次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が……   作:顔のない女

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完結まで毎日投稿。


第1話 大嫌いな幼馴染と現れた野良猫

 人の血を糧とし生き続ける吸血鬼然り、人の精を主食とする淫魔然り。

 この世界には亜人と呼ばれる人外が、隠れながら暮らしている。

 

 かく言うこの私もそのうちの一人。

 猫に変化できる化物である。

 

 

 

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 夕暮れに染まった家の縁側で、私は大嫌いな幼馴染が飼っている老猫の隣に座る。

 毛並みはかつての艶を失い、前脚を揃えて丸まるその姿にも、若い頃のような張りがない。

 それでも瞳だけは静かに澄んでいて、遠いところを見ていた。

 

「もういい歳してますよね。そろそろ死んじゃうんじゃないですか、貴女」

 

 私が聞くと、老猫のムギはゆっくりと瞬きをした。

 

「まぁね。……生きるのは充分楽しんだし、もう私に悔いはないかな」

 

 端的な答えだった。

 猫というのは大体が自由な生き物だが、この猫は特にそうだ。

 昔から無駄なことを言わないし、家猫として縛られるのが大嫌いな子だった。

 そんな自由な猫のことを、私はそこまで嫌いではなかった。

 …………飼い主の方も、この温厚な猫の性格を見習って欲しいものだ。

 

「死ぬ前にあの最悪な貴女の飼い主を、どうにかしておいてくれませんか」

「それはちょっと無理な相談だ」

「分かってると思いますけど、貴女が私のもとに遊びに来るようになってから、すっかり性格が歪んだんですよ、(あおい)のやつ」

「みたいだね」

「飼い猫が自分以外に懐くのが許せないからって、関係ない私にまでずっと嫌がらせして。まったく、どうしてこうなったのやら……というわけで、責任もって死ぬ前にどうにかし――」

 

 私が続きを言おうとすると、ムギはひょいと縁側から飛び降りた。

 

「元気だったらまた会いに来るよ。おやつの用意お願いね」

「人の話は最後まで聞くものですよ……全く」

「人? 玲香(れいか)はすっごく大きな猫でしょ」

 

 彼女はゴロゴロと喉を鳴らし、嘲笑するように視線を私の頭上と腰のあたりに向けた。

 

 私は『この方が体が楽だから』という一点のみで出していた獣の耳と尻尾を、気怠げながらに内側へと引っ込めた。

 ……完全な猫状態なら、更に体調が安定するんだけど。

 

「どうやら老いが進行しすぎてボケたようですね……話にならないので、もう行っていいですよ」

「ふむ?」

「飼い主を悲しませたくないなら、私達の目の届かないところで勝手に死んでてください。きっと貴女の死を、葵はとても悲しむでしょうから」

「そうなったら、後のことは全て玲香に任せるよ。私のどうしようもないお友達()をお願いね」

 

 そう言い残して、猫は立ち去っていった。

 

「勝手なことばかり言って…………猫という生き物は、つくづく自分勝手なものです」

 

 それから数日間。

 いつものように縁側でだらだらと過ごしてみたが、あの猫が姿を現すことは二度となかった。

 

 

 

 

 

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 夜19時頃。

 

「玲香〜!」

「なに、お婆ちゃん」

「ゴミ捨ててきてくれんか〜」

 

 なんとも嫌なお願いである。

 この馬鹿みたいに大雨と雷が降ってる中で、ゴミ出しに行くのは中々億劫だ。

 これは猫としての遺伝子が、雨を本能的に嫌悪しているのだろう。

 

 とはいえ、私は人間として生活している身だし、九十歳のおばあちゃんに重いゴミ袋を持たせるわけにもいかない。

 大嫌いな雷が近くに落ちてこないことだけを祈りつつ、私は元気よく返事をした。

 

「おっけ〜!」

 

 玄関を出て、すぐに傘を差す。

 叩きつけるような雨の中、ゴミ捨て場へ一歩踏み込もうとした、その時だった。

 

「起きてよ、ムギ……! ねぇ、起きてよっっ!! ムギ…………ッ」

 

 激しい雨音に混じって、悲痛な叫びが聞こえた。

 

