ゆみこ「米花町ってなんだし」後輩「知りません」   作:コアラと飲むマーチ

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バリキャリな優美子さん(婦警)を書こうとしたらこうなった。
なんでこうなったか7歳差コンビ。緩く活動してるけど結構権限はある。


三浦優美子(26)と童顔部下(19)

 ナイフで刺されると呼吸が止まる。

 あと、最初の一瞬は何が起こったかわからなくて、数秒くらいは痛くない。ヌチャっと生あたたかい感じが広がってから、のたうちまわるほどの激痛がやって来る。

 以上。背後からいきなり背中を刃物で突き刺された時の感覚。

 私、三浦(みうら)優美子(ゆみこ)二十歳(はたち)の時の体験談だ。あくまであーしはそうだったってだけだから、個人差はあると思う。それに、後ろから不意打(ふいう)ちで刺されんのと前から来られんのと、そこら辺も違うしね。刺されるってわかってればソッコーで激痛くるのかも。まぁ、どっちにしたって二度と刺されるとかごめんだけども。

 

 

『まだ捜査は続いているのですが……』

『奇妙なことに目撃情報が少なくて……』

『何度も申し訳ありません。覚えていることはなんだっていい。思い出したら話してください』

 

 私を刺したのは通り魔だった。池袋のスクランブル交差点で信号待ちしてた時にね。でも、それなら顔を見てる人が絶対にいるはずなのよ。あの日も超混んでたし池袋。それなのに顔はおろか背丈とかも曖昧らしくて、犯人が見つかるまで一年半もかかった。

 あーしが大学四年になってから。おかげで大学生活の半分はビビりながら過ごす羽目になった。やっぱ怖いじゃん、捕まってないとか。

 

『結局、追い詰められて飛び降り自殺かぁ。なんだか後味(あとあじ)が悪いね……』

『いやいやヒナ。どう転んでも後味は最悪だから。あーし無差別に刺されてるし』

 

 友達とはこんな会話したっけ。

 犯人、池袋の雑居ビルから飛び降りたんだよね。それで事件は終了。まあ早く忘れようってことで、あーしはそれまで以上に()()に精を出した。

 好きな男が弁護士になる予定だったから、少しでも近い立場になりたくて。結局そうはなれなかったんだけど、勉強はしといて良かったと思う。社会人になってから感じるけど、色んなこと知ってると役に立つ場面が多いしね。

 

 

『またニュースやってるね。なんだろ、凶悪そうな顔?』

『……?』

『どしたん優美子(ゆみこ)?』

『えっと……いや、なんでもない』

 

 大学の時、友達とこんな会話もした。

 アパートでテレビ見てたら例の通り魔のニュースやってて、いかにもって感じの病んでそうな男の顔が映ってた。それだけなら良かったんだけど、そん時に初めて見えちゃったんだよね。

 

 ──なんかよくわからん黒いモヤ。

 

 ニュースの映像が心霊写真みたくなってた。友達は全く気付いてなかったから、怖がらせるのもなんだしなー、とか思って黙ってた。今思うとやけに冷静だったな(あーし)

 

『キモっ』

『えっなにが?』

 

 その後、私は見えるようになった。

 明らかに邪悪な感じの黒いモヤ。ハッキリ自覚したのは大学近くのビルが放火された時。野次馬根性丸出しで見に行ったらビビったよね。黒い煙と一緒になって、人の顔の形をしたモヤが浮かんでんだもん。

 んで、青い顔してた私のとこに警察の人が歩いてきて、色々と話を聞かれたのよね。顔にでっかい傷のあるヤクザみたいなオッサン。あーしはビビったよ。

 だってそのオッサン、モヤのこと話したら益々ヤクザみたいな顔になって、『後日連絡させてもらおう』とか言うわけ。ビビるっしょ。んで、連絡は本当に来て、というかアパートに押しかけてきて、そのオッサンは私に言った。

 

 

『我々は今、見える人材を求めている。力を貸して貰えないだろうか』

 

 そん時はよくわかんなかったけど、おっかなかったから私は了承した。ソープとかに女を沈めそうなオッサンだったし、面と向かって拒否(きょひ)る勇気はなくてね。

 何の話かはすぐにわかったよ。要約すると『警察にならないか』ってことで、受けるだけならって返事して受けたら普通に合格。何をどこでどう間違ったのか、私は婦警さんになった。

