世界最強級の魔力を持つ魔法少女と、魔力ゼロの俺 ~彼女を補佐できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
「ボヘッ!」
情けない悲鳴が、演習場いっぱいに響き渡った。
顔面へ直撃した淡い光の玉を押さえながら、遥はその場にしゃがみ込む。
「いってぇぇ……!」
「これ遥、吸収せんか」
「それ……先に言ってくんねぇかな、ばぁちゃん」
どこ吹く風といった様子で、腕を組んだまま言い放つババ様へ、遥は涙目で抗議をした。
その隣では、魔力弾を放った樋川が呆れたように肩を落とした。
「さっきババ様が説明してたのに、ちゃんと聞いてなかった赤城君が悪いよ」
「いや、聞いてたけど!」
「開始一秒で飛んでくるとは思わねぇだろ!」
「ほれ、言い訳しとらんで立て」
ババ様が杖で地面を軽く叩く。
「修行はまだ始まったばかりじゃぞ」
遥は深いため息を吐きながら立ち上がった。
──数分前。
◆
演習場へ運び込まれた奇妙な機械を見て、遥は首を傾げた。
金属で組み上げられた大きな台座。
筒状の砲身が幾つも並び、その先端には魔法陣が刻まれている。
どう見ても、物騒な代物だった。
「……何だこれ?」
遥の問いに、ババ様は得意げに胸を張った。
「これぞワシの自信作」
「魔導具『魔弾発射装置三式』」
一拍置いて、満面の笑みを浮かべた。
「通称、マッハ君三号じゃ!」
遥はその名前に思わず真顔になり、短く告げた。
「……だっせ」
ゴツンッ!
「いったぁ!!」
即座に樋川の拳骨が遥の頭へ落ちた。
「失礼でしょうが!」
「えぇ!?そこ!?」
一方、ババ様はふらりと一歩後ろへよろめく。
「だ、ダサ……」
「ワシのマッハ君が……ダサい……」
目に見えて落ち込む姿に、樋川は慌てて駆け寄った。
「あわわわわ!ババ様!」
「名前はともかく、ババ様の魔導具はすごいんですから!」
「名前は……ともかく……」
さらに追い打ちを受けたババ様は、その場で肩を落とした。
遥は思わず樋川を見る。
「樋川、お前の方がひどくね?」
「ち、違うんです!」
「い、今のはそういう意味じゃなくて!」
必死に弁解する樋川。
そのやり取りを遮るように、今度はエルミナが大きく声を上げた。
「ま、マッハ君ではありませんの!!」
「……え?」
遥が振り返る。
エルミナは目を輝かせながら機械へ駆け寄っていた。
「こ、これが魔弾発射装置三式……!」
「幼い頃、魔導具博物館で見た一式・二式の改良型ですわよね!?」
「まさか実物を見られるなんて……感激ですわ!」
興奮を抑えきれない様子で振り返る。
「お、おばぁ様!」
「もっと近くで拝見してもよろしいでしょうか!?」
先ほどまで落ち込んでいたババ様の表情が、一瞬で晴れ渡る。
「うむ……うむ!!」
「もちろんじゃともエルミナ!」
「さぁ、存分に見るがよい!」
「やった……」
嬉しそうに魔導具を眺めるエルミナ。
その様子を見ていた男は告げた。
「学園長……そろそろ始めませんか?私もそれほど暇では……」
「う、うむ。そうじゃな、では改めて遥の方は頼むぞグランツ先生」
「承知しました」
グランツは眼鏡を押し上げ、短く答えた。
ババ様は演習場の中央に置かれた魔導具へ手を添えた。
「学園長室でも説明したがの。この"マッハ君"に操縦者の魔力を流し込むと、それを魔弾へ変換して射出することができる」
露骨に一部を強調して話すババ様。
そして遥は改めて、目の前の大きな機械を見上げる。
「つまり、これで魔力の球を撃つってことか?」
「そういうことじゃ」
ババ様は頷いた。
「本来は辺境の村など、戦える者がおらん場所へ配備する魔物防衛用の魔導具として作ったものじゃ」
「へぇ……」
遥が感心したように機械を眺める。
見た目こそ物々しいが、こうして聞くと意外にも真っ当な用途で作られたものらしい。
「じゃが、一つ問題があっての」
ババ様は少しだけ気まずそうに視線を逸らした。
「三式になった今でも、魔力の変換効率があまり改善されておらん」
「そのため、普通の魔法少女が使った場合、連続して撃てるのは十発程度が限界じゃ」
「十発!?」
遥が思わず声を上げる。
「それじゃあ修行にならないんじゃ――」
「じゃが、萌花が扱うとなれば話は別じゃ」
ババ様は樋川へ視線を向けた。
「お主の魔力量なら、百……いや」
一度言葉を切り、少し考える。
「千発程度なら、余裕で撃ち続けられるはずじゃ」
「千発ぅ!?」
遥は思わず樋川を見る。
「大砲みたいなもんだな……」
そして少し考えた後、首を傾げる。
「いや、樋川の場合は連射砲って感じか」
「れ、連射砲……?」
樋川は困ったように首を傾げた。
「まぁ、そんなところじゃな」
ババ様まで妙に納得した様子で頷く。
「いや、納得すんなよ」
遥が呆れたように突っ込んだ。
ババ様はそんな遥を無視して、魔弾発射装置へ再び視線を向ける。
「さて、修行の内容じゃが――」
「遥には、ひたすらこの魔弾を吸収してもらう」
「おっしゃ、どんとこい!」
遥は拳を握る。
「初めこそ速度は普通に調節しておるが、次第に上げてゆくぞ」
「最終的には、エドワードの動きへ対応できる程度まで引き上げるつもりじゃ」
「任せろ!」
威勢よく返事をする遥。
その様子を見て、ババ様は僅かに口元を緩めた。
「グランツ先生には、萌花への速度調整の指示と、変化弾を使用するタイミングを見てもらう」
「承知しました」
グランツは眼鏡を押し上げる。
「そして最後の仕上げとして――」
ババ様が言葉を続けようとした、その時だった。
「最高速度の設定で補習してやりますよ」
「ちょっ、先生!?聞こえてるよ!」
遠くから遥が慌てて手を振る。
どうやら普段の授業態度について、まだ根に持っているらしい。
「う、うむ……お主の判断に任せるわい」
ババ様も僅かに苦笑しながら頷いた。
「そしてエルミナ」
その言葉に、エルミナが姿勢を正す。
「お主はワシとじゃ」
「私が……おばぁ様と?」
エルミナは少しだけ目を見開いた。
「うむ」
ババ様は静かに頷く。
「ワシとエルミナとでは、マナの集まり方も違うじゃろうが……」
そう言って、エルミナの掌へ視線を落とす。
「まずは短文詠唱から見直すとしよう」
「は、はい!」
エルミナは力強く頷いた。
こうして、それぞれの修行内容が決まった。
遥は、迫り来る魔弾を吸収し続ける。
樋川は、その魔弾を撃ち続ける。
グランツは、遥が限界へ近付くまで速度を上げていく。
そしてエルミナは――
長文詠唱を身につけるため、その基礎となる魔力操作からやり直すことになった。
「では、始めるぞ」
「萌花、ここに手をかざすんじゃ」
「はい」
ババ様が指示したマッハ君の上部の赤い球状パーツに、樋川は手をかざした。
キィーンと、それらしい起動音と共に、射出口から赤い魔法陣が淡く輝いた。
「ひとまず、一発じゃ」
「おう!」
「発射」
「――え?」
次の瞬間。
光の弾丸が、遥の顔面へ迫った。
「ボヘッ!」
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