「ランス、おまえの内にある魔力を指先に収束させるんだ」
「そうは言っても、難しいんだよー」
「ほら、ランスお腹に力を込めて、こうグッと力を入れる感じだよ」
俺は結果的にイグニールに教えを請うことにした。
それはそれとして、たまに城から抜け出したゲイルが様子を見に来てくれている。
調査という名の好奇心で来たの際は、国王や王妃に黙ってのことだったらしく、 こっぴどく叱られたと笑っていた。
まぁ、それはどうでもいい話なので置いておき。
正直に言って、イグニールを師事して良かったと思う。
ゲイルは擬音ばっかで説明が分かりづらく常に疑問符を浮かべてしまうが、イグニールは多少ぶっきらぼうではあるものの、言葉をしっかり噛み砕いて教えてくれるため助かっている。
以前ゲイルを殴り飛ばしてしまった事件の時は、魔力を制御出来ていなかったため、剥き出しの剣を見ているようだったと言われ、今となっては鞘に収まった立派な剣というお墨付きを、イグニールから貰った。
肉体言語だけで言えば、この森にいる大型動物たちにも負けることは無くなっていた。
これもイグニールのお陰と言えば、照れくさそうに顔を背ける。
それでも、未だ魔法が使えず出会った日から三年近く経とうとしていた。
いろいろ試行錯誤していると二年が経ち、やっとの思いで魔法を扱えるようになった。
イグニールからは時間が掛かりすぎだ馬鹿者と、怒られるものの表情は嬉しそうだった。
そして、魔法を練習しているとイグニールから、突然竜の力を使いたくないか?と声を掛けられる。
何故そのような話になったかというと、ここ最近様々な国を竜が襲い始めているらしく、もしもの時のために竜の力を扱う滅竜魔法を覚たほうが良いという話らしい。
七つの大罪の力は強力無比ではあるが、攻撃の手札が増えるのは悪いことではないと考え練習を始めるが、イグニールからも魔力の動きは問題ないと言われるが、一向に上達する気配がない。
何より、何かに阻まれるような違和感がある。
「竜の力を扱う魔法、即ち体を竜に変えるものらしいが、上手くいかないもんだな」
「へぇ体を竜に……ってソレを先に言え!イグニール!」
体を竜に変える、要は細胞が変わるのだが、俺の体にはバンの不死身の能力、つまり生命の泉が宿った状態だ。
そのため、竜の細胞をウイルスと勘違いし反応して無効化しているのだろう。
その事を話せば、仕方ないので他の魔法の練習をすることになった。
そんな日々を過ごしていると、五年が経ちランスロットはゲイルの推薦により騎士団に入ることになった。
とは言っても、騎士団での訓練はイグニールのに比べれば生易しく退屈していたが、たまにお忍びでやって来るゲイルと城下で遊んで暮らすという平穏な日々を過ごしていると、あっという間に時が過ぎてゆく。
そして五年後のX367年、俺が二十歳でゲイルが三十歳の時。
ゲイルが先代から王位を継いで即位すると、並んである騎士団の中から俺を見てニヤリと笑う。
やべぇ、めっちゃ嫌な予感がする。
即位したと同時に、俺を指差し近衛兵に任命してくる。
第一王子に気に入られていると聞いていたらしく、初日に喧嘩を売ってきた副騎士団長を倒してしまったことで、若干畏怖されるような存在になったらしく、 反感を買わずに終わるという事になった。
即位式が終わり、近衛兵ということで護衛として、ゲイルの部屋の中に入ると巫山戯んなと軽口を言い合う。
出会ってから十五年の間に、親友と呼べる関係にまで親密になっていた。
即位してから二年後にゲイルは茶色の瞳をした。隣国の姫であるルネーと結婚した。
ゲイルがしっかりと、王としての責務などを全うしている間、俺も暇していた訳ではない。
