アルヒナ恋人同士概念   作:自習用たくさん宿題

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みっつめ


今日は「白」なのね

「社長! 急いで!」

「アルちゃんやばい! もうすぐ後ろまで――うわっ!」

「ムツキ!!!」

 

 真昼のD.U.に、アルの絶叫がこだまする。ムツキはこちらに駆け寄って来ようとしたところで爆風に巻き込まれ吹き飛んでいった。カヨコは目立った外傷は無いが、ところどころ衣服が破けている。

 なぜ彼女らがこんな事態になっているかと言えば、それはアルが受けた依頼に理由がある。

 日頃依頼らしい依頼もなく、懐が寂しいアルの元へかかってきた一本の電話。その電話の主はとある企業の社長だった。曰く、「トリニティへの市場拡大を目的としたコーヒー豆の輸送」の護衛を依頼したいとのことだ。

 ここでアル以外の三人ははてと首を傾げたことだろう。たかがコーヒー豆の輸送ごときで護衛など必要あるはずがない。別に普通に運べばいいだけの話である。不良に襲われるのを恐れていると理由づけるとしたって、何も外部の人間を雇ってまで護衛をつけることはないだろう。

 確実に怪しかった。何か裏があるに決まっている。カヨコは止めようと口を開きかけたところで、電話口に向かって元気よく承諾の返事をする声が聞こえてきた。

 

「任せてちょうだい! 便利屋68は荒事だってキッチリこなすわ!」

「……社長……もう遅いか……」

「くふふっ。それでアルちゃん、なんて話だったの?」

「社長と呼びなさい。まあいいわ、依頼の内容は――」

 

 といった具合である。まあカヨコたちも怪しいとは思いつつも大事になるとは思っておらず、せいぜい不良の小競り合いに巻き込まれる程度だと思っていたのが災いした。まさか風紀委員が部隊を組んでD.U.まで出張っているとは思わなかったのだ。

 とはいえアルたちもこのキヴォトスにおいては上澄みの実力を持つ。特に卓越した狙撃技術を持つアルと暴の化身たるハルカの戦力は、あのアコを以てして「手強い」という評価を下されるほどだ。そしてなにより、風紀委員の中にヒナの姿が無かった。

 

「片手でも命中させられるわ」

「こ、殺します!!!」

 

 だからこそ、想定外の事態にあっても彼女らは任務を遂行できつつあった。ハルカがタンクとして風紀委員の中へと突っ込み、ムツキは爆弾で、アルは遮蔽からの狙撃でそれを援護する。カヨコは少し退いたところで冷静に戦況を分析し、アルたちへ的確な指示を飛ばす。

 驚くべきチームワークであった。たった四人で大勢の風紀委員相手に有利を作れている。

 

「敵が退いていきます!」

「よくやったわハルカ! このまま私たちもカヨコに合流するわよ」

 

 ハルカの頭を撫でつつ、アルはカヨコに連絡を取ろうと携帯を取り出す。

 

「ふふ。なんで風紀委員がこんな所にいるのか知らないけれど、もう勝ったも同然ね!」

「あっはは〜。アルちゃんそれフラグだよ〜?」

 

 気の抜けるやり取りをしながらカヨコの番号をタップするアルの顔には勝利を確信した表情が浮かんでいた。

 

「何度来たって同じよ。ヒナのいない風紀委員なんて恐るるにたりないわ」

「そう。それは手厳しい言葉ね。牢屋の中でうちの子たちの前でも言ってもらおうかしら」

「アハハ! きっとイオリちゃん辺りはぷりぷり怒りそうだね」

「うふふふふ」

「アハハハハ」

「………………」

 

 瞬間、ギョッとしてアルとムツキは振り返った。視界の先には無表情を極めた顔をしたヒナが立っている。

 

「ひ、ヒナぁ!? なっななななんで!?」

「なんでも何も、あなたたちが暴れるから救援要請が来ただけよ。私以外じゃイオリくらいしかあなたたちと戦えないもの」

 

 当たり前だろうという風に語るヒナは、面倒くさそうに愛銃を構える。その時、アルの手の中から焦ったカヨコの声が響いてきた。

 

『社長! 今すぐそこから逃げて! ヒナが来る!』

 

 もう来てますと言う前に、ハルカがアルの腕の中から離れてヒナへ吶喊する。

 

「アル様の敵……死んでください死んでください死んでください!!!」

「ちょ! ハルカ待ちなさい!」

 

