世界最強級の魔力を持つ魔法少女と、魔力ゼロの俺 ~彼女を補佐できるのは俺だけだった~   作:青井風太

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親子喧嘩

二週間はあっという間に過ぎ、決闘当日。

 

演習場の客席はかつてないほどに埋め尽くされ、立ち見の生徒まで現れていた。

 

それもそのはず。

 

今回の決闘には、誰もが知る有名人が出場するのだから。

 

キーン、と拡声器の魔道具がハウリングを起こす。

 

その音を気にする様子もなく、少女は前回のエルミナとの決闘と同じように、元気よく声を張り上げた。

 

「さぁ、ついにこの日がやって来ました!今回も実況を担当させていただくのは私、ミコラ・アーベンと!」

 

ミコラはすぐ隣に立つ少女へ、続きを促すように視線を向ける。

 

「あ、あ、あら、新谷ヒスカっす!」

 

「……えっ、誰!?」

 

いつもの落ち着いた様子とはあまりにもかけ離れたヒスカを見て、ミコラは思わず首を傾げた。

 

「いつものヒスカちゃんなら『早く帰りたい……』って、もっと気怠い感じで言ってたじゃん!」

 

「あ、あんたね!誰が闘うか分かってないの!?」

 

「いや、それは分かってるけど……」

 

ミコラは淡々とヒスカを見る。

 

「流石にキャラ変わりすぎじゃない?」

 

「だって!」

 

ヒスカは声を張り上げる。

 

「『四大名家』の現当主よ!?しかも、もう引退されてる方なのよ!?」

 

そのままミコラへ詰め寄る。

 

「二度と見られないかもしれないじゃないのよ!!」

 

「わ、分かったから落ち着いてよ、ヒスカちゃん!」

 

食い気味に迫ってくるヒスカを、ミコラは両手で押し留めた。

 

そして、一度咳払いをする。

 

「コホンッ」

 

「えー……今ヒスカちゃんが言っちゃいましたが、気を取り直して!」

 

ミコラは拡声器を口元へ運ぶ。

 

「まずは、こちらの選手から紹介させていただきましょう!」

 

一度、演習場を見渡す。

 

「魔法省、魔導部隊・元総隊長!」

 

「数多の魔物を撃退し、数多の任務を完璧にこなした歴戦の魔導士!」

 

そして。

 

「その実力から、歴代最強の隊長と推す者もいるでしょう!」

 

ミコラが声を張り上げる。

 

「四大名家、アルヴェイン家の現当主!」

 

その瞬間。

 

ミコラの手から拡声器を奪い取ったヒスカが、満面の笑みで声を響かせた。

 

「エドワード・アルヴェイン!!!」

 

その呼び声と共に、演習場へ続く入口から、一人の男が姿を現した。

 

白を基調とした衣装。

 

無駄な装飾こそ少ないものの、仕立ての良さは一目で分かる。長い外套やローブを羽織ることなく、その身一つで歩いてくる。

 

しかし、何より目を引くのは、その体格だった。

 

服の上からでも分かるほどに鍛え上げられた身体。

 

肩幅は広く、腕も太い。

 

魔導士というより、熟練の戦士を思わせる姿だった。

 

それでいて、その立ち振る舞いには一切の粗野さがない。

 

背筋を伸ばし、ゆっくりと歩く姿は堂々としており、四大名家の当主としての威厳を感じさせる。

 

「……あの人が」

 

観客の一人が呟いた。

 

「すげぇな。オーラって言うかなんて言うか」

 

「こ、この距離でも何か、伝わってくるよね」

 

次第に広がったのは、歓声ではなく、ざわめきだった。

 

演習場へ入ったエドワードは、その場で静かに足を止め、次を待った。

 

「さぁ、続きまして!今回の決闘の申請者を紹介しよう!」

 

ヒスカから拡声器を奪い返したミコラは高らかに続けた。

 

「同じく四大名家、アルヴェイン家の末妹!一年の優等生が父親に反抗だぁ!」

 

「これはもう、実質親子喧嘩!」

 

「そしてその喧嘩に割り込むのは――『君いつもいるね』っと、いい加減言いたくなる程の問題児兼、ノクス!!」

 

「かつての敵と共に、下剋上は成せるのか!?」

 

大きく息を吸ったミコラは続けた。

 

「エルミナ・アルヴェイン&赤城遥!!」

 

その名が告げられた瞬間。

 

