凄い青春なんだわ(語彙力皆無)
野球とはもう関わらないと決めていた。家でも野球の話を一切しなくなった。でも道具だけは捨てられなかった。鞄を持つ時の癖も治らなかった。
せめて見ないようにと箱に南京錠で鍵を掛け封印した。野球は走れなきゃつまらないの。だから、辞めた。でも何度やり直したってあの時の小さい子供を何度だって助けた。見て見ぬ振りは出来ない。
だから、これで良かったんだ。そう自分に言い聞かせて他に趣味を見つけようとした。瞬ちゃんとお茶したり料理に挑戦したり様々な音楽を聞いてみたり。けれどどこかぽっかりと穴は空いたままで。
自分の周りだけ味気なく色が無くなっていた。何をしても満たされずつまらない日々を過ごし外では仮面を付けたかのように貼り付けた笑みで他人と接し距離を置いた。 一人で居た方が気が楽だから。
頑張らなくて良くなった。早起きしなくても良くなった。一人の時間が出来た。ゆったりと勉強が出来るようになった。流行りに付いて行けるようになった。いい事ずくめな筈なのに。
満たされない。
そんなある日思い付きで遠くまで行きたくなって電車で適当な駅で降りて歩いていたら、いつの間にか何処かの野球のグラウンドまで足を運んでいたらしい。馬鹿だなぁ私。野球関連は目を逸らし続けていたのに。
静かなグラウンドを眺めていたらふと人を発見した。よく見ると蝉の真似をしていた。それも死にかけの。
・・・何で?
こちらに気付いたらしい彼は顔が真っ青になっていた。まさか人に見られているとは思わなかっただろう。私もまさか蝉の真似をしている人を見てしまうとは思ってもなかった。
「だ・・・誰!?」
「どーも。山田花子です」
もちろん嘘である。流石にあの光景を初見で見て第一位印象が変人以外でて来ないので普通に答えたくなかったとも言えよう。
立ち話も何だからと態々グラウンド内の大きな段差の場所に座らせてくれた。服が服なので流石に直では座れなかったので持ち歩いているハンカチを敷いてから座ったが。
「誰かに見られていたとは思わず・・・すみません山田さん。殺してください」
「嫌です。人殺しにはなりたくないので。とまあ、冗談はさておき・・・何はともあれ野球に青春を捧げられるのは羨ましい限りです。私も少し前までは野球をしていましたが色々ありまして足を悪くしてしまいこの通り杖生活をする事になりまして。野球では走るのが好きだったんです」
「直せないんですか?」
「ええ、私生活には問題ないくらいには回復しましたが走るとなると激痛が襲って来るんです。お医者様からも直すのは困難だと」
「すみません、野暮な事を掘り下げてしまって。土に埋まります」
「ははっ、良いんです。寧ろ今知り合った何も知らない貴方だから話しやすいんでしょう。私もつい自分語りを・・・」
「いえ、僕は話題すら出て来なかったので助かります。そう言えば今日は何故こちらに来たんですか?僕は自主練しに来たんですが」
「何ででしょうね。遠出がしたかっただけなんです。それも思い付きで。そしたらいつの間にか此処に辿り着いたんです」
「それ程までに野球が好きなんですね」
その言葉が胸に深く突き刺さる。
そうだ。私は野球が今も好きなのだ。それを忘れたくて、傷付きたくなくて、ずっと逃げてた。だから今になって現実を突き付けられた。純粋な言葉が今は痛い。
でも今更どうすれば良いのだろうか。甲子園に出て選手として活躍したかった、そんな夢はもう叶わないのに。勿論、車椅子だのなんだの使っての野球も有るには有る。でも、違う。私は足を使って走る野球がしたかった。
走れる人を見掛けると悔しいし羨ましい。嫉妬すら抱えてしまう。それを誰かにぶつけてしまうのも嫌だった。弱い人間だと何より自分が知っている。それも理由の一つだ。
