アルヒナ恋人同士概念   作:自習用たくさん宿題

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よっつめ


今日は「白」なのね――後日談

 アルの決死のダイブによってなんとか逃げ切ることに成功した便利屋68には、一つ問題があった。

 

「う〜ん。どうしよう……私達、病院なんて行くお金無いよね」

「ひ、必要とあらば私の内臓の一つや二つ売って――」

「だ、駄目よ! そんな危ないことしちゃ!」

 

 そう。アルの怪我を治療するために医療機関に行く金が無いのだ。元々その日の食費すらカツカツだったのに病院など行ける余裕があるわけもない。

 

「社長……これはもう先生に頼ろう。このままじゃ左手が変なふうに曲がっちゃうかもしれないし、何より痛くて辛いでしょ」

「うっ……でも……困ったからって先生に頼るのは……半人前みたいで嫌じゃない……」

「あのさ! 私達がどれだけ社長のこと――」

「はいはいカヨコちゃん。少し落ち着こ?」

 

 つい声を荒げてしまったカヨコの肩を、ムツキは優しく掴んで宥める。アルを想うからこそ、どうしても必死になってしまうのだろう。それはムツキもよく分かる事だった。

 

「言っとくけど私もカヨコちゃんに賛成だよ。今は半人前とか言ってる場合じゃないよ。むしろ頼るべき時に頼れない方が未熟なんじゃない?」

 

 ムツキは一切のおふざけ無しで、真剣にアルに告げる。いくら作戦の内とはいえ、自分の作製した爆弾でアルがこんな怪我を負ったのだ。ムツキだって内心ではアルを傷つけてしまった罪悪感でどうにかなりそうだった。

 それが伝わったのか、アルは先ほどまでの自分に説教するかのように右手で自分の頬を殴った。

 

「もう、私ったらバカね。社員の気持ちも考えられないなんて」

「あ、アル様……」

「二人の言うとおりだわ。カヨコ、先生に連絡してもらえるかしら」

「……うん。分かった」

 

 カヨコはすぐにスマホを取り出すと先生に電話をかけた。数コールの後、スピーカー越しに聞きなれた声が聞こえてくる。

 

『もしもしカヨコ? 珍しいね。モモトークじゃなくて直接なんて』

「うん。ちょっと急ぎの要件だったから……それで今、シャーレで骨折と火傷の治療ってできる?」

『骨折に火傷!? 大丈夫!? すぐに車を出すから場所を教えて!』

 

 焦った先生の声がカヨコの耳元で響いた。先生にとっても余程のことだったのか、その後五分もしないうちにシャーレのロゴの入った救急車が到着し、運転席から先生が飛び出してきた。

 先生はアルの怪我を見てすぐに救急車に運び入れると、ハンドルを切りながらどこかに電話をかけ始めた。大方医療関係の生徒に連絡を取っているのだろう。カヨコたちは大人しくアルの様子を見守りながらしばらく揺られ続けるのであった。

 

 

――――

 

 

「骨の方はすぐにくっつくでしょうが、火傷の方は少しマズい状態です。二週間は最低でも覚悟しておいてください。幸い先生の迅速な対応のおかげで重症にはならないと思いますので、その点にはついては感謝申し上げます」

「そんな、こちらこそ。セナも急な連絡だったのに来てくれてありがとう」

「いえ。患者を診るのが医者の仕事ですから。それでは私はゲヘナに戻ります」

 

 セナはそう言ってシャーレの医務室から出ていった。残されたアル達は気まずい沈黙の中、恐る恐る先生の顔を窺うことしかできない。

 

「……まずは、アル」

「は、はい……」

「いくらなんでも自分の身を軽んじ過ぎだよ。今回はたまたまこの程度で済んだけど、今後同じようにいくとは限らない。再現性の無い博打はアウトローでもなんでもないんだよ」

「ご、ごめんなさい……」

 

 普段の温厚な先生は鳴りを潜め、きつい叱責がアルに下される。実際全て正論なのでアルに反論する余地は無いのだが。

 

「それからムツキたち」

「「「……はい」」」

「今回の件で悪い成功体験を積んでしまったのが分かるかな?」

「悪い……成功体験?」

 

 イマイチ先生の言う言葉の意味が理解できなかったムツキはそう繰り返す。

 