演習場の反対側にある入口が、ゆっくりと開いた。

 

緊張した様子のエルミナの背中を、トンッと遥が叩いた。

 

いつものタヌキ姿ではない。

 

人の姿で隣に立つ遥の頬がまた……伸びた。

 

「い、痛い痛い!!」

 

「どどど、どこ触ってますのよ、赤城遥!」

 

「おばえ、ぼんどブレないな!!」

 

そのやりとりを呆れた目で見ていたミコラは拡声器越しに告げた。

 

「二人共、早く入ってきてください」

 

「……ほら行くぞ、エルミナ」

 

「……はい」

 

二人は並んで、演習場の中央へ向かって歩いていく。

 

 

その様子を、少し離れた客席から見下ろしている者たちがいた。

 

ババ様と樋川だ。

 

二人は並んで座りながら、演習場へ向かう遥たちの姿を静かに見つめていた。

 

樋川はしばらく二人を目で追っていたが、不安を隠しきれない様子で口を開く。

 

「……勝てます、かね?」

 

ババ様はすぐには答えなかった。

 

演習場の中央へ進んでいく二人。

 

その背中を見つめながら、やがて小さく息を吐く。

 

「少なくとも、最低限の決闘にはなるじゃろう」

 

「最低限……」

 

「うむ」

 

ババ様は頷いた。

 

「遥の方は、なんとか形にはできておった」

 

「グランツ先生との実戦訓練でも、数度だけは攻撃を捌けておった」

 

樋川は少しだけ表情を緩める。

 

しかし、その顔からすぐに笑みが消えた。

 

「……しかし」

 

ババ様も、その先を察していた。

 

「エルミナは結局、修行中に長文詠唱を一度も扱えはしなかった」

 

「……」

 

「後はもう、戦いの中で見つけるしかないのぉ」

 

ババ様の視線がエルミナへ向く。

 

「エルミナさん……赤城君……」

 

樋川は心配そうに呟いた。

 

二人の姿が、少しずつ演習場の中央へ近付いていく。

 

やがて、客席から聞こえていた声も次第に小さくなっていく。

 

先ほどまでとは違う。

 

決闘が始まる。

 

誰もが、そんな予感を感じ取っていた。

 

「それでは、これより――」

 

「決闘のルールを説明させていただきます!」

 

ミコラが拡声器を口元へ運んだ。

 

「今回の決闘は――」

 

そして続けようとしたその時だった。

 

「――もういい」

 

低い声が演習場に響いた。

 

「え?」

 

ミコラの声が止まる。

 

エドワードは腕を組んだまま、面倒そうにミコラを見た。

 

「さっさと始めろ」

 

「私は暇ではないんだ」

 

エドワードはゆっくりと視線を遥へ向けた。

 

「そこのガキを叩き潰し、愚女には躾をする」

 

「数秒だ」

 

「……」

 

遥は拳を握り、エドワードを見返した。

 

「その自信は、おっさんの『固有魔法』があるからか?」

 

「……なに?」

 

エドワードの視線が鋭くなる。

 

その瞬間、僅かに空気が張り詰めたが、遥はその視線から逃げない。

 

二週間。

 

何度も吹き飛ばされた。

 

何度も魔弾を浴びた。

 

何度も立ち上がった。

 

その全ては、この日のためだ。

 

「一つ教えてやるよ……」

 

遥は拳を握り直した。

 

そして――。

 

「勝つのは、エルミナだ」

 

「……!」

 

隣に立つエルミナが、僅かに目を見開いた。

 

エドワードはしばらく遥を見据えていた。

 

やがて、口元を僅かに歪める。

 

「良いだろう」

 

その声には、怒りよりも冷たい余裕があった。

 

「まずは貴様から嬲り殺す」

 

そして、エルミナへ視線を移す。

 

「愚女はその後だ」

 

「……」

 

エルミナは何も言わない。

 

ただ、静かに父親を見据えた。

 

遥もまた、エドワードへ向き直る。

 

三人の間に、張り詰めた沈黙が落ちた。

 

その空気を破るように――。

 

ミコラが大きく息を吸い込んだ。

 

「それでは……!」

 

拡声器を握る手に力が入る。

 

そして。

 

「決闘――開始!!」

 

その声が演習場いっぱいに響き渡った。

 

同時に。

 

二週間に及ぶ修行の成果を懸けた戦いが、ついに始まった。




読んでいただきありがとうございました。
まだ次回も読んでもらえると嬉しいです。
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