世界最強級の魔力を持つ魔法少女と、魔力ゼロの俺 ~彼女を補佐できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
「普通の箒でお願いします」
「お、おう……。バランス型だな」
先程までバイク箒を勧めていた遥を一瞥すると、店主は気を取り直すように樋川へ向き直った。
葉巻をくわえ直し、短く尋ねる。
「予算はどのくらいだ?」
「えっと……金貨十五枚です」
樋川は革袋を胸の前で握り締め、不安そうに付け加えた。
「……足りますか?」
店主は煙を細く吐き出し、小さく唸る。
「十五枚か……」
少し考え込んだ後、肩をすくめた。
「その予算なら、入門用が限界だな」
そう言って樋川の制服や身なりをじっと見渡す。
「その制服……学園の魔法少女だろ?」
「は、はい」
「だったら尚更だ」
店主は葉巻をくわえ直し、静かに続ける。
「そのくらいの性能じゃ、すぐ物足りなくなる日が来る。それでも、本当にそれでいいのか?」
「良くは……ないです。でも、手持ちが……」
樋川は革袋をぎゅっと握り締め、小さく俯いた。
「まぁ……そうだよな」
店主は頭を掻きながら店内を見渡すと、壁に掛けられていた箒を三本手に取り、カウンターへ戻ってきた。
一本ずつ丁寧に並べる。
「とりあえず、予算に近いものを持ってきた」
「どれも同じに見えるけどなぁ」
遥が首を傾げると、エルミナが小さくため息をつく。
「見た目は似ていますけれど、中身は全く違いますのよ」
「嬢ちゃんの言う通りだ」
店主は右端の一本を軽く叩いた。
いかにも「箒」といった飾り気のない、ごく一般的な一本だ。
「こいつは金貨六枚。余計な機能は一切なし。飛ぶことだけを考えた一番シンプルなモデルだ」
続いて中央の箒へ手を移す。
先ほどの物より柄がやや太く、穂先もしっかりと束ねられている。
「こっちは金貨十五枚。耐久性もそこそこあって、簡単な戦闘にも対応できる。初心者なら、この辺りが定番だな」
そして最後に、左端の箒を指差した。
柄の根元には、小さな青い鉱石が埋め込まれている。
「……で、これが金貨三十枚」
「三十!?倍じゃんか!」
遥が思わず声を上げる。
店主は苦笑しながら、柄に埋め込まれた鉱石を指で軽く叩いた。
「この石がな。魔力を循環させる希少鉱石なんだ」
「乗り手の魔力操作を補助してくれるから、普通の箒とは比べものにならねぇくらい自由に飛べる。競技でも戦闘でも人気の一本だ」
その説明を聞き、先に反応したのはエルミナだった。
「その石……マナタイトではありませんか!」
「おっ、嬢ちゃん詳しいな」
店主は感心したように目を細めた。
エルミナは驚いたまま、柄に埋め込まれた青い鉱石を見つめる。
「昔、実家で見たことがありますけれど……とても希少な鉱石のはずです」
そして視線を値札へ移した。
「それが金貨三十枚……?むしろ破格ではありませんの?」
「そうなのか?こんな小さい石なのに?」
遥が目を丸くすると、エルミナは小さく頷いた。
「加工も非常に難しいと聞いております。相場なら金貨六十枚……お店によっては、八十枚はしても不思議ではありませんわ」
「えぇっ!?半額じゃん!逆ぼったくりじゃん!」
「どんな言葉ですのよ……」
エルミナは呆れたようにため息をつく。
「まぁそれはとにかく、それだけ価値のある箒ということですわ」
「じゃあ絶対これじゃん!一択じゃん!」
勢いよく言った遥に、樋川は即座に首を横へ振る。
「だから、お金がないの……」
そう言って、樋川は十五枚しか入っていない革袋をぎゅっと握り締めた。
「もちろん……私だって、これが一番いいのは分かってるよ」
名残惜しそうに、マナタイトの埋め込まれた箒へ視線を向ける。
