落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~   作:青井風太

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純粋なる悪意

「エルミナ!!」

 

遥は村人達を連れ、エルミナの居る村の中心まで駆けて来た。

 

息を切らしている者、恐怖で震えている者、状況を理解できていない者。

 

それぞれが遥と途中で合流した樋川、村長の後に続いていた。

 

四方八方から鳴り響く魔物の咆哮やうねり声。

 

姿はまだ見えないが、確かな恐怖がそこにはあった。

 

「エルミナさん、魔物は?」

 

「囲まれてますわ……ですが、妙ですの」

 

村の中心へ集められた村人達を背に、エルミナは険しい表情で森を睨んでいた。

 

「妙って?」

 

遥は尋ねる。

 

「魔物が攻めてきませんの」

「数は居ますわ。恐らく十や二十では済みません。ですが――」

 

エルミナは村の外周へ視線を向けた。

 

暗闇の中。

 

村を囲うように並ぶランタンの灯は、既に殆ど消えている。

 

だが――。

 

「っ!」

「まだ一本だけ、反応がありますわ……!」

 

エルミナがそう告げた瞬間。

 

ざわついていた村人達の表情に、僅かな希望が戻る。

 

「じゃ、じゃあまだ助かるのか!?」

「魔物は入って来れねぇんだな!?」

 

樋川も目を閉じ、魔力を探るように呟いた。

 

「うん……まだ一本だけ、生きてる」

 

だが、エルミナの表情は険しいままだ。

 

「安心は出来ませんわ」

「魔力はかなり弱っています。あとどれほど持つか――」

 

その時だった。

 

「お、おい!!」

 

人混みをかき分ける様に、一人の男が前へ飛び出してくる。

 

右目に傷跡を持つ男――ハインだった。

 

「なんか変な臭いしねぇか!?」

 

その言葉に、全員の視線が向く。

 

広場の端。

 

そこには、いつの間にか一つの布袋が置かれていた。

 

袋の口は少し開いており、中から紫色の煙のようなものが薄く漏れている。

 

「この臭い……!」

 

ハインが鼻を押さえながら声を上げる。

 

「魔香じゃねぇか!?」

 

空気が凍りついた。

 

「なっ――!?」

 

エルミナの目が見開かれる。

 

樋川も息を呑んだ。

 

「魔香って……!」

 

「何故あなたが魔香の匂いを――」

 

そのハインの言葉を不思議がったエルミナが等の本人に視線を向けた時。

 

その瞬間。

 

「だったら遠ざければいいんだろ!」

 

遥が反射的に前へ飛び出した。

 

「あっ、赤城遥!待ちなさい!!」

 

制止は間に合わない。

 

遥はそのまま勢いよく袋を蹴り飛ばした。

 

瞬間――。

 

パリンッ!!

 

鋭い破砕音が村中へ響き渡る。

 

布袋の中から飛び散ったのは。

 

砕けたランタンの破片。

 

そして――。

 

「ま、魔除けのランタン……!?」

 

誰かが震える声を漏らした。

 

辛うじて残っていた白い火種が、ランタンを包んでいた袋へ燃え移る。

 

ボゥッ――!!

 

白い炎が一気に燃え上がった。

 

同時に、袋の中へ詰め込まれていた紫色の粉末が周囲へ撒き散らされる。

 

「魔香の粉が!」

 

エルミナの声が響く。

 

紫色の粉は、地面へ小山のように広がっていく。

 

そして。最後の魔除けランタンの火は、激しく揺らいだ後――静かに消えた。

 

一瞬の静寂。その次の瞬間。

 

「「「ォオオオオオオオオン――――ッ!!」」」

 

森全体を震わせるような咆哮が轟いた。

 

無数の魔物の咆哮に地面は震えた。

 

村人達の顔から、一瞬で血の気が引いた。

 

「ケヒヒヒ……」

 

皆が動揺する中、薄気味悪い笑い声を発したのはハインだった。

 

「ひっかかったなぁ」

 

その目は、愉悦に歪んでいた。

 

「助けに来たはずの魔法少女自ら、最後のランタンを壊すとはなぁ。これで、この村は終わりだ」

 

「ハイン……?」

 

ダロンが信じられない物を見るように呟く。

 

「お前……何を言ってるんだ……?」

 

その言葉と様子に村人達もざわめき始める。

 

「は……?」

「どう言う事だ……?」

 

だが。エルミナだけは、静かにハインを見据えていた。

 

「ハインさん……あなたが、この状況を仕組んだのですか?」

 

「あぁ?まぁ、そういう事になるなぁ」

 

悪びれる様子もなく答えるハイン。

 

