世界最強級の魔力を持つ魔法少女と、魔力ゼロの俺 ~彼女を補佐できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
ローダン村での初任務を終え、学園へ帰還した翌日。
樋川とエルミナは報告のため、学園長室を訪れていた。
その中央では、椅子に腰掛けた遥が保健教授【ウィンリー・モペット】に負傷した右腕を診てもらっていた。
「えっ、と……その……あの……」
包帯を外された腕を見つめながら、ウィンリーは落ち着きなく視線を泳がせていた。
「えーっと、先生?大丈夫か?」
なかなか診察が進まないことに不安を覚えた遥は、様子を窺うように顔を近付ける。
「あっひゃあ!?」
するとウィンリーは小さな悲鳴を上げた。
次の瞬間――
「何してんのよ!」
「何をしてますの!」
「いった!!」
ほぼ同時に後頭部へ衝撃が走る。
一発目は慣れた手付きの樋川。
そして二発目は、顔を赤くしたエルミナだった。
「距離が!貴方は毎回距離が近すぎますのよ!」
「だって、うんともすんとも言わねぇじゃんか!」
遥は文句を言いながら振り返る。
その様子を見ていたババ様は、呆れたように口を開いた。
「症状を調べとるんじゃよ。どんな処置が必要かをな」
そう言うと、今度はウィンリーへ視線を向ける。
「ウィンリー先生は魔法医療学で既に名の通った若き秀才じゃ。よく見て聞いておくんじゃぞ?」
しかし当の本人はというと。
「そ、そそそそんなっ!」
ぶんぶんと首を横に振り、両手を慌ただしく振り回した。
「学園長に比べたら私なんて全然ですからっ!」
「とまぁ、この性格だけが欠点じゃな」
ババ様が肩を竦め。
「うぅ……すみません……」
ウィンリーは今にも消え入りそうな声で謝りながら頭を下げた。
「なぁなぁ、ばぁちゃん」
そのやり取りを見ていた遥が口を開く。
「その魔法医療学とかいうのも、よく分かんねぇんだよな」
そして小さく付け加えた。
「魔法界ワード、多すぎだろ……」
その言葉にババ様は苦笑する。
「まぁ、お主にはまだ馴染みがないじゃろうな」
そう前置きしてから続けた。
「お主の世界で言うと、ウィンリー先生はノーベル賞を受賞できる様な人物じゃな」
「マジで!?めちゃスゲェーじゃん!!」
尊敬の眼差しを向けながら身を乗り出した瞬間――
「ひゃあっ!」
またしてもウィンリーが悲鳴を上げた。
そして当然……
「「だから近い!!」」
「あだっ!」
二人のパンチが遥の後頭部を襲った。
遥が後頭部を抑えていると、ようやくウィンリーのまともな声が上がった。
「これは……」
「どうだった?先生……」
先程までのオドオドした様子とは雰囲気が変わった事で、遥は真面目に次の言葉を待った。
そして、診断結果が出る。
「折れてますね」
「いや、見たらわかるわ!!」
「ひっい!!」
見たまま。
紫色に腫れ上がり、不自然な方向へ曲がった腕。
これを骨折と言わずして何と言う?
そう思った遥は本日最大級のツッコミを飛ばし、ウィンリーはその声に驚き肩を跳ねさせた。
だが、検査結果はそれだけでは終わらなかった。
「あの、その……もちろんただ折れているだけではありません」
ウィンリーは腫れた腕を指差した。
「骨折だけでなく、筋繊維の断裂も確認できます。特に前腕から手首、掌にかけての損傷が酷いです。こんな症状は……見たことがなくて……」
「でも俺今、あんまり痛く無いけど……」
「そ、それはその……赤城君が巻いていた包帯には、痛みを和らげる医療麻酔の魔法が込められていたからですよ……」
そして続けた。
「このまま放置すると、一時間もしない内に激痛で泣き叫ぶと思います……はい」
「えっ!?ちょ、先生!早く早く!!」
冷や汗を流し、足をバタつかせながら腕を突き出した遥だったが。
「これ、落ち着かんか」
ババ様は片手で遥頭を覆う様に掴み、静止させた。
「そもそもこの怪我はなんじゃ?何をしたんじゃ?」
ババ様の、その真剣な眼差しを前に遥はフォルガリオンとの一戦を語った――
読んでいただきありがとうございました。