 早いもんで今年で四年目。

 貯金はあんまりない。気付いたら消えてた。この世の中、怪奇現象おおすぎるわ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「あーし、ずっと地元で良かったんだけど」

 

 美人上司が電車の中でイラついている。

 どっかりドアに寄りかかって舌打ちを一発。スマホを華麗に操作している様は、まるで警察官とは思えない。しかも()()。学生時代の縦ロールは流石にやめたとのことだが、色素抜け落ちたロングヘアーはまずいんじゃないか。

 

(サラ金の受付とかにいそう……ガラ悪いなぁ……)

 

 なんて感想を抱いてしまう。

 自分のスマホの真っ暗な画面を見ると、冴えない童顔がどんよりとした表情を浮かべていた。僕である。

 綾瀬川(あやせがわ)蓮夜(れんや)十九歳。

 今年で社会人二年目。たった一人の直属上司が暴力事件を起こしたため、仲良く県外に飛ばされることになった。千葉から東京へと。

 職業は警察官。ただし一般的に馴染(なじ)みのある警察署の皆さんとは毛色が異なり、ぶっちゃけ()()()()()()()()。鑑識みたいなことをするのが主なんだけど、頻度はあまり多くないのだ。仕事ない時はダラダラしてることが多い。

 

「おい、聞いてんの? あーし、ずっと地元でよかったんだけど」

 

 と、ドスの効いた声を放ったチンピラギャ……素敵な上司の名は、三浦優美子(ゆみこ)

 二十六歳独身。四年目。職級は警部補。制服はほとんど着ていない。僕は数える程しか見たことがない。

 偉い人から尻にスキンシップを受けたからって頭突きして、そのせいで飛ばされることになった。二人しかいない部署なので僕も一緒に。このギャル婦警、やってくれやがったものである。

 

「あのですね、頭突きしたんだから傷害事件にならなかっただけ」

「その前にセクハラっしょ。婦女暴行だわ」

「いや、そこまでは……そりゃ罪は重いと思いますけど」

 

 うん、いきなり尻を撫でるとか罪は重いな。あのまま何も起きなければ、何かしらし返してやろうとは考えていた。その前にこの人が頭突(ずつ)きしちゃったわけだけど。

 

「チッ……二度と顔みたくねーわ、あの98パーセントハゲ。毛根完全に死滅させてやりてー」

 

 美人がアナコンダみたいな目で怒っている。優美子さんは顔だけなら透明感あるとか言われてモテるけど、性格はヴァイオレンスなので。うん。

 

「つか、あーしは未だにモヤってんだけど」

「なにがですか? 安西(あんざい)さんのハゲのパーセンテージについて?」

「あのハゲはどうでもいいから。あーしが言ってんのは、米花(べいか)町とかあったっけって話」

 

 優美子さんはホレ、とスマホの画面を見せてきた。

 そこには僕達の目的地、米花町についての説明文が表示されている。 

 米花(べいか)町。

 東都環状線沿線にある町。

 最寄りは米花駅。米花図書館、米花中央病院、喫茶ポアロなどがある。近郊のトロピカルランドはデートスポットとしてあまりにも有名。

 

 

「トロピカルランドってなによ。今日の朝までなんも違和感なかったけど、よく考えたらねーよトロピカルランドとか。聞いたことねー」

 

 優美子さんは声量を少し絞った。険しい顔でキョロキョロ車内を観察するも、乗車しているのは何の異常みられない一般人の方々である。

 窓の向こうを見ると米花町らしき街並みが見えてきた。駅前はそこそこ栄えていそうで、視線を走らせると商店街とか住宅街も確認できる。邪悪な感じとかはない。至って普通である。

 

「なあ、トロピカルランドってなんなん?」

「知らないです。でも検索したら出てくるし……あー不気味だなぁ」

「ねー、不気味よねー」

 

 さぁて、優美子さんが言ってるトロピカルランド。

 僕も知らない。僕たちが知ってる関東で有名なテーマパークは、下水道出身の大きなネズミが笑顔で手を振ってくれる場所──ランドとシーだけである。

 トロピカルランドってなんだ。しかも米花町とか知らない。そんな町は東京にはないはずである。

 

