落ちこぼれ魔法少女と魔力ゼロの俺~世界屈指の魔力を持つ少女を制御できるのは俺だけだった~ 作:青井風太
夕方。
話が一段落し、俺と樋川は駅に向かって歩いていた。
「……本当に来るつもりなの?」
隣を歩く樋川がポツリと言う。
「おう。まぁ1人じゃ無い訳だし何とかなるだろ」
「そう言う事じゃなくて……」
樋川の声が少し小さくなった。
「頼りにしてるぜ」
なんて、冗談まじりに、微笑みながら言ったのだが。
「勝手に期待して、幻滅しないでよね……」
「え?」
樋川は顔を逸らしたまま呟いた。
「まったく……」
樋川の肩に乗ったままのババ様は、呆れた口調でため息を吐く。
数分歩き、駅の改札の前まで着いた。
夕方の帰宅ラッシュのせいか、
改札を通る人が増えて来た。
ババ様はピョンと、樋川の肩から俺の頭に飛び移り。
俺と共に向かいにいる樋川の方を向いた。
「ではまた明日、ゲート付近で」
「うむ、何かあれば呼ぶのじゃぞ?」
「はい!」
ババ様は俺の両親の記憶を操作する為、今日は俺と共に帰ると言うことになっている。
樋川はと言うと。
「本当に来なくて良いのか?俺以外には見えない様にできるんだろ?」
「いいいい行く訳ないでしょ!男の子の家なんて行った事ないのに!」
「いや、俺は気にしないけど?」
「私が気にするの!」
ペタンっと俺の額にババ様の手が触れた。
「女心くらい理解せんか……」
こうして、俺と樋川はその場で別れた。
そして、俺の頭に乗ったままのババ様と共に、自宅の玄関扉前まで来た時だった。
「遥の両親にワシは見えはせんが、ひとまず――」
ババ様は俺の頭から肩を通り、カバンのファスナーを開けた。
「ここにおるからの、自室に行ったら教えてくれ」
「わかった」
短く返答した俺に、ババ様は。
「一生とは言わんが、しばしの別れじゃ。しっかりな」
ババ様の顔を見ながら少し頷いた俺は、扉を開けた。
「ただいま……」
帰宅の挨拶をすました俺は「おかえり」の声がするリビングに向かった。
「お風呂の前に、先ご飯食べちゃいなさい」
「先に飲んでるぞ」
エプロン姿の母親と、既にビールの缶を開けていた父親に出迎えられ。
俺は、家族との夕食を食べ始めた。
◇
「ばぁちゃん……もういいぞ」
夕食と入浴を済ませた俺は自室でカバンの中に居るババ様に声をかけた。
するとファスナーが内側から少しだけ動き。
「お主のカバンは教科書だらけじゃのぉ」
小言を言いながら、ババ様は器用にカバンからよじ登ってきた。
「普段から学校に置いて帰っておるな?」
「ノーコメントで……」
ババ様は俺のベットの上へピョンっと飛び移り。
俺の部屋をぐるりと見渡した。
「ここがお主の部屋か……」
「うんまぁ、割と普通の高校生の部屋のつもりだけど」
勉強机にベット、漫画本が巻数順に隙間なく配置されている本棚。
広くも狭くも無い普通の部屋だ。
――後、魔法少女のフィギュアが数体。
「……まぁ普通の人間の部屋じゃな」
その言葉に、俺は苦笑した。
「昨日までは、俺も普通の人間のつもりだったんだけどな」
魔物に魔石……それに魔法。
たった一夜の出来事だったが、世界は大きく変わってしまった。
「まぁ、良い」
ババ様はベットに腰を下ろした。
「さて、記憶操作についてじゃが」
「本当に、出来るんだな」
そう話すババ様の横に俺も座った。
「うむ……簡単ではないがの。じゃが魔法界に入る以上、必要な処置じゃ」
ババ様は続けた。
「とりあえずじゃな。お主は県外の学校に通っておる事にする」
「創立記念日で一時帰省、という設定じゃ」
「い、意外と細かいな……」
苦笑しながらそう言った俺に、ババ様は少し声を上げた。
「当然じゃ。お主もこの設定を忘れるでないぞ」
「はい了解……」
「両親も学校の連中も、お主が寝ている間に全て済ましておこう」
軽返事をした俺にババ様はそう告げた。
そしてババ様は窓の額縁に移動し。
「今日はもう眠ると良い……明日は早い」
月を見上げるババ様。
俺はその後ろ姿に語り掛ける。
「ちょっと良いかな?」
「ん?」
振り返ったババ様は少し首を傾げた。
「樋川の事なんだけどさ」
俺がそう言うと、ババ様は少しだけ目を細めた。
「昼間も、昨日の魔物討伐の時も思ったんだけど……」
「なんか、妙に焦ってる感じがしたんだよな」
昨夜の魔物退治の時に呟いていた言葉。
それに今日、試験中止を告げられた時の顔。
「女心は分からん癖に、そう言う所には鋭いんじゃな……」
ババ様は小さく呟いた。
「まぁ、なんとなくだけど」
あそこまで分かりやすく落ち込んでいれば、流石に気になる。
少しの沈黙が流れた後、ババ様はゆっくりと口を開いた。
「萌花はの……」
「魔法学校では、ずっと”特別扱い”されておる」
「特別扱い?」
「うむ……」
ババ様は再び外の月を見上げながら続けた。
「魔力量だけならば、あやつは間違いなく学園――いや、世界屈指じゃ」
