落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~   作:青井風太

29 / 30
モンスターズ・パレード

魔法を打ち込んだ箇所に漂う土煙。

 

土煙の中から、無数の赤い瞳が浮かび上がる。

その数は、依然としてほとんど減っていなかった。

 

土煙から勢いよく飛び出してきた第二陣の群れが、咆哮をあげながら着実にこちらへと距離を詰めていた。

 

「数……殆ど変わんないな」

 

「さっきの魔法に巻き込まれて十数体は倒せたと思う……けど、量が量だから」

 

魔物から視線を外さぬまま、樋川は軽く跳ねるように後退する。

 

「一気に焼き払うぞ、さっさと倒してエルミナの加勢だ!」

 

「了解!」

 

遥は両手で、樋川の肩から魔力を一気に吸い上げる。

 

一瞬フラついた樋川だったが、直ぐに魔物へと杖を向け、静電気の様な細さの魔法を放った。

 

「リビュオン・レイ……」

 

ピョロピョロとでも言えそうなその波打った光。

 

とても光線とは呼べない代物に、魔物は警戒する素振りも無く、その足は止まらない。

 

やがてその光が魔物の群れの先頭まで達した時だった。

 

「今だ!"通り道"を意識しろ!」

 

「うん!!」

 

遥は吸い上げた魔力を、今度は逆に、一気に送り返した。

 

瞬間、二人は放つ。

 

「リビュオン・ブースト!!」

 

事前に放った弱い光を導線とした極太の光が、空気を押し除けながら、魔物の大群へ向け、一直線に突き抜ける。

 

光が通った跡の地面は抉れ、魔物達も自身へ訪れた急激な危機故か、回避を試みた。

 

しかし、遅い。

 

今はまだ、自在に曲げて制御する事はできない光。

 

だが、魔物と光の距離は既に近すぎた。

 

ゴォォォッ!!

 

っと震える空気と共に、大量の魔石が地面に散らばっていた。

 

「樋川……魔力、大丈夫か?」

 

オーバーヒートした機械の様に、一度深く呼吸した樋川は答える。

 

「うん……消費量は多かったけど、まだいけるよ」

 

魔石の回収など二の次だ。

 

「よし、とりあえずエルミナの援護に――」

 

村の中心へと踵を返し、遥が移動を指示しようとした――その瞬間だった。

 

ズシン――

 

地面が跳ねる様な足音に、樋川は足を止めた。

 

ズシン――

 

それは先程までの魔物達とは明らかに違う“重さ”と"威圧感"を持った足音。

 

樋川はゆっくりと振り返る。

 

そして、その姿を視界に捉えた瞬間。

 

「フォルガ……リオン……!?」

 

震えるような声が漏れた。

 

――グオォォォォォォォォッ!!!!

 

その声に返事をするかの様に、特大の咆哮が空気を震わせる。

 

二人の前に現れたのは、巨大な獅子を思わせる四足歩行の魔物だった。

 

その体高は目測でも四メートルを超えているのがわかる。

 

全身は紫色の体毛で覆われ、鋭い牙の隙間から熱気混じりの吐息が漏れている。

 

赤く光る瞳だけが、暗闇の中で異様な存在感を放っていた。

 

「なんだ……コイツ……」

 

同じくらい大きいゴリラの魔物に襲われた事はあった。

 

だが、目先の魔物は、今まで見てきた魔物とは明らかに違う。

 

タヌキ姿の遥が、思わず引きつった声を漏らす。

 

その瞬間だった。

 

魔物の前足が、大きく振り上げられる。

 

振り被る前足を見上げる事しかできなかった二人は、一瞬遅れて、自分たちの危機を理解した。

 

「避けろ避けろ避けろぉぉ!!」

 

「くっ――!!!」

 

遥の叫びに反応し、樋川は全力で後方へ跳んだ。

 

ドゴォンッ!!!

 

激しい音と共に、振り下ろされた前足は、元居た場所を砕き割った。

 

地面が砕け、破片と土煙が爆発するように吹き上がった。

 

「嘘だろ……!?」

 

その異常な一撃を目の当たりにし、遥は思わず声を漏らした。

 

樋川は焦りながらも、後ろ飛びで距離を離していく。

 

だが――

 

次の攻撃が魔物の口元で準備されていた。

 

閉じた口の隙間から漏れ出る炎――

 

ゴワァッ!!

 

次の瞬間には魔物の口から炎のブレスが放たれていた。

 

「六分割だ!回避じゃ間に合わねぇ!!」

 

「くっ――!!」

 

瞬間のやり取りで展開された魔力の障壁――”亀甲壁”は樋川達と炎の前に、間一髪で現れた。

 

しかし。

 

「厚みが……耐え……られない……」

 

両手で握る杖に力が入り、踏ん張っていた樋川だったが、その障壁はビキビキっと言う音と共に亀裂が走った。

 

「ダメだ、全力で横に跳べ――」

 

その咄嗟の合図に反射的に右側へ跳び込んだ瞬間、障壁は割れ、後方に在った家ごと焼き払われた。

 

「あ、赤城君……大丈夫?」

 

「お、おう……樋川こそ……って言うか何だよアイツ。樋川知ってんのか?」

 

炎の残り火を、煙の様に吐いた魔物は、追撃を仕掛けるでもなく、その場で低く唸っていた。

 

まるで獲物を観察するかの様に。

 

「うん、講義で習ったの……実物を見るのは初めてだけど」

 

樋川は杖を構え直しながら答える。

 

「フォルガリオン……西の砂漠地帯に生息する中位種の魔物……本来こんな場所に居るはず無いのに……」

 

「ハインがあの爪で操って連れて来たって事か?」

 

その問いに、樋川は首を横に振った。

 

「ううん、あの爪が何の魔道具かは分からないけど、フォルガリオンまでも操れるなら、最初から私達に使ってたはず」

 

確かにそうだ。

 

森で遭遇した時も。

 

広場で対峙した時も。

 

もし操れるなら、こんな切り札を温存する理由がない。

 

「多分あの爪で操れるのは低位種が限界のはず……」

 

「じゃあこいつは勝手にローダン村付近まで来て、魔香に寄って来たって事か!?

そんなめちゃくちゃな!!」

 

「そんな事より、この状況……かなり絶望的よ」

 

頬に伝った汗を拭うことなくそう言った樋川に遥は聞いた。

 

「確かにあの攻撃力……当たれば即死……だよな」

 

だが、樋川は即座に否定した。

 

「違う……」

 

「え?じゃあ、なんだよ?」

 

杖をグッと握り直した樋川は告げた。

 

「アイツ……」

 

「魔法が通じないのよ……」




読んで頂きありがとうございました。
また次回も見てもらえると嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。