世界最強級の魔力を持つ魔法少女と、魔力ゼロの俺 ~彼女を補佐できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
「おぉ……すげぇ人の数!!」
学園を囲むように広がる学園街へ足を踏み入れた遥は、目の前に広がる賑わいへ思わず感嘆の声を漏らした。
露店や商店が軒を連ね、買い物や食べ歩きを楽しむ人々が通りを行き交う。
その合間を、警備にあたる魔女や魔法士が巡回し、街は活気に満ち溢れていた。
「一般的には休日だからね。学園の生徒だけじゃなくて、外からもたくさん人が集まるの」
「ほぇー、すげぇな」
樋川の説明に、遥は感心したように辺りを見回す。
すると、エルミナも補足するように口を開いた。
「基本的には何でも揃う、世界でも有名な都市ですわ」
「なるほど。ニューヨークみたいなもんだな」
「にゅ、にゅーよ?」
聞き慣れない単語に、エルミナは首を傾げる。
「俺の世界でもトップクラスに有名な街だよ。この学園街もそんな感じなんだろ?」
「え、えぇ。概ねその認識で間違っておりませんわ」
その時になってようやく、エルミナは遥の頬がずっと膨らんだり縮んだりしていることに気付いた。
「それはそうと……なんでもうカエルの唐揚げを持ってますのよ!!」
そう言ってエルミナが指摘した遥の右手には――いつの間に買ったのか、湯気の立つミモカエルの唐揚げが握られていた。
「さっきそこの露店で買って……食うか?」
遥は自分がかじっていた串を、そのまま何気なくエルミナへ差し出す。
「たっ!?食べま……食べませんわ!!」
エルミナは顔を真っ赤にして慌てて後ずさった。
その様子を見た樋川も、差し出された串に目を向ける。
「……」
何を差し出されたのか理解した瞬間、樋川も頬を赤らめて視線を逸らした。
当の本人だけは、二人の反応が理解できず、不思議そうに首を傾げている。
「さてはお前ら、見た目で判断してるな?」
腕を組みながら遥は続けた。
「カエルも美味いんだぞ?食わず嫌いはよくな――」
得意げに頷きながら力説していた遥を遮る様に、二人は声を上げた。
「「そう言う事じゃなぁぁい!!」」
パンッ――と、乾いた平手打ちの音が学園街に響いた。
◇
「
両頬が膨らんだ遥、隣を歩く樋川に尋ねた。
「どこって……箒屋さんよ」
「箒?」
樋川の言葉を繰り返した遥だったが、直ぐに自分で答えを出した。
「あっ……前の任務で燃えちまったからか……」
「うん……これだけあれば買える……はず」
少し不安そうにギュッと、握った樋川の手には先程ババ様から支給された任務報酬の革袋があった。
遥と樋川の支給額は同じ、金貨15枚――要するに。
「えっ?箒って十五万円あっても変えない可能性あるの?」
遥は続けた。
「日本だったら百円よ?百均で百円だよ?」
「ただの箒な訳ないでしょ……」
呆れたようにため息をついた樋川は続けた。
「魔力の通りやすい貴重な素材で作られてるの」
「ほぇー、やっぱりファンタジーだな」
「どんな感想ですのよ……」
エルミナも呆れたように肩を竦める。
そんなやり取りをしながら歩いていると――
「ここよ」
先導していた樋川は足を止めた。
遥たちの目の前には、箒を模した大きな看板を掲げた専門店が建っていた。
ガラス張りのショーケースには様々な箒が並び、それぞれの前には高額な値札が添えられている。
「おぉ……いかにもって感じ!!」
ヨーロッパの街並みを思わせる煉瓦造りの店構えに、遥は思わず感嘆の声を漏らした。
ガラス扉の向こうには、所狭しと並ぶ色とりどりの箒が見えている。
その扉を開けると、小さなベルが軽やかな音を鳴らした。
店内には大小さまざまな箒が整然と並び、壁には飛行性能や用途ごとに分類された箒が隙間なく掛けられている。
木の香りと、どこか甘い薬草の香りが鼻をくすぐった。
「おぉ……!」
遥は目を輝かせながら店内を見渡す。
「なんか魔女の店って感じだな!」
「箒専門店ですもの。当たり前ですわ」
エルミナが呆れたように肩をすくめる。
その時、カウンターの奥から煙がゆらりと立ち上った。
「んん……おぉ、客か……」
倒していた椅子の背もたれをゆっくり起こしながら姿を現したのは、葉巻をくわえた強面の男だった。
「いらっしゃい」
迷彩柄のタンクトップに黒いズボン。
店主とは思えない風貌で葉巻をくゆらせる姿を見て、遥は思わず心の中で呟く。
――箒屋っていうより……バイク屋じゃねぇか。
「あ、あの……箒を買いたくて……」
露骨に緊張した様子で樋川が口を開く。
「希望はあんのかい?嬢ちゃん」
「えっと……」
少し言葉に詰まった樋川を見て、遥が首を傾げた。
「希望って?」
「何だぁ?箒を買ったことねぇのか?」
「タハハ……まぁ、素人なものでして」
頭を掻きながら笑う遥に、店主は苦笑を浮かべる。
「まぁよ、箒にも色々種類があってな」
葉巻を一度くわえ直し、人差し指を立てた。
「飛びやすさ重視のバランス型」
続けて中指を立てる。
「速度重視の競技型」
さらに肩をすくめて店内を見回した。
「他にも見た目だったり、二人乗りできるモデルだったりと色々ある」
そう言って樋川へ視線を向ける。
「で、嬢ちゃんの希望は?」
店主が葉巻をくわえたまま尋ねる。
「おぉー!!」
その声と同時に、遥は店主の横を勢いよく駆け抜けた。
壁に掛けられた一本の箒を指差し、樋川へ振り返る。
「これこれ!樋川、これにしよう!」
遥が指差した先にあったのは、先端に獣の頭蓋骨を模した装飾が施され、前後には足置きまで備えられた箒。
「箒」というより、「バイク」と呼んだ方がしっくりくる、そんな無骨な一品だった。
「ほぉう……?」
店主は口元を緩めた。
「あんちゃん、その箒の良さが分かるのかい?」
「あぁ……」
遥は腕を組み、店主の渋い声を真似するように低い声で答えた。
「男なら、これ一択……だろ?おっちゃん」
その瞬間。
「ぜっったいに嫌!!」
樋川は一切迷うことなく即答した。
「「えぇー!!」」
肩を落としたのは遥だけではない。
店主も葉巻をくわえ直しながら、静かに肩を落とした。
「そもそもそんな高い箒を買うお金ないよ!」
そう言う樋川に遥は目を細めた。
確かに値札には金貨三十枚と書かれている。
樋川の手持ちでは到底足りない金額だ。
だが――
「本当にお金がないからか?」
「え?」
「この勇ましいフォルムが気に入らないって気持ちが少しも無いか?」
樋川は露骨に目を逸らした。
「べ、別に……お金がないだけだし」
「じゃあ俺が少しくらい――いだだだだ!」
言い切る前に遥の頬は横に伸ばされた。
「それ以上何か言ったらこのまま引きちぎるわよ?」
「ごべん、ごべんだざい!!」
「ふん!」
不満そうに鼻を鳴らした樋川は、パチンっと引っ張る遥の頬を離した。
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