デッドリードライバーズ~マーベリックはもういない~   作:椚右近

19 / 19
マーヴェラス・マーベリック……マーベリック

 数日後、BARマブス=マグスのいつもの部屋で、四人は思い思いの昼食をつまみながら駄弁っていた。

 コネットは摘まんだポテトを一本囓ってはコーラを一口のルーティーンを維持しながら、延々と同じ不満について愚痴ることを続けていた。一向に飽きる気配無し。

 即ち。

 

「あー、あんだけ骨折って減った刑期が5年ってどーいうことよ……ショボいながらも都市の危機だったわけでしょ、あのアリンコ。それを阻止したんだからせめて一世紀は寄越しなさいよ……」

「誰かさんが勢い余ってフォルミカを吹き飛ばしてなきゃ、100年はともかく50年はいけただろうよ」

 

 チーズを増量したスマッシュバーガーを頬張りながら、ジェットも何度目か分からぬ突っ込みを入れる。

 そして飽きずに噛み付くコネット。飽きずに互いの尻尾を追いかけ回す猫と鼠の風情。なお古典に従い、優勢なのは鼠の側。

 

「何よ、アタシが悪いってーの!?」

「当たり前だ。最悪死に際のフェロモンのせいで都市がフォルミカの群れに襲われてたんだぞ。良い機会だ、しっかり反省しやがれ」

「ちっくしょー、こんなんアタシ向きの仕事じゃねー! もっとド派手な奴もってこーい!」

「いや絶対任せたくねぇだろ……」

 

 溜息交じりにフルフェイスヘルメット――新調するまでもないストックの一つ――の両目を点滅させるギルスティン。ヘルメットのスリットに突っ込んだストローは、ジョッキサイズのジンジャーハイボールから伸びている。ギルスティン曰く、7%以下はアルコールに該当しない――聖域法でもそのまま運転したら立派に違法。

 カティアはテーブルに頭を横たえたまま、ギルスティンの言葉に無言で頷くだけ。時折思い出したように傍らに積み上げたマカロンを口に運ぶ様子はますます小動物染みている。彼女のテンションは貯蓄式で限度があり、大量消費すると底を突く――とは本人の言。

 結局、彼等は仕事(ビズ)を完遂した。

 ただし、勝利の報酬は最低限のものとなった。

 肝心要のフォルミカとニムゴが死亡。ビュティの告発を受け聖域保安局は半ば廃人と化したクイニーを無理矢理証人として告訴するが、予想通りビーテールは全責任をニムゴとクイニーに押しつけ、最小限の賠償で切り抜けた。

 ニムゴの企画にゴーサインを出した黒幕――恐らくは副社長と呼ばれた人物――は証拠不十分で顔すら表沙汰にならなかった。ビーテール社自体は一応ダメージを受けて表舞台における勢いを減じたが、元々他の大企業がグレーな活動を行うために共同出資して作ったカバー企業である。出資元にまで手が伸びない限りは実質ノーダメージと言える。

 ただし、レイダーズとの関連が疑われた事だけは払拭仕切れない。今後の活動では当分、あるいは半永久的に監視の目が付く事になる。野外関連の活動をやりづらくなった事は間違いない。件の副社長も今は別都市に出張中との情報もあり、しばらくは冷却期間を置くものとジェット達も推測している。

 それがティファレトにとってはせめてもの成果だったと言える。

 ただ、そのことが下請け(サブコン)達に影を落としているかと言えば、そうは見えない。

 

「ま、こんなことやらかす連中が何時までも大人しくはしてないだろうよ」

「そん時こそは年貢の納め時って奴だ」

「ま、精々いい手柄になってほしいもんだわ。ぱーっと1万年くらい減らして学会の執行部(エンフォーサーズ)をギャフンと言わしてやれるような奴!」

「そんなの今度こそ聖域都市壊滅の危機じゃん……私は勘弁」

 

 かしましくすらある彼等が今回の事件解決の功労者であると言っても、多くの一般人は信じないだろう。

 事件の報道の中で、彼等の実名などの情報は一切出なかったのだから。

 無論、コネットの事は決して公表されない――彼女の奉仕活動(ライアービリティ)は完全に学会が秘する非公式。“自分のための聖域都市”を勝手に建造しようとした大犯罪者がティファレト内にいる事が知れれば、都市内が大混乱に陥りかねない。求められるのは彼女の能力がもたらす成果だけだ。

 だが他のメンバーについても似たようなものだ。カティアが撮影しておいた映像は記事と一緒にティファレト・トリビューンに送付され、報道番組の中でも度々流れる事はあったが、ジェット達の姿が映ることは決してない。

 そういう条件だったからだ。下請け(サブコン)は普通、表舞台に出ない。評価される事は少ない。彼等の多くは時に聖域都市や学会にも牙を剥く。自由人の敵は押しつけられる不条理だから、体制側とは相性が悪い。そんな彼等にとって、一般社会に顔が売れる事は百害あって一利無し。マスコミに取りあげられる時は危険な犯罪者としてか、あるいは愚かで憐れな被害者としてのみ。

 故に下請けは裏方、金銭を得る事はあっても栄誉を受ける事は無い。反逆(パンク)とはそういう物だ。主流派になり得る人生ではない。

 元魔物狩人(ハンター)の現ティファレト市長ヴォルフガング=イェーガーは立志伝中の人物、例外中の例外である。

 そして彼ですら言うだろう。『自分はマーベリックではない』と。

 マーベリックとは常に、“成し遂げた者”だ。茨の道の半ばで笑って倒れる者がいたら、その者はマーベリックかもしれない。

 道を歩き終えた時、その者はかってマーベリックだったかもしれない。

 だが今道を歩く者、これから道を目指す者はまだ成し遂げていないが故に、マーベリックとは呼ばれない。

 未来にも現在にもいない。マーベリックは常に、過去にのみ存在する。

 

「私はこーいうのでいいよ、こーいうのでさ」

 

 カティアが示すのはテーブルの上に無造作に置かれた、古風な一枚の引き延ばされた写真(フォト)

 写るのは引っ越したばかりなのか、段ボールの積み上がる真新しい部屋の中で、しゃがみ込んで肩を寄せ合い笑う若い姉妹。

 背後の壁にはこれも書かれて間もないであろう、比較的小さなグラフティ。

 青い輪郭に縁どられた真っ赤な壁爆煙書(スローアップ)は、絡み合う稲妻にも似る。

 読み解せばその意味は、

 

 

 “マーベリック、ここにあり(ヒア)!”

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。