「でも……ババ様も言ってたから……」
「道具に頼りすぎちゃ駄目だって」
その言葉に、店主は小さく葉巻の煙を吐いた。
「そうか。まぁ、無理強いはしねぇけどよ」
すると、その横から遥が一歩前へ出る。
「いや、おっちゃん」
店主へ真っ直ぐ視線を向け、迷いなく言った。
「この箒にするぜ」
「えっ!?」
先に声を上げたのは樋川だった。
「赤城君、私の話聞いてなかったの?」
「聞いてたよ」
遥はあっさりと頷く。
「だから、この箒にするんだよ」
「ぜんっぜん聞いてないじゃない!」
樋川は思わず声を荒らげた。
「さっきも言ったでしょ?ババ様が――」
「樋川お前……嘘下手だなぁ」
「なっ……」
遥はニヤリと笑いながらマナタイトの箒を指差した。
「さっきからチラチラ見てたじゃん。そんなに気になるなら、それが本音なんだろ?」
「チ、チラチラなんて見てないもん!」
反射的に否定したものの、その頬は僅かに赤く染まっていた。
「それに……一番大事なお金が……」
樋川が俯いた、その時だった。
「へへーん」
遥は自分の革袋をカウンターへ勢いよく置く。
「これでどうよ?」
袋を開けば、中には報酬として受け取った金貨が入っていた。
「俺のと合わせて、ちょうど三十枚だ」
「い、いいよいいよ。そんな!」
樋川は慌てて首を横に振る。
「私の箒なのに……」
その言葉に、遥は少しだけ笑った。
「何言ってんだよ」
「え?」
「樋川の箒に、これから俺も乗せてもらうんだ」
遥は当たり前のように続けた。
「だったら、俺たち二人で買うのが普通だろ?」
「で、でも……」
「それにさ」
遥は樋川の目を真っ直ぐ見つめ、少し照れくさそうに笑いながら告げた。
「二人で一つの物を買うってさ――相棒って感じがして、いいだろ?」
「赤城君……」
樋川はしばらく遥を見つめたまま言葉を失う。
やがて、小さく微笑みながら頷いた。
「……うん」
「ありがと、赤城君」
「おう!」
遥はいつものように親指を立てて笑った。
そのやり取りを、店主は黙って見つめていた。
やがて、葉巻を灰皿へ押し付けると――
バンッ!
大きな音を立ててカウンターを叩いた。
「気に入った!!」
「「え?」」
同時に振り返る遥と樋川を前に、店主は豪快に笑いながら二人を指差した。
「久々に見たぜ。お前らみてぇな熱いガキをな!」
「は、はぁ……?」
困惑する遥をよそに、店主はニヤリと笑う。
「その箒、持っていけ!もちろん、代金はいらねぇ」
「えぇ!?」
今度はエルミナも混ざり、三人揃って声を上げた。
「い、いやいや、おっちゃん!」
遥は慌てて革袋を抱え直す。
「三十枚だぞ!?俺が言うのもなんだけど、三十枚だぞ!?」
「おうよ」
店主は腕を組み、満足そうに頷く。
「金より、お前らみてぇな奴に使ってもらう方が気分がいい」
「で、でも……」
樋川は戸惑いながら箒を見つめる。
「この石は加工も難しいって……」
「あぁ、そのことか」
店主は笑って肩をすくめた。
「俺はマナタイトくらいなら簡単に加工できるんだ。だから最初から、加工費なんざ取るつもりはねぇ」
「うそ……」
驚くエルミナ。
店主は新しい葉巻をくわえながら、樋川へ優しく笑いかけた。
「その箒で、立派な魔法少女に……いや」
店主は葉巻を咥え、真っ直ぐと樋川を見つめ、告げた。
「魔女になれよ!」
「……はい!」
樋川は新しい箒を大切そうに抱き締めた。
そしてその声は、表情は分かりやすいくらいに喜んでいた。
「ありがとうございます!!」
深々と頭を下げるその姿を見届け、店主は照れ隠しのようにひらひらと手を振った。
読んで頂けますと嬉しいです。
また次回も見てもらえると嬉しいです。