 アルの制止も聞かずにショットガンをぶっ放すハルカをヒナは一瞥した後、ため息を一つついて銃口をハルカへ向ける。

 次いで地鳴らしかと思うほどの音が鳴り響き、紫紺の弾幕がハルカを襲った。ハルカは正面からそれを受け、すごいスピードでこちらまで吹き飛ばされてくる。

 

「ハルカちゃん大丈夫?」

 

 ムツキが心配そうにハルカをのぞき込むがハルカ自身は特に問題も無かったようで、再度ヒナのもとへ走り出そうとしたところをアルに抱きかかえられて止められた。

 

「落ち着いて! いくらあなたが頑丈だからって流石に無茶よ!」

「うっ……も、申し訳ありません……死んだ方がいいですか? 死んだ方がいいですよね死にます死なせてくださ――」

「はいはい。そろそろ委員長が待ちきれなくなっちゃうから止まって」

 

 ハルカを宥めている間、律儀にもヒナは攻撃せずに待っていてくれた。別にいつでも捕まえられるという自信からくる余裕なのだろうが、それが慢心でもなんでもなく単なる事実なのがヒナの恐ろしいところだ。

 

「業務上言うけど、大人しく投降しなさい。そうすれば痛くはしないわ」

「……業務上ね。なら私の答えも分かってるんでしょう?」

 

 アルは冷や汗をかきつつもスナイパーライフルを構えて戦闘態勢を取る。それを答えと受け取ったのか、ヒナは小さく嘆息した後にわずかに口角を上げて足を踏み出した。

 アルは強気な表情を無理やり作ってここからどう切り抜けるか思考を加速させるが、相手がヒナでは何も思いつかない。ヘッドショットも効かない。機動力も敵わない。口先八兆で丸め込めるような性格でもない。万事休すであった。そんな空気の中、当のヒナの脳内を占めていたのは――

 

(あぁ……やっぱり仕事してる時のあなたは素敵だわ……特にそのキリッとした目)

 

 ――目前にいる最愛の人への慕情であった。もちろんそんな感情はおくびにも出さないが、一歩前へ踏み出すたびに胸がきゅんと騒めくようだ。できることならこのまま風紀委員の業務などほっぽり出してアルとデートといきたいところだが、そうもいくまい。

 

(いけないわね……ちゃんとしないと。格好悪いところは見せられないわ)

 

 アルが内心白目を剥いているとはつゆ知らず、ヒナは一気に制圧しようと駆けだそうとしたところで――

 

バシュッ!!!

 

 上空から何かが落ちてきた。地面にぶつかって転がったそれは、次の瞬間大量の煙幕を噴出し両者の間に煙の壁を作り出す。

 

「……っ! これは!」

「社長! 今のうちにこっち!」

「カヨコ! ナイスタイミングよ!」

 

 ビルの屋上からロープを伝って降りてくるカヨコにアルは親指を立ててそう返す。ヒナは逃すまいとトリガーを引くが、あと一歩遅かったようだ。すでにそこにアルたちの姿はなく、残るのは銃痕の刻まれたアルファルトのみ。

 

「……鬼方カヨコ……どこかにいるとは思っていたけれど」

 

 服に付着したホコリを払い落しながらヒナは渋面を作る。カヨコさえいなければ便利屋68の脅威は大きく下がるのだが……毎度こちらが苦戦を強いられるのは単純な戦闘力だけの話じゃなく、カヨコがブレーンとして動いている点も大きい。流石マコトと同期なだけはある。

 

「でも、鬼ごっこは嫌いじゃないわ」

 

 

――――

 

 

 ひたすらに走る。今のアルの頭の中にはそれしかなかった。足を止めたら追いつかれる。いや、止めなくても追いつかれそうなのだが、とにかく秒と同じところに留まることなく移動し続けなければ次の瞬間には全身穴だらけのボロ雑巾にされかねない。

 

「逃がさない」

 

 ドドドドドドドッ!!!

 

「アルちゃんやばい! もうすぐ後ろまで――うわっ!」

「ムツキ!!!」

 

 かくして冒頭のシーンに戻る訳だが、正直な話もう限界である。爆弾や狙撃で足止めしても涼しい顔で突破してくるし、何か普段のヒナよりもやる気、いや殺る気を感じるのだ。

 

「なんでそんな張り切ってんのよーー!!!」

「だってあなたの前だもの。格好つけたいでしょう?」

「た、確かに恰好良いけど……! きゃあ!」

「アルちゃん!」

 

 ヒナの放った弾丸が足元をかすめ、アルは転倒してしまう。

 

「なかなか楽しい鬼ごっこだったわ」

「くっ……!」

 

 コツコツと靴音を鳴らして追い詰めるようにヒナは近づいてくる。さながら虎に喰われる兎のようだ。だがヒナが本気で来ているようにアルにも意地があった。

 

