次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が……   作:顔のない女

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第11話 お誘い

「ん? キミはたしか、椎名さんだったかな。こんな時間にこんな場所で何をしているんだね」

「えぇっと、そのぉ……と、図書館でテスト勉強をしてましたっ!」

 

 葵の声が店内に響き渡る。

 彼女はカバンからやにわにノートを引っ張り出すと、これ見よがしに広げて先生へと詰め寄った。

 

「いや~、ここで先生を見つけられるなんて奇遇――いえ、運命ですね! ちょうど分からないところがあったんで、教えてほしいな~……なんて!」

「こら、椎名さん。義務教育はとっくに修了しているんだぞ。目上の人間には敬語を使いなさい」

「あっ、はい! ……じゃなくて、そんなことより勉強を教えてくださいよ、先生! コンビニから出るまでの、この一瞬の間でいいのでっ!!」

 

 私は今、目の前で起きている現場に、心臓がバクバクだった。

 

「…………」

 

 今はまだ、首の皮一枚がつながっているに過ぎない。

 いつ先生の視線がこちらに逸れ、私の首が刎ね飛ばされるか分かったものではない。

 

 だが、これは千載一遇の好機だ。

 理由は不明だが、葵が必死に先生の意識を惹きつけている。

 この隙に、一秒でも早く会計を終わらせて追い出すしかない。

 

「……合わせて514円になります。お支払い方法を選択してください」

 

 私は極力顔を伏せ、声のトーンを普段より二段階ほど低く変えて告げた。

 

 先生は葵のノートに視線を落とし、即興の講義を繰り出す片手間でカードをかざす。

 

 結局、私の顔を一度も深く確認することのないまま、先生は葵に押し切られるようにして夜の街へと消えていった。

 

 

 

 

 ---

 

 

 

 

「はぁ……疲れた」

 

 バイト終わりの21時。

 ようやく解放された私は、コンビニの裏手で壁に背を預け、冷え始めた夜風を肺に流し込んだ。

 

「やっほ〜、玲香っ!」

「わっ……!? ……びっくりしたぁ……」

 

 すると、不意に横から肩を叩かれ、心臓が口から飛び出しそうになる。

 

 ……なんでまだここにいるんだ、コイツ。

 

「……さっきも一瞬、コンビニに来てたようですけど、なんで葵がこんなところにいるんですか?」

「玲香と仲直りしたいな〜って思って、ちょっと張り込んでみたんだー」

「またそれですか。私は貴女と話すつもりなんてないと――」

「またそれ? 仲直りしたいって言ったのは、今日が初めてな気がするんだけど……」

 

 おっと。

 ミスった。

 これはレイとしての私が提案したもので、人間の私は葵とまだまともに会話すらしてないんだった。

 ……この切り替えを間違えると、後で致命的な目に遭いそうで怖いなぁ。

 

「い、いえ! 昨今の貴女の不気味な言動や行動を見ていれば、誰だってそれくらい推測できるっていう話ですよ!! どちらにせよ、今までのことがある以上、許すつもりなんて全くありませんが」

「あー、なるほどぉ……」

 

 危ういところだったが、どうにか納得してくれたらしい。

 葵が馬鹿で助かった。

 

「でもこの甲斐あって、玲香を先生から助けることができたじゃん」

「アレが葵の差金ではないと、言い切れるんですか?」

「えぇ、そこまで疑われる!? 流石にそれは苦しい言い訳だって、玲香自身もわかるんじゃないの?」

「まぁ………そうですね。葵がいなかったら絶対にバレてたと思います。さっきは……その、助かりました」

「だよね! まず玲香は髪が真っ白で目立ちすぎるんだから、私が本気で割り込まなかったら一秒で御用だったよ!!」

 

 なんか妙に恩着せがましい言い草だが、否定できないのが癪だ。

 むしろ、なぜこの髪色で今までバレなかったのか不思議なほどである。

 葵がたまたまコンビニの前をうろついていなければ、今頃私の高校生活には終止符が打たれていた。

 

 ……いや、済んだことを気にしても仕方ない。

 どうともなってないし。

 さっさと葵を置いて、家に帰ろう。

 

「では、私はこれで帰りますので。お先に失礼しま――」

「待って待って! 普通にここまでやってあげたんだから、それに見合うお返しくらい、考えてくれてもいいでしょ?」

「く〜……やっぱりそうきましたか。なんか言い方が気持ち悪いと思ったんですよね」

「そういうのは本人の前じゃなくて、心の中で言ってよ」

「で、貴女は私に何を求めるんですか?」

 

 考えられることとしては、これまでほぼ無視を突き通してたんだし、それの緩和。

 もしくは、謝罪する機会が欲しいってところだろうか。

 

 結構な借りを作ってしまったし、それくらいは考えてやらないこともない……か。

 ちょっと舌打ちをしたくなるくらい癪に障るけど、一旦は目を瞑っておくとしよう。

 

「えぇっとぉ……そのぉ……」

「何をそんなに躊躇ってるんです? どうせ大したことを頼むわけでもないでしょうに」

「結構大したことっていうか……私が考えたことじゃない上に、絶対断られる気しかしないっていうか…………」

 

 なぜか葵は、顔を赤らめてもじもじし始めた。

 

 何を言うつもりなのか、こちらは大方の予想がついているのだ。

 もったいぶらずにさっさと口にしてほしい。

 

「ウザったいので早く言ってください。時間の無駄です」

「じゃ、じゃあ言うんだけどさ!! 私と――水族館デートに行ってくれない……かな?」

 

 葵は顔を林檎のように真っ赤に染め、地面を睨むようにしてそう絞り出した。

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