世界最強級の魔力を持つ魔法少女と、魔力ゼロの俺 ~彼女を補佐できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
新しい箒を大事そうに抱えた樋川は、何度も嬉しそうに眺めていた。
その横を歩く遥は、そんな様子を見て思わず笑う。
「嬉しそうだな、樋川」
「……うん!」
樋川は少し照れくさそうに頷く。
「初めて自分で買った箒だから」
「自分で買った物って、なんか特別だもんな」
遥も納得したように笑った。
その様子を見届けると、前を歩いていたエルミナが振り返る。
「それでは、次は私ですわね」
「ん?」
「私も買いたい物がありますので」
「そういや言ってたなぁ」
「なんですかその興味なさそうな反応は……」
エルミナはじとっと遥を睨む。
「い、いやいやそんな事ないぞ?何を買うんだ?」
遥は慌てて誤魔化しながら尋ね、不服そうな表情のエルミナは答えた。
「ふんっ……武器ですわよ」
その言葉に、最初に声を上げたのは樋川だった。
「えぇ!?エルミナさん。もう魔力纏いできるの!?」
「マリョクマトイ?」
その遥の問いよりも先にエルミナは樋川の言葉を否定した。
「いえ、流石にまだ私もそこまではできませんわ。でも……前の任務で痛感しましたの」
エルミナは少しだけ表情を引き締めた。
「魔法が通じない相手への、有効な手段を増やす必要があると」
それを聞いた遥は、ようやく疑問を思い出したように声を上げた。
「だから、そのマリョクマトイって何なんだよ!」
エルミナは呆れたようにため息をつきながらも、歩調を緩めず説明を始める。
「魔力纏いは、詠唱とはまた別系統の戦法ですわ」
「別系統?」
「えぇ」
エルミナは自分の手を軽く見下ろした。
「“纏う”という言葉の通り、自分の魔力を武器や身体に纏わせて戦う技術ですの」
「それなら樋川もやってるじゃん。杖に魔力流して――」
「全然違うよ!」
言い切る前に、樋川が即座に否定した。
「お、おう……そうなのか?」
「うん。杖は元々、魔力を流して使うために作られてるの」
樋川は自分の杖を軽く持ち上げる。
「魔力の通りやすい木から作られてるから、魔法使いなら誰でもある程度は魔力を流せるんだよ」
遥は感心したように頷いた。
「へぇー、なるほどな」
そして、にやりと笑う。
「まぁ樋川はできてないけどな」
「うるさい!」
次の瞬間、樋川のハイキックが遥の尻へ綺麗に炸裂した。
「いでっ!」
遥が悶絶する横で、エルミナは何事もなかったかのように説明を続ける。
「ですが、武器は杖とは違いますわ」
「そもそも魔力が流れずらい上に、流すだけでは意味がありませんの」
そう言って、エルミナは自分の手を握る。
「武器の中に魔力を留め続ける技術がなければ、流し込んだ魔力はすぐに拡散してしまいます」
「へぇ……」
「しかも、その制御には集中力が必要です」
エルミナは真剣な表情で続けた。
「未熟な者が戦闘中に魔力を纏おうとすれば、その一瞬の隙が命取りになりますの」
「だから魔法少女で扱える人は少ないってこと?」
樋川の問いに、エルミナは頷く。
「えぇ。実戦レベルで使える者は、ごく一部だけですわ」
それを聞いた遥は顔をしかめた。
「なんだよ。デメリットばっかじゃん」
だが、エルミナはすぐに首を横へ振る。
「いいえ」
その声には、はっきりとした熱があった。
「完璧に扱えれば、魔法使いの戦闘力は飛躍的に高まりますわ」
「そ、そんなに?」
「えぇ」
エルミナは迷いなく言い切った。
「使いこなせれば、フォルガリオン級の魔物でも、一撃で仕留めることも可能ですわ」
「うそぉ!!?」
遥の絶叫が、学園街に響き渡った。
「もちろん、その域まで到達できればですけれど。まぁ要するにそれだけ扱いが難しいと言う事ですわ」
エルミナは小さく笑うと、前方を指差した。
「……着きましたわ」
視線の先には、一軒の武器店が建っていた。
石造りの重厚な店構え。
店先には剣や槍、盾などが並べられ、ショーケースには魔力を帯びた武器が静かに飾られている。
遥は思わず足を止めた。
「おぉ……今度はいかにも武器屋って感じだな」
「武器は決まっていますので、すぐ終わりますわ」