 茶色のセミロング。

 見惚れるほど整っているのに、今はぐちゃぐちゃに歪んでいる顔。

 視線の先には、ぐったりとした猫を抱えて泣き叫ぶ大嫌いな幼馴染――椎名(しいな) (あおい)がいた。

 

 遠目からでも、事の次第はすぐに理解できる。

 おそらく猫が車にでも撥ねられたのだろう。

 あの猫の性格上、自由を奪ったらキレだすタイプだったとはいえ、外飼いなんていう無謀な真似をしていれば、いつかこうなることは目に見えていた。

 

「私を一人にしないでよ……ムギがいなきゃ、生きていけないよ…………」

 

 本当に、馬鹿な女だと思う。

 散々私をいじめてきたカスが、これ以上ないほど惨めに泣いている。

 

 その姿を見て清々する自分もいた。

 いっそ隣に立って「猫が死んだのは貴女のせいだよ」と追い打ちをかけてやりたいとさえ思う。

 

 だが……

 

『私のどうしようもないお友達をお願いね』

 

 あの日、縁側で聞いた老猫の最後の言葉が、脳裏に強くフラッシュバックした。

 

「…………これだから、目の届かないところで死んで欲しいと言ったのに。まさかあの猫……これを計算してたんですか」

 

 この長いこと私を虐めていた女に、思うところは腐るほどある。

 とりあえずは猫と私の関係の対する嫉妬心如きで、幼い私との友人関係を完全に断ち切った馬鹿さ加減には、たとえ自分が寿命で死んだ後でも、地獄まで追いかけて文句を言ってやりたいくらいだ。

 ……そう思うほどにあの頃の私には、葵しかいなかったのに。

 

 だけどそれはそれ、これはこれだ。

 

 こんな大雨が降る夜中に、ああやって猫を抱えて踞られると、ここで死体がもう一つ増えかねない。

 

 となると、どうするか。

 今の私が人間の姿で話しかけたところで、嫉妬の対象が現れたとあっては、火に油を注ぐのが関の山だろう。

 

 ……まぁ、あの老猫とは長い付き合いだ。

 しゃあなしに、最期の遺言をほんの少しだけ聞いてやるとしよう。

 大人しく葵を家に帰らせてやる。

 

「ほんっと…………ありがたく思ってくださいよ、この老猫(クソババア)

 

 私は着ていた服をすべて脱ぎ捨てた。

 赤と青のオッドアイを隠していた黒のカラコンも外し、まとめて隣の公園のブランコがある方へと放り投げる。

 

 雨に打たれる真っさらな肌。

 そこへ、魔を編むようにして猫の毛並みを纏わせていく。

 

 骨格が軋み、視界が低くなる。

 体のサイズを一般的な猫の大きさにまで作り変えれば、準備は完了だ。

 

「よし、これでいいでしょう」

 

 四肢に伝わるアスファルトの冷たさを感じながら、私は彼女の隣まで歩み寄った。

 

「ちょっと。いつまでそんな場所で蹲っているつもりですか?」

「うるさい……ほっといて…………どっか行って」

「ここにいたら危ないですよ。貴女まで車に轢かれちゃいます」

「ムギが死んじゃったんだもん……。私だってもう、どうなったって……」

 

 はぁ。

 話にならない。

 これが過去の私を救ってくれた、今の幼馴染の姿とは。

 ……あまりに見るに堪えない。

 

 どうやら彼女は、愛猫の後を追っかけたいそうである。

 その上こっちに目線さえ送ってくれない。

 この調子だと、日が明けてもここに座り続けてそうだ。

 

 仕方ない。

 一発痛いのをおみまいしてやろう。

 

 私は肉球の奥から、鋭い爪を引き出した。

 

「ていっ」

 

 そして葵の足首を、容赦なく思いっきり引っ掻いてやった。

 

「痛っったあああああああっっ!!!!!」

 

 葵はムギを抱えたまま、弾かれたように飛び上がった。

 

 痛みでようやく正気に戻ったのか、彼女は涙でぐちゃぐちゃの顔をこちらへ向ける。

 

「な、何してくれてんのよ……! あん……た……っ?」

「ようやく気づきましたか? どうも、猫です」

「え?…………え?」

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