世界最強級の魔力を持つ魔法少女と、魔力ゼロの俺 ~彼女を補佐できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
引き続き読んで頂けますと嬉しいです。
拳を固めて駆け出す遥の姿を、エドワードは冷徹な一瞥で迎えた。
「ノクス風情が」
迎撃のために広げられたエドワードの左手。
その瞬間、遥は固めた拳をあえて解き放ち、右手を目一杯に広げてその掌をガッチリと掴み取った。
「くらえっ!!」
その勢いのまま魔力を一気に吸い尽くす――その算段は、一瞬で打ち砕かれた。
「ちっ……この、ガキがっ!」
吸収が始まるより早く、エドワードの左腕が鉄槌となって遥の胸板を打ち抜いた。
衝撃。
視界が爆発的に明滅し、遥の身体はラグビーボールのように後方へと吹き飛ぶ。
「いい加減に諦めろ。そこの愚女を見ろ」
土煙の向こうから、エドワードの淡々とした声が降る。
「貴様が無謀に特攻した今も尚、詠唱すら満足に使いこなせず、地べたに這いつくばっているではないか」
その言葉通り、背後ではエルミナの悲痛な声が震えていた。
二度目、そして三度目の詠唱。
遥が身を挺して稼いだ秒数のなかで、エルミナの魔法陣は歪み、パリンとガラスが割れるような音を立てて何度も虚空に霧散した。
「……やはり、私では……」
三度目の失敗。
崩れ落ち、両手を力なく下ろしたエルミナの瞳から、完全に光が消えかけていた。
「そうだ。落ちこぼれはどこまで行っても落ちこぼれのまま……何も成せず、何者にもならない」
「わかったら大人しく許嫁と――」
「諦めんな!!」
振り返らない遥の背中が、その言葉を拒絶した。
鼻っ柱を赤く染め、肩で息をしながら、それでも遥は声を上げた。
「落ちこぼれだからって、何もできないわけじゃねぇ……!」
肺腑の空気を絞り出すような、遥の濁った声だった。
「できないなら、できるようになるまで俺が支えんだよ!」
「……っ」
その言葉が、エルミナの胸の奥底に突き刺さる。
震える視界の向こうで、ボロボロになってもなお折れない遥の背中が、脳裏にある「もう一人の少女」の姿と重なった。
樋川萌花。
自分と同じように落ちこぼれと呼ばれ、自分自身もそう呼んでいた少女。
それでも彼女が前を向けたのは、彼女自身が諦めなかった事、それにあの不器用な補佐がいたからだ。
(――私だって、萌花みたいに!)
恐怖でガタガタと震えていた膝を、エルミナは両手で強く押し付け、無理やり立ち上がらせる。
「赤城遥」
呼ばれた遥は振り返る事なく、口元の血を拭いながら、再びエドワードを見据えた。
エルミナは真っ直ぐに両手を突き出す。その瞳には、今度こそ魔法少女の光が宿っていた。
「もう一度、お願いしますわ。次こそ――成功させます!」
「おう!!」
エドワードへ向けて再び駆け出した遥を視界に入れながら、エルミナはもう一度口を開いた。
【紅蓮の胎動、焦熱の息吹よ】
【我が血肉を薪とし、我が魂を導火線と成して、此処に原初の光を召喚せん】
【大気を震わす熱波は……眠れる神代の目覚めの合図……】
一瞬詠唱がブレ、赤い魔法陣が薄れかける。
しかし、エルミナは更に魔力を込め、魔法陣に再び眩い光を宿らせた。
【爆ぜる火柱は意志を宿し、猛る火の粉は獰猛なる牙と化す】
肩で息を繰り返し、今にも集中が途切れそうになる。
だが、視線の先でエドワードの攻撃を全力で捌き、時間を稼ぎ続ける遥の姿を見て、必死に心を立て直す。
【天を焦がす黄金の光彩を翻し、灰燼より生まれし不滅の巨獣よ、その姿を現せ】
「繋がっておる……」
観客席にいたババ様は静かに呟いた。
修行期間では一度も繋げることができなかった長い詠唱文を、今も尚震える肩と足を意に介さず、紡ぎ続けている。
エルミナの手元の魔法陣は、詠唱が進むにつれ、二つ、三つと外周に新たな魔法陣を形成していく。
【因果のすべてを
遥へと猛攻を繰り出すエドワードだったが、その詠唱が進むにつれ、不穏な気配を察知して意識を遥からエルミナへと移しつつあった。
【焔の獣よ。ゆらめく炎がある限り、見据えた獲物は我らの物だ】
そして、魔法陣は一際赤く輝いた。
【始炎は今、上がった】
【地を駆け、敵を喰らう捕食者と成れ!!】
詠唱は、ここに紡がれた。
読んでいただきありがとうございました。
また読みに来てもらえると嬉しいです。