「なんか怖くなってきた。あーし達はどこに向かってるん?」

「知りません。でも着いちゃいますよ米花町。あと数分くらいで」

 

 転勤先は地図になかったはずの謎の町。

 これだけでも不気味だというのに、トロピカルランドとかいう謎のテーマパークも出現している。僕たちが無知なわけではない。流石に有名どころのテーマパーク知らないとかないし。

 

「どうするん、変なん出たら」

「どうするっていうか……出るから送り込まれたんじゃないんですか。警察組織内の僕達の存在価値ってそれしかないし」

 

 僕はガックシと肩を落とした。

 僕達は変なものが見える。普通の人じゃ見えないヤバい物体が見えるのだ。幽霊がそこら中を歩いてたりとかは経験ないけど、時には名状しがたい的な存在が見えちゃうこともある。

 そして、それこそが僕達に給料が払われている意味なのだ。世の中には名状しがたい的な現象が多くはないけどゼロでもないらしく、そういったものの調査や対処が僕達のお仕事。もっと人員よこせと愚痴りたくなるけど、見える人──察知できる人材は少ないらしくて、こうして二人の部署ができあがった。

 

 

「死神とかいなけりゃいいなー」

「いたら逃げましょうね。戦ったりしちゃダメですよ、死神に銃弾とかきかなさそうだし……」

 

 なお、優美子さんは以前に等身大の泥人形っぽい何かに発砲して、飛び散った肉片が僕の頭の上から降り注いだ。翌日から高熱が出て死にかけたので、あまり迂闊な真似(まね)はしないで欲しい。見えるからって陰陽師みたいに霊能力とか使えないし、体は生身の人間なんだから。普通に死ぬから。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「あれれー、変な粉が落ちてるー。なんだろうこれー、こんなところに砂糖みたいな粉が落ちてるなんて、おっかしいなぁー」

 

 米花駅の構内で小学生くらいの少年がすっとぼけた声を発している。

 改札付近は騒然としていた。

 中年の男が血相を変えて、財布が消えたと騒ぎ立てているからだ。

 

「おい! 早く探してくれっ、うたた寝してた俺が悪いが、財布には大切な薬が入ってるんだ!」

「いや、そう仰られましても……」

「と、とりあえず監視カメラを確認しましょうか?」

 

 駅員達は困り果てた顔。どうやら男性はホームの椅子で寝落ちしていて、その間に財布を盗まれてしまったらしい。

 

「あれれー、おっかしいなぁー!」

 

 慌てふためくやたらマッチョな中年男性、腰が引けている駅員達。そして初めて米花駅にやってきた優美子(ゆみこ)は小声でこう言った。

 

「いや、おっかしいのはおめーだろ……なんで床にはいつくばってんのあの子。なんだあの蝶ネクタイ。ねえ綾瀬(あやせ)、なんなんあれ」

「知りません」

 

 少年は行動だけではなく格好もけったいだった。

 胸につけた真っ赤な蝶ネクタイ。短パン。ワイシャツ。ジャケット。なんのコスプレだと指摘したくなるような格好で、床にはいつくばって「おっかしいぞー」とか言っている。

 この場合、優美子は正しい。

 どこからどう見てもおっかしいのはアイツである。

 

「まあなんかおっかしいみたいですし、話を聞いてみますか。おーい、そこの僕。なにがおっかしいのー?」

「あれっ、お兄さんとお姉さんは誰ー? もしかして旅行に来たのー? もしかして新婚旅行かなぁー?」

 

 蓮夜(れんや)が声をかけると、少年はひょこっと起き上がって首をかしげた。

 

「は? 誰って警察なんだけど。わけわかんないこと言ってないで、なんかあるならさっさと言いな」

「ちょいちょい優美子さん、優しくいきましょう優しく。ごめんね僕、旅行でも新婚でもないから、なんかあるなら教えてくれる?」

 

 なお、優美子は奥さんという柄ではない。名前のわりに優しさが欠如している節がある。蓮夜には特に酷いことが多いが、罵倒された時は美人だから仕方ないと思うようにしている。

 