「今回はたまたまアルが囮になって逃げ切れた。酷い怪我を負ったけど死んだわけじゃない。なら次また同じような状況に陥った時は?」

「次……」

「きっとまた誰かを囮にする選択肢が浮かぶはずだよ。それはアルかもしれないし、君たちの誰かかもしれない。そしてそれがいつか、致命的な事態に繋がるかもしれない」

「……うん」

 

 重苦しい雰囲気が部屋を支配する。先生の言うことをムツキたちは否定できなかった。もし誰かが命に関わるような怪我を負ってしまったら……

 想像しただけで嫌な汗が噴き出てくる。自分たちがどれだけ向こう見ずなことをしたかをようやく理解した。

 誰も喋らない病室はしんと静まり返っている。しかし、そんな空気を払拭するように先生がぱん、と手を叩き、先ほどとは打って変わって柔和な表情でムツキたちの頭を順番に撫で始めた。

 

「こうは言ったけれどね、もし本当にどうしようもなくて、君たちが考えに考え抜いた結果の行動なら私は信じるよ。そうはならないように努めるのが私の仕事でもあるし、今回は相手がヒナだったからね」

「先生……」

「暗い話はおしまい。皆疲れたでしょう? 今日はシャーレに泊っていきなさい。実はいま駅前の寿司屋が半額キャンペーン中なんだ。何か食べたいネタはある?」

 

 お寿司と聞いて四人の表情がパッと明るくなる。が、カヨコとハルカは流石に申し訳ないと思ったのか少し遠慮がちな表情だ。

 

「私、エビ食べたーい! ほらほら、皆も食べたいヤツ言いなよ」

「い、いいんでしょうか……なら、私は玉子が食べたいです……」

「はぁ……ほんとにムツキはもう……ありがとね」

 

 ムツキが先導して明るい空気を作ってくれたおかげで、幾ばくか皆の緊張も和らいだようだった。気ままなお調子者に見えてしっかり周りのことが見れるのがムツキの良いところだ。先生はニコニコとその様子を見つめながら出前をとる準備を始める。その最中にポロっとこぼした。

 

「そうそう。一人追加で来るからそのつもりでいて」

「え?」

 

 

――――

 

 

「えーでは、アルちゃん無事で良かったね会ということで、かんぱーい!」

「す、素直に喜びにくい音頭の取り方ね……」

「まったくね。当事者なだけに」

 

 アルはベッドから動けないため、膝の上にスライドできるような板机を取り付けた状態で乾杯の音頭が取られた。部屋の中には便利屋のメンバーはもちろんのこと、寿司桶を抱えた先生と、外套を脱いだ白い制服姿のヒナの姿があった。この場においては風紀委員としてではなく、身内のお見舞いに来ていることを暗に示しているのだろう。それが分かっているから、誰もヒナがこの場にいることに異を唱えなかった。

 

「さぁ! いっぱい頼んだからどんどん食べてね!」

「お、お寿司なんて……こんな高価な食べ物初めて食べます……!」

「酷いときはその辺に生えてる草食べたからね。ハルカちゃんが雑草に詳しくて助かったよ」

「ムツキ、その話は言わないで。思い出しちゃうから」

 

 ハルカ、ムツキ、カヨコの三人は箸を片手に日ごろの食事事情について語る。特にカヨコは嫌な思い出でもあったのか、苦虫を噛み潰したような顔でムツキの話を遮った。

 

「あなたたち普段そんなもの食べてるの……?」

「うぐぅ……いや、ホントにキツイときだけよ!? 流石にいつもはカップラーメン一個くらいは……」

「アル。それは全然マシになってないよ……」

 

 しかもそのカップラーメンにしたって、一つのカップラーメンを四人でシェアするほどである。だがこれを言えばきっと更に詰められることは分かっていたので、アルは何も言わないことにした。

 

「もう! こんなこと話してないでさっさと食べましょ!」

「はは。言えてる。いただきまーす!」

 

 ムツキの声を合図に各々箸を伸ばし、寿司を口に運ぶ。アルも真っ赤な身のマグロを食べようと箸をつかもうとしたところで、ヒナにその手を押さえられた。

 

