落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~   作:青井風太

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打開の一手

「魔法が通じない!?」

 

衝撃の一言に、そう繰り返した遥の足元で、樋川は小さく頷いた。

 

「うん、魔力への耐性が異常に高くて……ほらあそこ」

 

樋川が指差した先はフォルガリオンの頭部より少し下。

 

首元だった。

 

少し焦げた様に黒ずんでいたその体毛を確認した遥に、樋川は続けた。

 

「さっきの『リビュオン・ブースト』が当たった跡がアレなんだよ……」

 

「マジ……かよ……」

 

二人が現状放てる最高威力の魔法で、体毛の一部が焦げる程度。

 

そんな現実に、遥は小さく呟く事しかできなかった。

 

「正攻法ならどうすんだ?アイツをずっと野放しにして来た訳じゃないんだろ?」

 

その質問に樋川は少し答えにくそうにしながら、口を開く。

 

「普通は詠唱でマナを絡めながらの魔法攻撃や剣撃とか……」

 

「詠唱か、ぶん殴りか……」

 

一つ、遥には気になった事があり、フォルガリオンから視線は外さないまま、樋川に質問した。

 

「ちなみに樋川って詠唱は――」

 

「聞かないでよ、出来ないって分かってるくせに……」

 

「ですよね……」

 

詠唱が使えるのかどうか、答えは半分以上分かっていたが、念のためと聞いた遥の言葉は直ぐに遮られた。

 

そんなやり取りをしている時だった。

 

グルルルル――。

 

“様子見は終わりだ”と、そう告げるような低い唸り声が響く。

 

そして、フォルガリオンの目つきが変わった。

 

グワッ!!

 

「くっ――!」

 

その短い咆哮を聞いた遥は瞬時に指示を下した。

 

「一分割で渡す。アイツの足元に”リビュオン・レイ”を撃て!一旦隠れるぞ!!」

 

「うん!」

 

その言葉と共に受け取った魔力で、フォルガリオンの足元目掛けて放ったリビュオン・レイ。

 

その光は地面で炸裂すると同時に大量の土煙――煙幕を作った。

 

この隙を逃すまいと、二人は近くの民家裏に身を隠した。

 

一時、地面に座り込んだ樋川の肩から降りた遥は言葉を漏らす。

 

「クソ……使える手は打撃だけ……って言うか俺のパンチであんな化け物倒せんのか?」

 

「倒せるわけないでしょ……そもそも物理と言っても拳に魔力を込めたりするのよ」

 

「だよな……ならどうすれば……」

 

民家の陰で身を潜めながら、遥は思考を巡らせていた。

 

魔法は通じない。

 

まともに殴り合っても勝てるわけがない。

 

そんな時、ふと脳裏に一つの可能性が宿った。

 

「そうだ、詠唱ならエルミナを呼べば――」

 

そう遥が口にした瞬間だった。

 

ドゴォォンッ!!!

 

凄まじい衝撃音と共に、隠れていた民家の壁が激しく吹き飛んだ。

 

「なっ!?」

 

飛び散る木片に崩れる壁。

 

土煙の向こう側から、赤い瞳が二人を射抜いていた。

 

グルルルル――……

 

「しまった、魔香か!」

 

遥はこの状況故に頭から抜けていた。

 

自分に振り掛けた魔香の存在を。

 

そしてその魔香の匂いを、今まさに、フォルガリオンに辿られたのだ。

 

それは、“隠れる”という選択肢が既に意味を成していない事を示していた。

 

「赤城君!!」

 

樋川はまるでリレーのバトンを受け取るかの様に、咄嗟に後ろへ手を伸ばした。

 

瞬間、箒が樋川の手元まで戻り、その箒を直ぐに浮かせた。

 

遥も続く様にその肩へ飛び乗った。

 

地面を走っていては追いつかれる。

 

結局、その短時間では作戦らしいものは何も思いつく事はなかった。

 

背後では、フォルガリオンが家屋を踏み砕きながら迫ってくる。

 

ズシンッ――!