「えっとねー、変な粉がたくさん落ちてるんだー! 誰かがアリさんに餌でもあげたのかな?」

「いやいや、これ砂糖じゃないし」

「あー、トイレの方に続いてるな。もしかして財布に入ってたっていう薬じゃないのこれ。ちょっと見てきますよ。もしかしたら窃盗犯……って、そんな上手いことはいかないでしょうけど」

 

 まさかそんなわけないわな。

 ないない。そんなベタな展開は。とか思いつつ男子トイレを覗いてみたら、途切れ途切れの粉の道が奥の個室に続いていた。いやまさか。そんな、ねえ? と出てきた老人に確認してみたら、盗んでた。

 わりと簡単に白状した。どうせなら牢屋に入れてくれとかわけのわかんことをほざくので、蓮夜は警察を呼んで仕事終了。足早に米花(べいか)駅を後にした。窃盗犯の検挙は自分達の仕事ではない!

 

 

「んで、なんだったんあの子。なんなんあの蝶ネクタイ」

「知りません」

 

 優美子は蝶ネクタイが気になって仕方ないようだったが、蓮夜からすればどうでもいい。ファッションセンスは人それぞれ。そんなことより新しい()がどんなところなのか気になっていた。

 仕事内容が特殊なのもあって、二人は警察署に()()()()()。千葉時代は小汚いオフィスが与えられ、招集の連絡が来なければダラダラしていた。家賃がかからないことをいいことに寝泊まりもしていたのだが、今回はどんな部屋が貰えるのか。

 

「てか、なんか見えたんだけど。あの蝶ネクタイ。なんかグニャグニャしてて変だったっしょ。あんたは気付かなかった?」

 

 歩きながら考え事をしていたら、優美子が聞き捨てならないことを言った。どうやら少年の蝶ネクタイから変なものが見えたらしい。蓮夜はわからなかったが、まあ不思議なことではない。どちらかが見えてどちらかが見えないこともある。これが初めてのことではなかったから。

 

「え、まさか本当に死神だった……?」

「いや、それはないっしょ……でも怪しかったよね。普通、駅の床に張り付いたりしないし、蝶ネクタイとかないし」

 

 あんないたいけな少年が死神なわけはないだろうが、それでも怪しかったのはたしかにそうだ。

 名前は江戸川コナンと言っていた。変なものが()いていたら可哀想だから、ひとまず蝶ネクタイは外すように促した方がいいだろう。身の危険があるのかないのか現段階では判断できなかったが、人としても職務的にも見て見ぬふりはできない。

 

「てか、なんでその時に言わなかったんですか。もう離れちゃいましたし、どこ行ったかわかんないですよ」

「いや、なんか大丈夫そうだったし。ほら、危ないかどうかは大体わかるから。あーし、あんたより目いいし」

 

 ちなみに、優美子はヤバそうかどうかの判断ができる。蓮夜に比べて精度高め。大きく外したことはないので、彼女がそう言うなら大丈夫だろう。

 

「あー、なるほど。それじゃ急いで探さなくてもいっか」

「大丈夫っしょ。ちょっとグニャグニャしてただけだし。つか蝶ネクタイの心配してる場合じゃなくね」

「……たしかに」 

 

 さて、どうしたものだろうか。

 気付かないフリをしていた二人だったが、ここで暮らしていく以上はそういうわけにもいかない。だって空を見ないで生活するとか無理だし。なんか月が()()してるの無視し続けるとか、無理だし。

 

「オレンジ、赤、黒、オレンジ。めっちゃチカチカしてんだけど、なにあれ」

「知りません」

 

 月がめっちゃチカチカ色が変わってた。しばらく見てたら普通の金色に戻ったが、なんなのだろうかアレは。いつの間にかスマホのGPS機能がバグっているし、なんなのだろうかこの町は。

 

「やばくね、なんか満月が三日月になったんだけど、なにあれ?」

「知りません」

 

 どう考えてもマトモではない。

 二人の結論は同じであった。そして、こういう時はとりあえず一緒の部屋で寝て明日の朝まで様子を見る。それでオカシイことが自然消滅する場合も今まではあったが、果たして今回はどうだろうか。

 米花町、恐ろしい場所。初訪問の二人は初日で怪奇現象に見舞われ、その日はビビりながら寝た。

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