そう言うと、エルミナは二人へ振り返る。
「少しだけ、ここで待っていてください」
「えぇー。一緒に入らなくていいのか?」
「えぇ。顔馴染みのお店ですし、買う物も決まっていますので」
軽く一礼すると、エルミナは迷いなく店の中へ入っていった。
残された遥と樋川は、店の前でエルミナの背中を見送った。
「うひゃあ……やっぱりファンタジーだなぁ」
遥はショーケースへ顔を近づけ、ずらりと並ぶ剣や槍、斧を食い入るように眺める。
「みっともないからやめなさい!」
樋川は呆れたようにため息をつくと、ショーケースへ張り付く遥の首根っこを掴んで引き剥がした。
「いでででっ!」
「お店の人に迷惑でしょ」
「見るくらい良いじゃんか」
「見るだけなら、もっと離れて見なさい」
遥は不満そうに頬を膨らませながらショーケースから離れる。
すると、ほどなくしてカラン、と小さなベルと共に店の扉が開いた。
「お待たせしましたわ」
店から姿を現したエルミナの手には、一振りの細剣が収まっていた。
鞘は淡い緑色を基調とした落ち着いた造りで、柄には銀色の装飾が施されている。
どこか気品を感じさせる一振りだった。
「おぉ!……って、随分細い剣なんだな」
「ふんっ!移動中も戦闘中も、邪魔にならず扱いやすいサイズですもの」
そう言ってエルミナは剣を軽く持ち上げる。
「へぇー。で、それいくらしたんだ?」
その問いに、エルミナはさらりと答えた。
「金貨四十五枚ですわ」
「よ、四十五!?」
遥は思わず目を見開いた。
「箒より高ぇじゃねぇか!」
キンッと、腰の鞘に剣を納めたエルミナは、少しだけ頬を赤らめながら告げた。
「べ、別に……いつもではありませんわ。今回はその……自分へのご褒美に」
「へぇ……ほんとかねぇ。いつも高いブランド品身につけてるんじゃ――」
疑いの眼差しでそういった遥の頬は伸びた。
「違うって言ってますわよね!!」
「いでででで!!ちょっ、千切れる!!」
遥の悲鳴など気にも留めず、エルミナは容赦なく頬を引っ張り続ける。
その光景を見た樋川は、小さくため息をついた。
◇
気付けば、空は茜色に染まり始めていた。
買い物を終えた三人は、ゆっくりと学園街を歩いていた。
「なぁなぁ、せっかくだし何か食って帰らねぇ?」
遥が両手を頭の後ろで組みながら気軽に提案した。
「そうですわね……たまには寮のお食事以外も悪くありませんわ」
エルミナも小さく頷く。
すると樋川が「あっ」と声を上げた。
「それなら私、知り合いのお店あるよ!」
「ひょっとして、ヨモのおっちゃんの店か?」
「うん!」
樋川は嬉しそうに頷く。
「顔も見せに行きたいし、二人ともどうかな?」
「もちろんですわ」
「俺も賛成!」
三人はそのまま学園街の一角にある酒場へと足を向けた。
◇
「ここだよ」
樋川が足を止めた先には、木製の看板を掲げた酒場があった。
店内からは楽しげな笑い声や食器の触れ合う音が漏れ聞こえ、夕食時らしい賑わいを見せている。
「おぉ、前来た時は全然違うなぁ」
「前は営業時間外だからね」
遥が感心したように辺りを見回すと、樋川は小さく笑った。
そしてそのまま代表するように、遥は扉へ手を伸ばした。
その――瞬間だった。
ドガァンッ!!
凄まじい音と共に扉が勢いよく開き、一人の大男が店の中から吹き飛ばされる。
「うわっ!?」
避ける間もなく巻き込まれた遥は、大男の下敷きになったまま地面を転がった。
「いってぇぇ……」
遥は顔をしかめながら大男を押しのけ、ゆっくりと起き上がる。
「なんだよ急に……」
顔を上げると、店の入口には腕を組んだ大柄な男――ヨモが仁王立ちしていた。
その表情には、以前見た時とは違った怒りが浮かんでいる。
「だからお前は出禁だって言っただろうが!」
ヨモの怒りの視線の先には、今しがた吹き飛ばされた大男がいた。
「チッ……いてぇな」
大男は舌打ちしながらゆっくりと立ち上がる。
その横顔を見た瞬間――
エルミナの表情が凍りついた。
「お、お父さん……」
その小さな呟きを聞いた遥と樋川は、何が起きたのか分からないまま、大男とエルミナを交互に見つめていた。
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