「そんなに!?」
「常人の数十倍と言ったじゃろ?」
確かに昼間も聞いた話だ。
「じゃが」
「その尋常ではない量の魔力をコントロールできず、苦悩しとるんじゃよ」
ババ様は続けた。
「特別扱いとは言ったがの、周囲から持ち上げられている訳じゃない」
「寧ろ、萌花は宝の持ち腐れとして特別扱いされとるんじゃよ」
「見習いから魔法少女へ昇格できていないのは、同期では萌花だけじゃ」
「そのせいで、萌花は落ちこぼれと呼ばれておる」
その言葉を聞いて、昼間の樋川の顔が頭に浮かんだ。
『勝手に期待して、幻滅しないでよね……』
あの言葉の意味が、少しだけ分かった気がした。
「そっか……」
樋川の必死さ、こっちの世界で無理に優等生ぶっていた理由。
全然知らないのに、妙に共感できた気がした。
「じゃがな、遥」
ババ様はこちらに振り返った。
「萌花は、その境遇から一度も逃げた事は無い」
「なんど失敗しても、挫けても、諦めはしなかった。
自分の力を使いこなす為に、日々努力しておる」
「じゃから、ワシはあの子を見とるんじゃ」
二人の関係も、ただの師弟ではない事が分かった気がした。
「あいつ、すげぇんだな」
「フフ、ワシから話した事は秘密じゃぞ?」
少し微笑んだババ様は。
「さて、もう眠ると良い」
俺に眠るように促した。
「うん……お休み」
そして俺も一言挨拶をし、目を閉じた。
明日からは、俺の知らない世界が始まる。
◇
「忘れ物無い?」
「無い無い」
玄関でそう尋ねて来る母親に靴紐を結びながら俺は軽く返事をした。
いつもと変わらない朝。
いつもと変わらない会話。
いつもと違うのは……俺だけだ。
玄関には母親だけじゃなく、
「いつでも帰って来いよ」
今日は仕事へ行く時間を遅らした父親もいる。
「うん、じゃあ……」
俺はしばらく帰れないのだろう。
いや、二度と帰れない可能性だってある。
でも……だからこそ、もう一度帰ってくる為にこう言うんだ。
俺は扉を開けて振り返る。
「行ってきます。」
――と。
そして俺は、帰宅に向けての第一歩を踏み出した。
「挨拶はすましたな?」
自宅の花壇に座っていたババ様は尋ねて来た。
「うん、ばっちりだ」
俺の言葉を聞いたババ様はゆっくりと立ち上がり――
「では、行くとしよう」
ババ様に俺は付いて行った。
――俺は歩く途中、一つ気になった事があった。
「そう言えば、魔法界のゲートってどこにあるんだ?やっぱり駅とか!?」
やはり人間界から魔法界への入り口は気になる。
漫画でよく見る駅や空港。
洒落た雰囲気の似合う、まさに異世界って感じが似合うゲートの場所!
「ついてくれば分かる」
そう言ったババ様に俺はついて行ったんだ……
住宅街を抜け、駅を抜け?
上空を通過する飛行機の音を聞きながら俺は河川敷に出た?
草が生い茂る道を、十五分程歩いた頃。
俺は……河川敷の一番奥。
使われていないトンネルの前に立っていた。
「思ってたのと違う――!!」
「朝から何叫んでるのよ……」
トンネル前で待っていた樋川は、反響する俺の声に呆れる様にツッコンだ。
「やれやれ……」
額に手を当て、ため息をついたババ様。
「はよせい、行くぞ」
先導するババ様に、樋川と妄想とは違う場所に連れてこられた俺はついて行った。
外からの光が見えずらくなるほど、歩いた時ババ様は立ち止まった。
「ここじゃ――」
目の前には一枚の扉が。
その扉の前に立った樋川はノックをし――
「ま、魔法少女見習いの樋川萌花です。ゲートをお願いします。」
その言葉を合図に、扉は開き中からローブを羽織った人が姿を現した。
フードは深く、顔は見えないが、その人物は樋川よりも先にババ様の方へ体を向け、一礼をした。
「お久しぶりです。マリィ・アンソワーズ様」
「うむ……いつもご苦労様じゃ」
返事を聞いたローブの人物は次に俺の方へ視線?を向けた。
「そこの彼が、昨日報告に合ったノクスの?」
「左様……ワシから正式に報告するまで、他言はせぬ様にな」
「はい!」
始めてみる樋川以外の魔法使い。
そしてババ様に対する態度。
疑っていた訳ではないが、ババ様は本当に重鎮のようだ。
「おっと、そうじゃ」
と前置きしたババ様は続けた。
「こちらの世界に派遣している魔法少女と魔法士の皆に、今夜の打ち合わせには必ず出席する様伝えておいてくれ」
「承知いたしました。」
もう何回目か分からない置いてけぼりな俺とは違い、樋川は扉を開けた。
扉の先には、白い光が広がっていた。
向こうの景色は見えない。ただ、眩しい光だけが溢れている。
先にババ様が扉をくぐり、樋川も続こうとしたが、一度こちらを振り返る。
「ほら、いくよ」
「お、おう……」
少しばかり緊張していた俺は、樋川に続き。
その扉をくぐった。
俺の憧れた世界へ、一歩踏み出した。
読んで頂きありがとうございました。
また明日は21:00頃に投稿予定です。
良ければ読んでください。