「……あなたたちは先に逃げなさい」

「えっ……でも、それじゃアル様が……」

「いいから! 社長命令よ!」

「……っ。ムツキ、ハルカ! 行くよ!」

 

 アルの鋭い視線に何かを感じたカヨコが二人を先導して走り去っていく。ハルカは一瞬ためらいの表情を覗かせたが、「社長命令」なら仕方ない。ともかく、これでこの場にはヒナとアルだけが残された。

 

「四人でも勝てなかったのに、あなた一人で私の相手をするの?」

「愚問ね。私は便利屋68の社長。部下を守るのは上司の役目でしょう」

 

 話しながら、アルは一つの確信を得ていた。おそらくヒナは最初からこの状況を望んでいたのだろう。ヒナならばみすみす三人を逃すはずがない。とっとと自分を潰して後を追えばいいだけの話なのだから。

 

「恰好つけるとか言って……本当は二人っきりになりたかったんじゃないの?」

「……それは」

 

 やや頬を赤らめて口ごもるヒナの隙を見逃さずアルは素早くライフルを構え、ヒナめがけて緋色の弾丸を放った。着弾したそれは時間差で爆裂し、周囲に粉塵を舞わせる。視界が遮られている間にアルは素早く空きビルの中へ走り込み、窓から息を潜めてヒナの様子を窺う体勢を取った。やや不意打ちのような形になってしまったが、ヒナ相手に先手を打つにはこうでもしなければならないのだ。

 

「……まあ、ノーダメよね……」

 

 土埃が晴れ、これと言って外傷を負った形跡の無いヒナの姿が現れる。自分はそこそこ強い方だと自覚しているのだが、そんな自分が傷一つ付けることができない。まったくもって規格外と形容できるだろう。

 だが先制攻撃には成功したものの、このままではアルにとってあまり意味のある結果にはならない。要は時間稼ぎなのだから、隠れ続けてヒナがカヨコたちの後を追うことにシフトすれば本末転倒だ。つまり、継続的にヒナを攻撃して注意を自分に釘付けにする必要があった。

 

「ひどいわね。乙女の心を弄んで……これは重大な罪よ」

 

 ムスッとした顔でヒナは愛銃を構え直す。アルの居場所は見失ったが、逃げられる範囲はそう遠くない。さらに自分を視認でき、身を隠すことができる場所など限られている。

 

「…………そこね」

 

 視界の隅にキラリと何かが反射する。ヒナは足に力を込めて思いっきり地面を蹴り、空きビルの窓へ一直線に跳躍した。その動きはもはや「跳ぶ」ではなく「飛ぶ」ようである。

 

「う、うそ!? ここ五階よ!?」

「少しお仕置きが必要ね」

 

 スコープ越しにヒナの姿を見ていたアルは慌ててトリガーを引くが、ヒナは腕でアルの弾を弾いてとうとう窓ごと壁を破壊して侵入してきた。

 

「きゃ!」

 

 その衝撃で後方へ吹っ飛んだアルに、ヒナは無情にも銃口を向ける。次いで銃身がにぶく光ったかと思うと、弾丸の雨がアルに浴びせかけられた。

 

ドドドドドドドドドッ!!!

 

「ぐはっ……! ぐっ……うぅ……」

「チェックメイトね」

 

 蹲るアルの背中を足で踏みつけてヒナは冷たく言う。この場面だけを切り取って見せられたら誰もこの二人が恋人同士などとは思わないだろう。それほどに容赦ない制圧劇であった。

 

「結構怒ってるわよ。騙し討ちされたこと」

「……そう……なら、また怒らせちゃうかもしれないわね」

「……何を企んで――」

 

 その時、ヒナの目に何かを握りしめているアルの左手が映る。それは既にピンの抜かれた手榴弾だった。

 

「――まさか!」

「熱いのは嫌いかしら?」

 

 ヒナは即座にアルの左手を蹴り上げようとしたが、間一髪で起爆する方が早かった。二人の間に閃光が走り、同時に爆音がフロア中に鳴り響く。アルは爆風の方向的に床に押し付けられる形で済んだが、ヒナは後方の空間へ大きく吹き飛ばされ、空いた窓から空中に放り出されてしまった。

 目論見通り距離を稼ぐことに成功したアルは左手から伝わってくる激痛を必死に堪えながら、足に精一杯の力を込めて走り出す。行先は屋上。下へ逃げてもヒナとかち合うだけなので、上に行く以外にアルに道は残されていなかった。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 やがて屋上のドアを半ば体当たりするようにしてこじ開け、アルは端の方で座り込む。これ以上はもう飛ぶ以外に逃げる方法はない。