小国という事で、隣国からは弱小国家と思われていたらしく、時々戦争を仕掛けてくるようで、七年前からゲイルに頼まれ極秘で、俺が魔法を使って毎度追っ払っていると、勝つ見込みが無くなったのか、それとも数多の犠牲を出して勝っても美味しくないと悟ったのか、近年では何もして来なくなった。
そうしている内に、王妃であるルネーとも仲良くなり―ゲイルには勿体ないくらい良い奴だな―なんて口にしていると、巫山戯んなと怒られる。
ワリィと話し笑っていると―まるで、兄弟みたいね―とルネーに言われれば、孤児の君を助けてあげたから、僕が兄だなとゲイルは言えば、いつも助けてるから俺だろと言い合いになる。
X372年5月8日、ゲイルとルネーの子供であるウェンディが誕生した。
ゲイルはデレデレとして、最近は王として厳格な態度を見せなくてはいけないと、顔を顰めていたがコレじゃ人前に出れねぇな―と笑う。
ルネーも俺に同意すると、ゲイルは良いだろ今日くらいと不貞腐れる。
そんな様子を笑うウェンディに、ゲイルは顔を綻ばせていた。
この賑やかな日々が続くと思っていた―――あの日までは。
その日の俺はお暇をいただき、久々にイグニールと出かけて他の竜たちと会っていた。
それから数日して、イグニールの背中に乗りマーベル王国に帰還してみれば。
「なんだ……コレ」
目に映ったのは大量の竜が蹂躙し、辺り一面の建造物は崩れ落ち、燃え盛る城下町の中を、人々は泣き叫びながら逃げ惑う。
そんな光景に沸々と怒りが立ち込め、イグニールの背中から飛び降りる。
「待て、行くな!ランス!」
イグニールの制止を振り切り数多の竜が闊歩する中、どんなに竜の攻撃を食らおうとも、がむしゃらに目的の場所へ走り抜ける。
すると、視界に捉えたのは焼き崩れた王城だった。
俺はその現場をフラつきながら歩くと、人の気配がして見渡せば瓦礫の山に2つの腕を見つけた。
あの指に嵌めているのは、確か俺がウェンディたちが生まれた際に、ゲイルたちにプレゼントした。青い宝石のペアリングだ。
それを見た俺は狂ったように瓦礫を押し退けると、腕の関節部分が見えてくる。
やっと、アイツらに会えると思った。
そう思っていたのに、そこから現れたのは。
「うそ……だろ」
俺が見つけたのは、男と女の右腕だけだった。
最悪の事態を想定するが人の気配があったのは確かだ、つまり腕が無くなっただけで、まだ生きているかもしれないと、僅かな確率に希望を見出し捜索を再開する。
すると、おぎゃーという赤ん坊の声が聞こえてくる。
―まさか、と思い背後にある城の残骸を退かしていくと、ゲイルとルネーが覆い被さっていて、泣き縋るウェンディを無視し二人に声を掛ける。
いくら呼ぼうとも返事は返ってこない、既に事切れているのだから当然のことだ。
それでも尚、この絶望を信じたくない一心で二人の体を揺さぶる。
すると、背後から聞き慣れた声が聞こえてくる。
「諦めろ、その二人は……ッ!?」
「黙ってろ」
ランスの額に紋様が浮かび上がると、禍々しい魔力を放ち始める。
何時もの魔力とは違う濃度に、イグニールは焦り始める。
このまま解放すれば、辺り一面を消し去る勢いで膨張する魔力に、止むを得ずウェンディが入った籠を持ち去っていく。
ランスが出した黒い魔力が国土を全て包み込んだ姿だった。
「消えろ、跡形も無く」
次にイグニールが見た光景は、怒りに我を忘れたランスが竜に加えて逃げ惑う人々も含めた。その全てを消滅させて完成した空洞だった。
メリオダスがダナフォールを滅ぼした光景と同じイメージです。
対象が恋人ではなく友人になります。
そして、竜に滅ぼさせたのには理由がありますが、それはのちの話にて明かすようにします。
ルネーは竜巻の英語名トルネードから来ています。
幕間③は12時に投稿予定です。