「な、何故こんな事を!?」

 

村人の叫びにダロンも震える声で続けた。

 

「ハイン……どうして……!」

 

「あぁ?」

 

ハインは肩を竦める。

 

「何でって……まぁ、言うなれば趣味だなぁ」

 

「……は?」

 

空気が凍る。だが、ハインは心底楽しそうに笑った。

 

「好きなんだよなぁ。人の絶望してる表情を見るのがさぁ」

 

村人達の顔が青ざめていく。

 

「本当はもっと時間をかけて、じわじわ村を追い込むつもりだったんだ」

「その方が、命の危機に晒された時の顔をゆっくり見れるだろ?」

 

「だか、予定が変わった。魔法少女様が来ちまったからなぁ」

 

ケヒヒ、と喉を鳴らして笑う。

 

「だから少し早めたんだ」

「まぁでも、これはこれで最高だぜ」

 

「イカれてますの……?」

 

エルミナの声は低く、ただ相手を視線で捉えたまま告げた。

 

「貴方を救った村でしょう……!」

 

「違う違う」

 

ハインの口角はニヤリと上がり、続いた。

 

「最初から、この村を壊すつもりだったんだよ」

 

左手をひらひらと振る。

 

その人差し指と中指には紫色の爪のような物が装着されていた。

 

「趣味を楽しめて、金も貰えるんだ。最高だと思わねぇか?」

 

「ゲス野郎が……」

 

遥が吐き捨てる。

 

するとハインは、つまらなさそうに鼻を鳴らした。

 

「その程度じゃ足りねぇなぁ。俺が一番好きな絶望の表情には、遠く及ばねぇな」

 

そして、思い出したように笑った。

 

「あの羽の生えたガキは本っ当に良かったぜぇ」

「死んだ母親揺すって、“お母さん、お母さん”って泣いてよぉ。あの表情を思い出す度に今でも笑いがケヒヒヒ、込み上げて――」

 

その瞬間。

 

エルミナは小さく、だが、力強く告げた。

 

「――もう良いですわ」

 

その魔力は、拳は怒りで震えていた。

 

「それ以上、口を開くな!!」

 

瞬間。

 

「リビュオン・レイ!!」

 

光線が一直線に放たれる。

 

だが。

 

ハインが指を軽く振った瞬間。

 

一体の四足歩行型の魔物が飛び出し、光をその身で受け止めた。

 

爆ぜる黒い霧。

転がる魔石。

 

「なっ……!?」

「魔物が……庇った!?」

 

村人達が息を呑み、エルミナはそのあり得ない光景に驚きを隠さずにいた。

 

ハインはただ、手元の"爪"に意識を向け、愉快そうに笑う。

 

「ケヒヒ、こりゃ、すげぇなぁ」

 

そして。

 

ゆっくりと、最後のランタンだった残骸へ視線を向ける。

 

「良いのか?」

「俺と喋ってる間にも、魔物の群れは近付いて来てるぜぇ?」

 

エルミナの表情が歪む。

 

見えなくとも分かる。

 

森を埋め尽くすほどの魔力反応。

 

無数の地響き。

 

村人を守りながら、この数を撃退し、この男まで捕える。

 

そんな事――。

 

「どう……すれば……」

 

考えても具体的な答えはでない。

だが、エルミナは思考を回した。

 

どうすれば。

どうすれば。

どうすれば――。

 

その時だった。

 

ザッ――。

 

目の前を、遥が横切る。

 

「……赤城遥?」

 

遥は地面へ散らばった魔香の粉を掴み上げると。

 

そのまま、自分の体へ振りかけた。

 

「なっ――!?」

 

紫色の粉が舞う。

 

「な、何をしてますの!!?」

 

遥は口へ入った粉を「ぺっ」と吐き出しながら答えた。

 

「何って……これで魔物は俺に寄ってくるだろ」

 

「そんな事聞いてませんわ!!」

「このままでは貴方が――」

 

「魔物の群れは俺と樋川で何とかする」

 

遥は振り返る。

 

その目に、迷いは無かった。

 

「だから――」

「そいつは、お前がぶっ飛ばせ」

 

親指を立て、そう告げた遥。

 

「赤城君だけじゃない」

 

それに続く様に樋川も一歩前へ出る。

 

「三人で守ろう、エルミナさん」

 

「萌花……赤城遥……」

 

「ケヒヒヒ、何だそれ。そんな友情ごっこで止められる訳――」

 

その言葉を聞く気は無く。

エルミナの放った光線が、ハインの頬を掠める。

 

「お二人とも――」

 

エルミナは拳を強く握り締めた。

 

「頼みますわ!!」

 

「「おう!!」」

 




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