何も言えずに黙ったままの私に彼はこう言った。
「余計な事を言ってしまったならすみません。こんな風に野球について女の子と語った事が無かったもので・・・デリカシーなくてごめんなさい。どうせ僕なんてゴミクズです・・・」
「・・・いえ。お陰で現実を見つめ返す事は出来ました。ただ同時に今後も私の世界は彩らないのだろうと再確認してしまいまして」
「え!?あっ、その、もし迷惑じゃなければ聞いても良いですか?無理にとは言いません。その、誰かに聞いてもらった方が気が楽になるって言いますし・・・生意気言って申し訳ないです・・・」
「・・・幼稚園の頃から夢が有ったんです。甲子園に出てみたいと。ローカル放送でもいっそテレビにも映らなくていい。でも本気で野球で一番になってみたいって、青春全てを賭けて全力でそれをしたいって初めて思ったんです。夢を長年追い掛けてたので諦めるには遅く、辞めるには青春を全て賭ける前で随分と早く。ある意味自暴自棄になっていたのかもしれません。忘れようとして、 早く新しい何かを見付けて夢中にならなくては、と。けれど現実は残酷でした。まあ、後は最初に語った通りです」
「・・・じゃあさ、代わりに俺が山田さんを甲子園に連れて行くのはどう?」
「え?」
「一緒の学校行って野球部に入って一緒に甲子園に行こう。高校三年以内には必ず連れてくから」
「今日出会ったばかりですよ私達。そんな約束しちゃっていいんですか?」
「俺が、なんて、烏滸がましいけど少しでも山田さんの人生が彩って欲しいから」
「貴方馬鹿だと言われませんか?」
「なっ、何急に。確かに俺は馬鹿だけど」
「結構好きですよ。そういう事言う人。現実的かは置いておくとしても。本気でそう言ってくれる野球馬鹿は大好きです」
久々に面白いと思った。話を真剣に聞いてくれるのもそう。確信を付くのもそう。それでいて受け流す訳でも否定する訳でもない。同情して肯定するにしたってここまでは中々言えないだろう。それも初対面の人物に対して。
ここまで言い切るのも今時珍しい。だからこそ心揺さぶられるのだろう。
単純な考えかもしれない。でもその一言で私の世界に色が戻った。案外私が求めていた事はそういう事だったのかもしれない。驚きの表情をしている彼に続けて言う。
「絶対連れてってくださいね」
「それは勿論」
「ふふ、ありがとうございます。えっと・・・自己紹介がまだでしたね」
「あっ、そ、そうだった。あー!!それにタメ口勝手にすみません!!飛高翔太です」
「今気付いたんですか。 面白い人ですねぇ。良いですよタメ口で」
「えっと、ありがとう。山田さんもタメ口でいいよ。それとも、こんな変人相手にタメ口は聞きたくないかな。そうだよな」
「自己完結しないで。よろしくね飛高くん」
「よろしく山田さん」
こうして名前だけ偽名のまま話は進み彼は高校は帝徳に行くと聞き私もそこを受験する事に決めた。何事も早い方が良いのだ。今から勉強すれば学校推薦も余裕で取れるだろう。合格の確率を上げるには推薦が手っ取り早いもの。
あの後少し待っててと暫く一人で待ちぼうけしていると着替えた飛高くんが駅まで送ってくれる事となった。練習は良いのかと尋ねたが自主練で一人残ってたらしく邪魔をしてしまい、少し悪い事をしてしまったかもしれない。
過ぎた事だと考えよう、そうしよう。幸い嫌な表情はして居なかったので良しとする。
駅までの帰り道自分の好きな物を話したり聞いたりしてあっという間の時間を過ごした。そして手を振って別れた。
帰りはどこか足取りが軽い気がした。気の持ちようではあるけど。先に帰宅していた弟からはご機嫌だねと言われた。それはそう。
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