 

「流石ムツキ特製の爆弾ね……しばらく銃は握れないわ」

 

 骨折した左手を眺めてアルはそうこぼす。耳にはコツコツと階段を上がる足音が届いてきた。一分もしていないのにもうここまで上がって来たのかと、アルは改めてヒナの恐ろしさを思い知る。

 やがて開けっ放しのドアからゆっくりとヒナが姿を覗かせ、座り込んだアルを見据えた。

 

「まさかあんな無茶するなんて思わなかった」

「……あなたには……はぁ……このくらいしないと……ね……」

 

 もはや息も絶え絶え、喋ることすら難しいといった様子のアルに、ヒナは口をぎゅっと結んで苦しそうに告げる。

 

「もう抵抗は止めて…………お願い」

「そんなの……アウトローじゃないわ」

 

 銃を杖替わりにしてよろよろと立ち上がるアルの目には、絶対に諦めないという固い意志が宿っていた。

 衣服はところどころ破けて、大量の青アザと擦り傷を負っている。特に左手の怪我はひどい。指がおかしな方向に曲がっているし、おそらく火傷もしている。

 なのに、アルの闘志は消えていなかった。普段のヒナであればこの不屈の精神に胸がときめいていたことだろう。だが、今はアルを追い詰めているのはヒナ自身だ。アルを挫くのがヒナの仕事である。

 もちろん互いに仕事上の関係は敵同士だと割り切ってはいた。だが、こうも怪我を負わせてまでアルの敵として居るのは辛かった。アルが痛ければ、それはヒナも痛いのだ。

 

「そんな顔しないのよ……久々にヒナと戦えて、新鮮だったわ」

「……降参してちょうだい」

 

 もはや懇願だった。追い詰めているはずのヒナの方が辛い。こんな感情はアル以外に対しては決して湧き起らないものだ。トドメを刺すのは簡単なのに、目の前の弱り切った恋人に銃口を向けることができなかった。

 

「ふふ……一つ教えてあげるわ」

 

 泣きそうな顔のヒナにアルは不敵に笑って告げる。

 

「真のアウトローはね……いざって時のために準備を怠らないのよ!」

「っ! 待って! そっちは――」

 

 アルが取った行動は後ろに飛び退く、すなわち屋上から身を投げる行為であった。ヒナはまったく想定していなかったアルの行動に驚いて動き出すのが遅れてしまった。アルの体を掴もうと伸ばした手は空を切り、目の前でアルが落下していく。

 

「――いや!」

 

 最悪の想像がヒナの脳内によぎる。次いで、アルの体と地面が激突する鈍い音が聞こえてくる――ことはなく、代わりに「ぽすん」という空気の抜けたような音が聞こえてきた。

 

「アル様キャッチしました!」

「カヨコちゃんナイス! 位置取りカンペキ!」

「飛ばすよ! しっかり捕まってて!」

 

 下方から逃げたはずの三人の声が聞こえてくる。ヒナが走って屋上から覗き込んでみると、アルが落下した位置に軽トラックが止まっており、荷台に何重にも重ねられた羽毛布団が縛り付けられてあった。アルはちょうどその中心に落下したのか、頭から埋もれて足だけを覗かせている。位置関係的にヒナにはアルのパンツがくっきりと見えていた。

 

「…………」

 

 ヒナが呆然と見ている間にもトラックはぐんぐん加速し、距離を離されていく。脳内にはアルが無事で良かったという安心感と、アルを逃してしまった敗北感が混ざり合ってよく分からない気持ちがこみ上げてきた。

 

「……はぁ」

 

 今から追っても追いつけない。完全にしてやられてしまった。だが、どこかでヒナはこれで良かったと思っていた。自分の恋人はすごいのだ、と再確認できたようで、なんだか嬉しかったのだ。

 その時、ヒナの携帯から着信音が鳴り響いた。

 

「……もしもし。アコ」

『ヒナ委員長。おそらく便利屋の捕縛は終わったかと思いますが――』

「ごめん。取り逃がした」

『はい。彼女らの処分についてはヒナ委員長の意向を――ってええ!? 逃げられたんですか!?』

「ええ。始末書を書かなきゃいけないかしら?」

『と、とんでもないです! やつら、どんな卑劣な手段を……!』

「別にあの子たちは何も悪くないわよ」

 

 ふふっと笑ってヒナはアコの言葉を否定する。

 

「そうね……でも、やっぱり少しずるいわ」

 

 だってずるいだろう。あんなに――

 

「――あんなに格好良かったら、敵わないじゃない」




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