世界最強級の魔力を持つ魔法少女と、魔力ゼロの俺 ~彼女を補佐できるのは俺だけだった~   作:青井風太

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私のすべきこと

――少し時間は遡る。

 

「キリがありませんわ……」

 

村の中心で、交戦を続けるエルミナは、依然として不敵な笑みを浮かべるハインと、その両脇に控える魔物達を見据えながら呟いた。

 

周囲には十数個もの魔石が散らばっている。

 

だが、一体倒される度に、ハインが爪を振るえば、森の中から新たな一体が現れる。

 

ハインの両脇には常に二匹の犬型魔物が護衛の様に控えており、次の指示を待っていた。

 

「どうした?もう息切れか?」

 

余裕を崩さないハインが、挑発するように口角を上げる。

 

対するエルミナは、ハインの右手の爪に視線を移した。

 

「随分と余裕ですわね……その魔道具のおかげなのかしら?」

 

「あぁ、おかげで魔法少女とも互角に戦えてるぜ……ケヒヒ、良いもん貰ったぜ」

 

ハインは右手に装着してある爪を、カチカチと軽く鳴らし笑う。

 

その下卑た笑みに、エルミナは小さく眉を顰めた。

 

――この男自体は、そこまで脅威ではない。

 

動きも荒ければ魔力も一般人程度。

 

直接魔法を撃ち込めば、一撃で戦闘不能にできる。

 

しかし、そう出来ないのは、先程からハインへ向けた魔法は全て魔物が割り込み、防がれているから……

 

通常時は私を優先して襲ってくる……でも、攻撃をハインに向けた瞬間、魔物達は攻撃を中断してでもハインを守りに向かった。

 

それはまるで、自分が盾とでも言わんばかりに。

 

理由は間違いなく、あの爪の魔道具。

 

どこで手に入れたかは分かりませんが、ハインさえ倒せば、後は犬の処理のみ。

 

ならば――

 

「いつまでも時間をかけている暇はありませんの、これで――」

 

エルミナが右手を突き出し魔力を溜めようとした瞬間だった。

 

――グオォォォォォォォォッ!!!!

 

村全体を揺らすような、重低音の咆哮が夜空へ響いた。

 

「――っ!?」

 

その声を聞いた瞬間、エルミナの表情は変わった。

 

両掌に集めていた魔力は揺らぎ、音の方へ振り返ったエルミナは、その声の主が誰のものなのかが分かった。

 

「今の咆哮……それにこの魔力。まさか……フォルガリオン!?」

 

空気を震わせる咆哮。

 

そして、遠方からでも分かる程の強烈な魔力反応。

 

エルミナは、その正体を即座に察した。

 

そして、その予想が正しかった事を、ハイン自身が認める。

 

「へぇ……分かるのか」

 

感心したように目を細めたハインは、口角を吊り上げた。

 

「やっぱお前だけは違うと思ったんだよ。あのガキ二人より、ずっと厄介そうだ」

 

そんな話は入って来ない程に、エルミナは思案していた。

 

――なぜフォルガリオンがこんな森林地帯に!?

 

その思考は高速で巡り始めた。

 

あの男が連れて来た――?

いや、違う。

 

エルミナは即座にその可能性を否定した。

 

あの爪で操れるのは下位種二体が限界のはず……その証拠に私と戦っていた間は常に二体以上の魔物は姿を見せてはいなかった。

 

それに、私達と出会った時や村の中心でフォルガリオンを解き放てば……それこそ奴の言う"絶望"その物だ。

 

そして、先程の魔道具を"貰った"と言う発言も合わせて考えると、この男には確実に後ろ盾がいる……

 

そこまで考えた瞬間。

 

エルミナの背筋に冷たいものが走った。

 

マズイですわ……要するに今、萌花達が相手をしているフォルガリオンは、独立個体。誰にも制御されていない、本物の中位種。

 

そして――

 

あの二人に、詠唱は……

 

できない。

 

「お?やっと表情が揺らいだなぁ。その調子だ」

 

思考し、頬に汗を流すエルミナを見たハインは愉快そうに笑った。

 

「詠唱を使えないガキの学生じゃ、フォルガリオンの魔力耐性なんて突破できねぇよ」

 

カチ、と再び爪を鳴らし、あざ笑いながら続けた。

 

「あの二人、今頃死んでんじゃねぇの?」

 

その言葉に一瞬、萌花と遥の顔が脳裏をよぎった。

 

だが、不安諸共かき消すように、静かにハインを見据えたエルミナは動いた。

 

「うるさいですわ……無駄話をしている暇はありませんの!!」

 

エルミナは右手を前に突き出し、魔力を集中する。

 

――フォルガリオンがいる以上、無駄な魔力消費は抑えなくてはいけませんわ。

 

詠唱に必要な魔力は残しつつ、迅速にこの戦いを終わらせる。

 

どれだけ魔物がハインを優先して守っても、全方位をカバーする事は出来ない。

 

「レクシア・フレクション!!」

 

その言葉と共に、右手から放たれた一本の光線は無数に枝分かれした。

 

「おいおいおい!!」

 

ハインを取り囲むよう、四方八方から迫る光を前にそう呟く。

 

だが、避けるそぶりも無く、そのまま。

 

ドゴォォンッ!!

