世界最強級の魔力を持つ魔法少女と、魔力ゼロの俺 ~彼女を補佐できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
決闘開始の合図が、演習場いっぱいに響き渡った。
その直後。
腕を組んだまま動かなかったエドワードが、一歩を踏み込む。
ダンッ――!
踏み込んだ足が、地面を強く打ち鳴らした。
「来るぞ!」
「え、えぇ!!」
声を上げた遥。
それに反応したエルミナは腰に差していた細剣を素早く抜き放った。
右手に握った細剣を一度、軽く回す。
そして――剣先を地面へ向けた。
「赤城遥!」
「おう!」
遥もエルミナの隣へ駆け寄る。
差し出された柄を握り、二人で一本の細剣を支えるように構えた。
エドワードの魔力が、ゆっくりと膨れ上がっていく。
タイミングは逃さない。
チャンスは、一度だけだ。
■
時間は遡り、修行期間。
遥の発想を聞いたグランツは、すぐさまババ様へその案を伝えた。
そして、それからほどなくして。
決闘を数日後に控えた五人は、作戦を詰めるためババ様のもとへ集まっていた。
「つまり私が詠唱で集めた固有魔法のマナを、魔力纏の暴発で拡散させる……というわけでしょうか?」
「うむ、その通りじゃ」
静かに頷くババ様。
その隣では、遥が感心したようにエルミナを見ていた。
「おぉ、流石エルミナ!すげぇ理解力だな!」
「そ、そうでしょうか……?」
「しかし、タイミングが難しいのではないでしょうか」
エルミナは少し不安そうに続ける。
「お父さんがいつ固有魔法を使用してくるのか分かっていなければ、咄嗟の対応では遅れてしまいますわ」
「――そんなもん、開幕速攻に決まってんだろ」
「……え?」
エルミナが眉を寄せた。
「な、なぜですの?」
遥は当然のことのように答えた。
「固有魔法への対策があるなんて、向こうは思ってないんだろ?」
「だったら、出し惜しむ必要なんてない」
遥は腕を組む。
「それも、自分が見下してる相手ならなおさらだ」
「一番手っ取り早くて、面倒な決闘を終わらせられる方法だからな」
「ワシも同意見じゃ」
ババ様は小さく頷いた。
「ならば、開幕と同時に仕掛けてくるであろう固有魔法へ、お主のマナをぶつけて相殺する」
「そうすれば後は――」
「俺次第で、最低限の決闘にはできるってことだな」
「うむ……」
ババ様は頷く。
「無論、エルミナの長文詠唱も必須じゃがの」
「は、はい……」
エルミナの返事には、まだ自信がない。
そんな彼女を見ていた遥だったが、ふと別のことが気になった。
「なぁなぁ」
「な、なんですの?」
「ちなみに、固有魔法の詠唱ってどんな感じなんだ?」
「あ、貴方は本当にブレませんわね……」
「特別な魔法なんだろ?気になるに決まってんじゃん!」
遥はさらに身を乗り出す。
「練習だと思ってさ。ほらほら、見せてくれよ」
「まったく……」
エルミナは呆れたように息を吐いた。
しかし、やがて静かに目を閉じる。
「……分かりましたわ」
そして――
エルミナの唇から、固有魔法の詠唱が紡がれ始めた。
◆
『『刻め、秒針』』
『『
エドワードとエルミナ。
ほぼ同時に、二人の口から詠唱が紡がれた。
エドワードの眉が、僅かに動く。
「……?」
視線の先。
エルミナが、細剣を地面へ突き立てたまま詠唱を続けている。
まさか……
一瞬だけ、そんな疑念が脳裏を過った。
だが――すぐに消えた。
エルミナが長文詠唱を成功させたことなど、一度もない。
ましてや今は、決闘の最中。
この状況で固有魔法を完成させられるはずがない。
「……くだらん」
エドワードは詠唱を止めなかった。
どうせ虚勢だ。
自分の固有魔法を警戒し、少しでも時間を稼ごうとしているだけ。
ならば、さっさと終わらせればいい。
エドワードの周囲で、膨大な魔力が渦巻き始める。
『時の流れは、我が
その瞬間。
エドワードを中心に、眩い光の波紋が広がった。
地面を這い、空間を揺らしながら。
光は演習場全体を飲み込むように、エルミナ達へ迫っていく。
そして――
【クロノ・オービタル】
世界から、音が消えた。
観客のざわめきも。
風の音も。
衣服が擦れる音さえも。
すべてが、エドワードの放った光に呑み込まれていく。
その直後だった。
「――今だ!」
遥が叫ぶ。
エルミナは迷いはしなかった。
細剣を握る手に、さらに力を込める。
剣身へと集めていた魔力が、一気に膨れ上がった。
【クロノ・オービタル!!】
エルミナの叫びと同時に、細剣へ込められた魔力が暴発する。
本来なら、魔力纏として武器を包み込むはずの魔力。
しかし――
それを意図的に制御から外す。
細剣を伝って地面へ。
そして、周囲へ。
エルミナの魔力が、光の波紋となって一気に拡散していく。
エドワードの光に比べれば、その大きさは明らかに小さい。
それでも。
タイミングだけは、狙い通りだった。
二つの光の波紋が、正面からぶつかり合う。
――パリンッ。
まるでガラスが砕けたかのような音が、演習場に響いた。
光が空中で弾ける。
そして――
世界に、音が戻った。
「え……?」
「今、何が起きたの?」
「エドワードさんが固有魔法を使ったんじゃ……?」
観客たちは、誰一人として状況を理解できていない。
だが。
エドワードだけは違った。
「……なっ」
僅かに目を見開く。
しかし、それも一瞬。
すぐに冷静さを取り戻した。
「魔力纏の暴発……」
エドワードは、地面へ突き立てられた細剣へ視線を向ける。
「固有魔法のマナを魔力纏へ流し込み、意図的に拡散させたのか」
その仕組みに気付いたエドワードは、舌打ちした。
「小癪な真似を……」
そして、視線を遥へ向ける。
「貴様の知恵だな、ノクス」
低い声が響く。
「そこの愚女に、こんな発想ができるはずがない」
「……お前、いい加減にしろよ」
遥の表情から、いつもの軽さが消え、エドワードを真っ直ぐ見据える。
「何でもかんでも、エルミナにはできないって決めつけんじゃねぇ!」
確かに、この作戦を思いついたのは遥自身だ。
しかし――
遥は一歩、前へ出る。
「お前の娘がすげぇ奴だって事、この決闘で見せてやる!」
その言葉に。
エルミナは、僅かに目を見開いた。
読んで頂きありがとうございました。