「アルは手が使えないでしょ? 私が食べさせてあげる」

「え? いや確かに銃は左手で構えるけど、私日常生活は基本右利き――」

「はいあーん」

「あ、あーん……はむっ……おいひいわね」

 

 有無を言わせぬごり押しにアルは押し切られ、口を大きく開いた。その様子は雛鳥が親鳥から餌を与えられるようで、見ていて微笑ましい。

 

(くぅ~~これこれ。やっぱりアルとヒナのイチャイチャは沁みるなぁ。いずれガンにも効くようになる)

 

 先生は脳内でそのようなことを考えて一人ニヤニヤとスマホを構える。そのままパシャリと写真を撮って、すぐさま便利屋68の共有グループチャットに流した。

 

(ナイスだよ先生)

(お安い御用)

 

 こうして久方ぶりのご馳走に舌鼓を打ちつつ、アルたちはその日を終えるのであった。

 

 

――――

 

 

「それじゃあ、私たちは事務所に戻るから」

「早く良くなってね、アルちゃん?」

「あ、明日もお見舞いに参ります」

 

 ベッドの上から動けないアルに三人は手を振って挨拶し、そのまま部屋を出て行った。アルが動けないだけで機能しなくなるような組織ではない。あくまで中心がアルというだけで、各々がやるべきことをやるのが便利屋68である。

 

「さーてと。どうしよっかなー」

「私は事務所に戻って依頼対応してるよ。猫探しの依頼が来ないとも言い切れないしね」

「わ、私は飛び入り参加OKの日雇いバイトに行ってきます」

「じゃあ私もハルカちゃんについてくよ。私たちの帰る場所、よろしくねカヨコちゃん」

 

 エントランスを出て各自すべきことを共有する。アルが復帰したとき、不甲斐ない状態で迎えるわけにはいかない。アルがいなくても大丈夫だと胸を張って言えるように頑張るのだ。

 

「それにしても、意外とあっさりしてたねアルちゃん。もっと寂しそうにして欲しかったのに」

「……まぁ……少しも寂しくないって思ってたら怒るけど。今は愛しのお姫様が付きっきりだから」

「それもそっか。くふふ……世界で一番強いお姫様が傍で守ってくれるなんて、アルちゃんは贅沢者だなぁ」

「諸説ありだよ」

 

 

――――

 

 

「あの……ヒナ?」

「ん?」

 

 ムツキたちと別れて残されたアルは、しれっと一緒に部屋に残ったヒナに理解が追い付かない視線を送る。

 

「ん? じゃなくて……風紀委員の仕事はいいの?」

「ああ。そのことね」

 

 ヒナはアルの病衣を畳みながら何の気は無しに言う。

 

「今日から二週間休みをもらってるわ」

「ええ!? 大丈夫なの!? 私が言うのも変だけど、あなたがいなかったらゲヘナ崩壊するんじゃ……」

「もちろんその点は対策済みよ。昨日あなたたちと合流する前にこうなることを見越して、牢屋が溢れるまで不良共を捕まえてあるわ」

「あの後そんなことしてたのね……で、でも万魔殿から嫌がらせ受けたり……」

「何かちょっかいかけてきたら容赦しないと事前に忠告してある。今回はイブキが人質よ」

 

 そう言ってヒナはスマホの画面をこちらに向けてくる。そこには風紀委員会の公式ページが映し出されており、トップ画面にはとある動画が掲載されていた。

 

『今日からヒナ先輩はゆーきゅー? を取るんだって。みんな、もし騒ぎを起こしたらめっ! だからね! 分かった? マコト先輩』

『ああもちろんだぞイブキ! と、いうわけだ。ゲヘナの愚か者共、もし何か騒ぎを起こしたら、文字通り”死ぬほど”後悔させてやる。それが嫌なら大人しく自室で爪でも切っておけ』

『あの、これガチなやつなんで、皆さんたまには我慢することをオススメします。あの本当にヒナ委員長がいないからってドンパチするのはやめた方がいいです。忠告しましたからね?』

 

 イブキを撫でまわすマコトの横からややこちらを気遣うようなアコの合いの手が入る。普段キャンキャン吠えているのが嘘と思えるほどに、優しく諭すような口調なのが恐ろしい。アルも思わず苦笑いが浮かんできた。

