えた。

 

「納屋かどっちがいい?」

 

「廊下でお願いします……」

 

即答だった。

 

そんな小さな騒がしさの後。

 

村長宅の灯りは、静かに落とされた。

 

 

――深夜。

 

「……ん」

 

遥はゆっくりと目を覚ました。

 

原因は――尿意。

 

「最悪……」

 

ぼやきながら、遥は眠そうな目を擦る。

 

廊下の窓からは、薄暗い月明かりが差し込んでいた。

 

静かな夜。

 

聞こえるのは風の音だけだが、その静けさ故の不気味さが遥を襲った。

 

「べ、別に幽霊なんか怖く無いし?そもそもそんなもん信じてないし?」

 

そんな情けない独り言を呟いていた時、ふと。

 

遥の視線が窓の外へ向く。

 

村の外周。

 

そこに並んでいるはずの、魔除けランタン。

 

だが――。

 

「……あれ?」

 

遠目でよく見えない。

 

だが。

 

「火が……」

 

そう呟いた瞬間だった。

 

コン――……。

 

夜の静寂を裂くように、魔除けランタンの灯がふっと消えた。

 

その直後。

 

「ォオオオオオオオン――!!」

 

森の奥から響く遠吠えのあとを追うように、村中の窓に明かりが走った。

 

そして背後の扉が勢い良く開いた。

 

「今のは!?」

 

慌ただしい表情でそう告げたのはエルミナだった。

続いて樋川も姿を表す。

 

「ランタンの火が!」

 

遥のその一言で表情をこわばらせたエルミナは窓際まで駆け寄り、一番近くに見えるランタンを確認した。

 

「なんて事……くっ!」

 

エルミナの表情から、余裕が消えていた。

 

だが――

 

思考は素早く、その足は直ぐに屋外に向かっていた。

 

「萌花、魔法省へ連絡をお願いしますわ!」

「赤城遥は村長と共に村民を連れて、村の中心まで!」

 

「う、うん!」

「了解!」

 

その瞬間――

 

再び、森の奥から遠吠えが響いた。

 

それはまるで。

 

“狩りの始まり”を告げるように。




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