落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
魔法を打ち込んだ箇所に漂う土煙。
土煙の中から、無数の赤い瞳が浮かび上がる。
その数は、依然としてほとんど減っていなかった。
土煙から勢いよく飛び出してきた第二陣の群れが、咆哮をあげながら着実にこちらへと距離を詰めていた。
「数……殆ど変わんないな」
「さっきの魔法に巻き込まれて十数体は倒せたと思う……けど、量が量だから」
魔物から視線を外さぬまま、樋川は軽く跳ねるように後退する。
「一気に焼き払うぞ、さっさと倒してエルミナの加勢だ!」
「了解!」
遥は両手で、樋川の肩から魔力を一気に吸い上げる。
一瞬フラついた樋川だったが、直ぐに魔物へと杖を向け、静電気の様な細さの魔法を放った。
「リビュオン・レイ……」
ピョロピョロとでも言えそうなその波打った光。
とても光線とは呼べない代物に、魔物は警戒する素振りも無く、その足は止まらない。
やがてその光が魔物の群れの先頭まで達した時だった。
「今だ!"通り道"を意識しろ!」
「うん!!」
遥は吸い上げた魔力を、今度は逆に、一気に送り返した。
瞬間、二人は放つ。
「リビュオン・ブースト!!」
事前に放った弱い光を導線とした極太の光が、空気を押し除けながら、魔物の大群へ向け、一直線に突き抜ける。
光が通った跡の地面は抉れ、魔物達も自身へ訪れた急激な危機故か、回避を試みた。
しかし、遅い。
今はまだ、自在に曲げて制御する事はできない光。
だが、魔物と光の距離は既に近すぎた。
ゴォォォッ!!
っと震える空気と共に、大量の魔石が地面に散らばっていた。
「樋川……魔力、大丈夫か?」
オーバーヒートした機械の様に、一度深く呼吸した樋川は答える。
「うん……消費量は多かったけど、まだいけるよ」
魔石の回収など二の次だ。
「よし、とりあえずエルミナの援護に――」
村の中心へと踵を返し、遥が移動を指示しようとした――その瞬間だった。
ズシン――
地面が跳ねる様な足音に、樋川は足を止めた。
ズシン――
それは先程までの魔物達とは明らかに違う“重さ”と"威圧感"を持った足音。
樋川はゆっくりと振り返る。
そして、その姿を視界に捉えた瞬間。
「フォルガ……リオン……!?」
震えるような声が漏れた。
――グオォォォォォォォォッ!!!!
その声に返事をするかの様に、特大の咆哮が空気を震わせる。
二人の前に現れたのは、巨大な獅子を思わせる四足歩行の魔物だった。
その体高は目測でも四メートルを超えているのがわかる。
全身は紫色の体毛で覆われ、鋭い牙の隙間から熱気混じりの吐息が漏れている。
赤く光る瞳だけが、暗闇の中で異様な存在感を放っていた。
「なんだ……コイツ……」
同じくらい大きいゴリラの魔物に襲われた事はあった。
だが、目先の魔物は、今まで見てきた魔物とは明らかに違う。
タヌキ姿の遥が、思わず引きつった声を漏らす。
その瞬間だった。
魔物の前足が、大きく振り上げられる。
振り被る前足を見上げる事しかできなかった二人は、一瞬遅れて、自分たちの危機を理解した。
「避けろ避けろ避けろぉぉ!!」
「くっ――!!!」
遥の叫びに反応し、樋川は全力で後方へ跳んだ。
ドゴォンッ!!!
激しい音と共に、振り下ろされた前足は、元居た場所を砕き割った。
地面が砕け、破片と土煙が爆発するように吹き上がった。
「嘘だろ……!?」
その異常な一撃を目の当たりにし、遥は思わず声を漏らした。
樋川は焦りながらも、後ろ飛びで距離を離していく。
だが――
次の攻撃が魔物の口元で準備されていた。
閉じた口の隙間から漏れ出る炎――
ゴワァッ!!
次の瞬間には魔物の口から炎のブレスが放たれていた。
「六分割だ!回避じゃ間に合わねぇ!!」
「くっ――!!」
瞬間のやり取りで展開された魔力の障壁――”亀甲壁”は樋川達と炎の前に、間一髪で現れた。
しかし。
「厚みが……耐え……られない……」
両手で握る杖に力が入り、踏ん張っていた樋川だったが、その障壁はビキビキっと言う音と共に亀裂が走った。
「ダメだ、全力で横に跳べ――」
その咄嗟の合図に反射的に右側へ跳び込んだ瞬間、障壁は割れ、後方に在った家ごと焼き払われた。
「あ、赤城君……大丈夫?」
「お、おう……樋川こそ……って言うか何だよアイツ。樋川知ってんのか?」
炎の残り火を、煙の様に吐いた魔物は、追撃を仕掛けるでもなく、その場で低く唸っていた。
まるで獲物を観察するかの様に。
「うん、講義で習ったの……実物を見るのは初めてだけど」
樋川は杖を構え直しながら答える。
「フォルガリオン……西の砂漠地帯に生息する中位種の魔物……本来こんな場所に居るはず無いのに……」
「ハインがあの爪で操って連れて来たって事か?」
その問いに、樋川は首を横に振った。
「ううん、あの爪が何の魔道具かは分からないけど、フォルガリオンまでも操れるなら、最初から私達に使ってたはず」
確かにそうだ。
森で遭遇した時も。
広場で対峙した時も。
もし操れるなら、こんな切り札を温存する理由がない。
「多分あの爪で操れるのは低位種が限界のはず……」
「じゃあこいつは勝手にローダン村付近まで来て、魔香に寄って来たって事か!?
そんなめちゃくちゃな!!」
「そんな事より、この状況……かなり絶望的よ」
頬に伝った汗を拭うことなくそう言った樋川に遥は聞いた。
「確かにあの攻撃力……当たれば即死……だよな」
だが、樋川は即座に否定した。
「違う……」
「え?じゃあ、なんだよ?」
杖をグッと握り直した樋川は告げた。
「アイツ……」
「魔法が通じないのよ……」
読んで頂きありがとうございました。
また次回も見てもらえると嬉しいです。