 

「ゲヘナの政治はイブキが中心なのね……」

「そしてイブキは私を慕ってくれている。まあ流石に連発はできないわよこんな真似は」

 

 普段犬猿の仲である風紀委員と万魔殿が共同で出す声明だからこそ効果がある。ちなみに忠告を守らなかった場合に何が起こるのかは詳しく教えてくれなかったが、後でイオリから聞いた話によるとハルナが一週間米粒一つも喉を通らないくらいの仕打ちをされたらしい。

 

「ともかく、これでずっとあなたの傍にいられるわ」

「大事になりすぎよ……」

 

 まさか自分が怪我しただけでゲヘナの政治中枢が動くとは思わなかった。よもやよもやというところである。だがまあ、アルとしてもずっと病室に一人でいるのは寂しかったので渡りに船であった。

 

「そういえば聞きたかったのだけど……」

「何?」

 

 二人分のマグカップにお茶を注ぎながらヒナは答える。

 

「どうしてあの日D.U.に風紀委員がいたのかしら? 部隊まで組んでたからびっくりしたわよ」

「成程ね。あなたはあの依頼主が本当は何を考えていたのか知らないのね」

 

 マグカップを片方アルに渡しながらヒナはため息を一つ吐いた。

 

「大方把握してると思っていたけれど……そんな暇も無かったのかしら」

「ど、どういうことなのよ……」

 

 姿勢を正してヒナはアルに向き直ると、事の詳細を語り始めた。

 

「コーヒー市場の拡大と称してあなたたちを雇ったみたいだけど、実際にはコーヒー豆を模した超小型爆弾の密輸よ。匂いもしないし硬いから、掴んで嗅いでみればすぐに分かるけど、遠目には本物にしか見えないわ」

「な、何ですってぇ!?」

「小型なのに威力はコンクリート塀を破壊できるほど強力なの。加えて今言ったようにその擬態性から摘発も困難よ。だからこそ連邦生徒会が動いたの」

「そ、そんなものを私たちは護衛してたのね……」

「ゲヘナでそれを使ったテロがあったから、連邦生徒会と合同で一斉検挙に舵を切ったの。結果はあなたたちにボコボコにされるというものだったけれど。私が合流するまでだいぶ暴れたようね」

「……もしかして私たち。だいぶマズいことをしてたんじゃ……」

 

 キヴォトスでテロなんて日常茶飯事、と言い切れるかは怪しいが、大抵どこかで誰かが爆発騒ぎを起こすのが常だ。だがここまで危険度の高いテロに供与していたとなると、後からどんな追及をされるか分かったものではない。アルはそれに思い至り、青ざめた表情で頭を抱えた。

 

「心配しないで。あなたたちも騙された上に体の良い尻尾切りに利用されただけ。SRTを閉校した連邦生徒会にも責任の一端はある。私と先生からの口添えもあるし、指名手配されるなんてことにはならないわ」

 

 アルの不安を見越したのか、ヒナはお茶を飲みながら安心させるようにアルに言った。ただでさえゲヘナで指名手配されているのに、これ以上されたら七囚人に数えてもいいくらいだ。

 

「よかった……ありがとうヒナ」

「ううん。それより……」

 

 ヒナは一転小さな声でアルの手を握る。

 

「今は仕事中じゃないし……その……」

 

 もじもじと口ごもるヒナにアルは一瞬目を丸くしたが、すぐに意図をくみ取って優しい笑顔を浮かべた。

 

「そうだったわね。ヒナちゃん、これから二週間、いっぱい甘えさせて」

「うん。何でも頼ってほしい。アルちゃん」

 

 以降、アルが退院するまでヒナの献身的な看病が続いた。三日に一度はムツキたちも様子を見にお見舞いに来た。元気そうなアルの姿を見て安心していたようだ。だが、お見舞いを終えて皆が帰った後もシャーレに残る先生の耳は、時折ある音を拾っていた。

 まるでくちゅくちゅと何かをかき混ぜるような水音と、高く、くぐもった声が二人分。

 

「…………幽霊のせいか。最近の幽霊はお盛んだこと」

 

 まったく関係はないが、音が聞こえた明くる朝のアルとヒナは肌のツヤが普段の二割増しだったという。




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