 

と、大量の砂埃を上げ光は着弾した。

 

「はぁはぁ……流石に全方位となると魔力の消費は激しいですわね……」

 

着弾を見届けながら肩で息をしたエルミナは頬の汗を拭った。

 

――しかしまだ一発なら詠唱魔法も放てる……早く萌花達の元へ。

 

そう考えていた瞬間だった。

 

土煙の中から、声が響いた。

 

「フォルガリオンが出て、焦ってんのはわかるが――横着は行けねぇなぁ」

 

土煙りの中から姿を現したのは、今しがた魔法を直撃させた筈のハインだった。

 

「なっ――!?」

 

驚きの声を上げたエルミナ。

 

だが、驚いたのはハインの生存ではない。

 

いや、無傷だった事に驚きはしたが、それよりももっと異様な光景が目に移ったからだ。

 

ハインの操っている、犬型の魔物の一体が姿を変えていたからだ。

 

体躯は大型犬よりも大きく、目算で二メートル近い大きさに。

 

そしてその体毛は灰色から紫に変色していた。

 

「相手がどんな奥の手を隠しているかもわからねぇ内は特になぁ!!」

 

「その変化……まさか、フォルガリオンの魔石の一部を!?」

 

懐から緑色の魔石を取り出したハインはもう一体の犬を呼び出し食わせる。

 

瞬間、体躯と体毛がもう一体と同じ変化を遂げた。

 

「ケヒヒヒ、これで俺の魔物共も、フォルガリオンと同等の魔力耐性を持ったわけだ」

 

流石の状況に、エルミナの足が無意識に一歩下がった。

 

「ガキに詠唱は使えんのか?その細身の腕でこいつらを殴り殺せんのか?」

「俺を倒し、フォルガリオンを倒し、あのガキ二人を助け、村人を全員救えんのか!?」

 

「くっ――」

 

「さぁ、絶望しろぉ!!」

 

両手を広げ、高らかに声を上げるハインを前に、エルミナは打開の為に頭を回していた。

 

――どうすれば。

 

詠唱を使用せずにあの魔物達を振り切り、ハインに魔法を直撃させる?

 

いえ、そんな策はあまりにも非現実的すぎますわ……

 

今しがた放った【レクシア・フレクション】が完全に防がれた以上……

 

やはり倒すには詠唱魔法しかない――

 

しかし、今詠唱を使えばフォルガリオンを倒す手段が――と。

 

次第に焦りから、思考が纏まらなくなったエルミナの手は、少し震えていた。

 

「ケヒヒヒ、そうだ。その身震い、そして絶望……さぁ見せてくれよ」

 

高笑いするハインを前に、エルミナの頬にはまた、一滴の汗が流れる。

 

どうすれば――

どうすれば――

どうすれば――

 

一瞬、その現状から目を瞑ったその時だった。

 

エルミナの脳裏に、一つの言葉がよぎった。

 

『そいつはお前がぶっ飛ばせ』

 

親指を立てながらそう告げた男――赤城遥の言葉だった。

 

一人では無力な男。

 

ただのノクスの癖に、村人を救う為……誰かの為に自分を犠牲にできる。

 

そんな彼の言葉を。

 

「フッ――」

 

エルミナの口角は思わず、少し上がった。

 

――そうでしたわね。

 

”まかせる”って言いましたのに……私が二人を……仲間を信じなくてどうしますのよ。

 

フォルガリオンじゃない。

 

「私のすべき事は――」

 

「何言ってんだお前。絶望的過ぎて狂っちまったか?」

 

そう告げるハインを、今度はしっかりと見据えたエルミナは、右手を突き出した。

 

「あなたを倒す事!それが私のすべき事ですわ!!」

 

瞬間、空気は揺れ。

 

エルミナの掌に集束した魔力が、夜空を照す。

 

そして魔法は放たれた。




読んでいただきありがとうございました。
また見にきてくださると嬉しいです。
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