 

ズシンッ――!

 

村全体が揺れているような錯覚すら覚えるその重低音に。

 

「クソっ……!」

 

遥は歯を食いしばる事しかできなかった。

 

樋川が居なければ、そもそも戦いにならない。

 

俺達がこのままエルミナの元へ向かえば、魔香に釣られたフォルガリオンを村人達の前に放つ事になる……

 

かと言って、樋川一人で向かわせても、魔力制御のできない状態でハインとの戦闘は危険すぎる……

 

じゃあどうすれば――

 

どうすればいい――

 

俺に――できる事って……

 

答えを模索する遥は自分の両手を見つめた。

 

その瞬間だった。

 

脳裏に、一つの”可能性”が浮かび上がった。

 

「……樋川」

 

「なに!?」

 

「フォルガリオンの魔力耐性って、あの体毛が原因なんだよな?」

 

「う、うん……!」

 

樋川はフォルガリオンの爪撃を必死に回避しながら答える。

 

「あの毛皮が魔力を散らしてるの。だから詠唱でマナを混ぜないと――」

 

そこまで聞いた瞬間、遥の目つきが変わった。

 

「じゃあ、体内ならどうなんだ?」

 

「――通る……はずだけど、分割の魔法じゃまず間違いなく、あの炎のブレスに押し負けるよ!?」

 

樋川は続けた。

 

「『リビュオン・ブースト』なら押し勝てると思うけど……”導線”を引いてる間にやられておしまいだよ!?」

 

口内へ向けて、現状最高威力の魔法を撃ちこむ。

 

遥がそう言うのだと思っての、樋川の発言だった。

 

だが。

 

「いや、違う」

 

遥は静かに首を横に振った。

 

そして、決意したようにフォルガリオンを睨みつける。

 

「俺が直接ぶち込む――」

 

「――え?」

 

「吸収の逆をやるんだよ」

 

遥は自分の拳を握った。

 

「散々、樋川との魔力のやり取りで練習したんだ。触れさえすれば、確実に流し込める……そうすりゃ、樋川の魔力量に耐えられなくなって、アイツも終わりだ」

 

「だ、ダメだよ!!」

 

樋川の肩は上がり、思わず声を荒げた。

 

「あんなの、一撃でも当たったら、赤城君—―!」

 

その先の言葉は、詰まってしまった。

 

遥自身が、一番理解している顔をしていたからだ。

 

「かもな……」

 

小さく漏らした後、遥は真っ直ぐ前を見る。

 

「向こうはエルミナに任せたんだ……こっちは俺がやるしかないだろ」

 

「っ……!」

 

「八割くらい貰うぞ!」

 

遥はそのまま樋川の肩に手を置いた。

 

「俺が突っ込むから、樋川は残った魔力で何でもいい。援護してくれ」

 

「ちょ、ちょっと待って――!」

 

ゴゥッ――!

 

樋川の魔力が、一気に遥へ吸い上げられた瞬間、箒は小さく揺れ高度を落とした。

 

一定の高さまで来た時、遥は肩から飛び降りた。

 

遥が止まったからか、一定の距離を置いたフォルガリオンも停止し、またしても様子見の構えだ。

 

カチッ――

 

腕輪を外した瞬間、小さなタヌキ姿だった体が元へ戻る。

 

そして、フォルガリオンと正面から向き合った。

 

熱気交じりの吐息。

 

地面を抉り撫でる爪痕。

 

そして鋭い牙。

 

その全てを前にしながら、遥は一歩前へ踏み出した。

 

「行くぞ!!」

 

「もう、馬鹿!!」

 

短く叫んだ樋川は、言葉と共に杖を構える。

 

杖先へ淡い光が宿り始めた。

 

そして、遥を迎え撃とうとしたフォルガリオンへ、二人は立ち向かった。




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