デッドリードライバーズ~マーベリックはもういない~ 作:椚右近
数日後、BARマブス=マグスのいつもの部屋で、四人は思い思いの昼食をつまみながら駄弁っていた。
コネットは摘まんだポテトを一本囓ってはコーラを一口のルーティーンを維持しながら、延々と同じ不満について愚痴ることを続けていた。一向に飽きる気配無し。
即ち。
「あー、あんだけ骨折って減った刑期が5年ってどーいうことよ……ショボいながらも都市の危機だったわけでしょ、あのアリンコ。それを阻止したんだからせめて一世紀は寄越しなさいよ……」
「誰かさんが勢い余ってフォルミカを吹き飛ばしてなきゃ、100年はともかく50年はいけただろうよ」
チーズを増量したスマッシュバーガーを頬張りながら、ジェットも何度目か分からぬ突っ込みを入れる。
そして飽きずに噛み付くコネット。飽きずに互いの尻尾を追いかけ回す猫と鼠の風情。なお古典に従い、優勢なのは鼠の側。
「何よ、アタシが悪いってーの!?」
「当たり前だ。最悪死に際のフェロモンのせいで都市がフォルミカの群れに襲われてたんだぞ。良い機会だ、しっかり反省しやがれ」
「ちっくしょー、こんなんアタシ向きの仕事じゃねー! もっとド派手な奴もってこーい!」
「いや絶対任せたくねぇだろ……」
溜息交じりにフルフェイスヘルメット――新調するまでもないストックの一つ――の両目を点滅させるギルスティン。ヘルメットのスリットに突っ込んだストローは、ジョッキサイズのジンジャーハイボールから伸びている。ギルスティン曰く、7%以下はアルコールに該当しない――聖域法でもそのまま運転したら立派に違法。
カティアはテーブルに頭を横たえたまま、ギルスティンの言葉に無言で頷くだけ。時折思い出したように傍らに積み上げたマカロンを口に運ぶ様子はますます小動物染みている。彼女のテンションは貯蓄式で限度があり、大量消費すると底を突く――とは本人の言。
結局、彼等は仕事(ビズ)を完遂した。
ただし、勝利の報酬は最低限のものとなった。
肝心要のフォルミカとニムゴが死亡。ビュティの告発を受け聖域保安局は半ば廃人と化したクイニーを無理矢理証人として告訴するが、予想通りビーテールは全責任をニムゴとクイニーに押しつけ、最小限の賠償で切り抜けた。
ニムゴの企画にゴーサインを出した黒幕――恐らくは副社長と呼ばれた人物――は証拠不十分で顔すら表沙汰にならなかった。ビーテール社自体は一応ダメージを受けて表舞台における勢いを減じたが、元々他の大企業がグレーな活動を行うために共同出資して作ったカバー企業である。出資元にまで手が伸びない限りは実質ノーダメージと言える。
ただし、レイダーズとの関連が疑われた事だけは払拭仕切れない。今後の活動では当分、あるいは半永久的に監視の目が付く事になる。野外関連の活動をやりづらくなった事は間違いない。件の副社長も今は別都市に出張中との情報もあり、しばらくは冷却期間を置くものとジェット達も推測している。
それがティファレトにとってはせめてもの成果だったと言える。
ただ、そのことが
「ま、こんなことやらかす連中が何時までも大人しくはしてないだろうよ」
「そん時こそは年貢の納め時って奴だ」
「ま、精々いい手柄になってほしいもんだわ。ぱーっと1万年くらい減らして学会の
「そんなの今度こそ聖域都市壊滅の危機じゃん……私は勘弁」
かしましくすらある彼等が今回の事件解決の功労者であると言っても、多くの一般人は信じないだろう。
事件の報道の中で、彼等の実名などの情報は一切出なかったのだから。
無論、コネットの事は決して公表されない――彼女の
だが他のメンバーについても似たようなものだ。カティアが撮影しておいた映像は記事と一緒にティファレト・トリビューンに送付され、報道番組の中でも度々流れる事はあったが、ジェット達の姿が映ることは決してない。
そういう条件だったからだ。
故に下請けは裏方、金銭を得る事はあっても栄誉を受ける事は無い。
元
そして彼ですら言うだろう。『自分はマーベリックではない』と。
マーベリックとは常に、“成し遂げた者”だ。茨の道の半ばで笑って倒れる者がいたら、その者はマーベリックかもしれない。
道を歩き終えた時、その者はかってマーベリックだったかもしれない。
だが今道を歩く者、これから道を目指す者はまだ成し遂げていないが故に、マーベリックとは呼ばれない。
未来にも現在にもいない。マーベリックは常に、過去にのみ存在する。
「私はこーいうのでいいよ、こーいうのでさ」
カティアが示すのはテーブルの上に無造作に置かれた、古風な一枚の引き延ばされた
写るのは引っ越したばかりなのか、段ボールの積み上がる真新しい部屋の中で、しゃがみ込んで肩を寄せ合い笑う若い姉妹。
背後の壁にはこれも書かれて間もないであろう、比較的小さなグラフティ。
青い輪郭に縁どられた真っ赤な
読み解せばその意味は、
“マーベリック、