次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が…… 作:顔のない女
「今説明した通りなんですけど、マジでヤバいです。葵の頭がついにおかしくなっちゃいました。普通に全ての過程をすっ飛ばして、水族館デートを提案してくるとか、本当に……ヤバくないですか?」
あの衝撃的なお誘いを受け、数秒間脳内がフリーズした後、私は脱兎のごとくその場から逃げ出した。
バスで鉢合わせるリスクを避けるため、人生で初めてタクシーを呼ぶという暴挙にまで出たほどだ。
帰宅し、震える手で佳織に電話をかけたのだが――
「や、やば……っ」
「ヤバいですよね。明日学校に行くのが嫌になってきますよ。しかも『デート』って……語彙の選択が致命的に間違っています。葵が私にそんな感情を抱いているわけがないのに」
「ヤバくねーよ☆」
このザマだ。
電話をかける相手を間違えたかもしれない。
「まともに話を聞く気がないなら、通話を切りますよ」
そう毒づきながらも、他にこの胸中を吐き出せる相手が他にいないのが、我ながらとても悲しい。
「いやさ、普通に水族館くらい行ってこればいいのに。何が問題なん?」
「はあ!?……なぜ貴女が急に、葵の肩を持ち始めているんですか」
「だって可哀想じゃん。最近の葵ちゃんは自分の周りの友人関係を切って、健気に玲香と仲直りをしようと、色々模索してるんだよ? そんで今日は偶然、借りを作ることに成功したと喜んで、思い切った行動に出たら、当事者の玲香はその反応」
「…………」
「ちょっとくらい譲歩してあげても、別にいいと思うけどなー」
「なんで今更……」
「それは自分が蒔いた種じゃん。玲香が気の迷いで起こした行動の結果っしょ〜? つべこべ言うのは勝手だけど、少しは自分の行動に責任を持ったら?」
なんだコイツ。
急にお説教なんかかまし始めて。
しかも、聞いてるとまるで私が悪いような気さえしてくる。
絶対に私の行動は間違ってないと思うのに。
「それでも…………嫌です。私はあの人と向き合うつもりはありません」
「そんなんなら、レイとして葵ちゃんと向き合うのもやめればいいのに。なんでそうやって一人よが――」
「あぁもう!ウザったいですね、貴女も。……私は正論が嫌いなんですよ」
「じゃ、やっぱり仲直りを目指すべきじゃな〜い?」
「佳織は結局のところ、葵の味方をするんですね」
ダメだこれ。
小学生の時から親友だと思っていた女の子は、気づけば敵の方に寝返っていたらしい。
……通話、切ろうかな。
「ん〜、それなら葵ちゃんと玲香の距離が近づくように、もう少しだけ協力してあげようかな」
「はい? 言っときますけど、私は何を言われても葵と水族館なんか――」
「筋子おにぎり4個」
「論外」
まさか、私をおにぎりで買収しようと考えてるのか?
なんて浅はかな。
と、思っていたら。
「じゃあ、おにぎり一列」
「ダメ」
「二列」
「無理」
「なら! 4列でどうだ!!」
4列……つまりは32個。
脳内のおにぎり算盤が、猛烈な勢いで弾かれ始める。
……う〜ん、正直迷う。
葵と水族館に行くだけで、私の大好物が三十ニ個も無料で手に入る。
想像しただけで、口の中に涎が溜まってくるのが分かった。
「6列なら……検討してあげなくもありません」
「おい、こレィ! 私にどんだけ金を使わせる気じゃこの頑固頭!!」
「嫌なら別に何もしなければ良い話じゃないですか。それでお互いwinwinですよ? こんな交渉を続けても二人揃って不幸になるだけですし」
「私が48個ものおにぎりをカゴに詰めて、レジにそれを通さないいけない挙句、その後に足りない分をハシゴしてまで買い集めてくる姿を想像して!?……端的に言ってヤバすぎない?」
「ヤバくないですよ」
私が稼げる月のバイト代は、おおよそ5万前後がいいところ。
48個もあれば、三日は食い繋げる計算だ。
なんならここは趣向を変えて、一日で食べ切るチャレンジをしたって面白そうだ。
最悪、葵とのデートという地獄に身を投じても、腹が満たされるなら、嫌なところは多少目を瞑れる。
「しゃあない。6列分後払い交渉成立で」
「えぇ…………本当にこの条件、引き受けるんですか? 逆に怖くなってきますよ」
私の親友は、面白くならないことに先行投資なんてしないし、葵と水族館に行ったら大きく事態が変化するんじゃないかと、勘繰ってしまう。
それか、他に何か目的があるんだろうか?
どうせロクなことじゃないんだろう。
私が苦しんでるのを、一番近くで楽しんでるようなタイプの女だし。
「約束したんだから、明日朝一で水族館に行くってことを、葵ちゃんに伝えるんだよ? いい?」
「はいはい、分かりましたよ。そっちこそおにぎりの件は忘れないでくださいね」
「いやさ……それはお金渡すから、玲香自身で買ってくれない?」
「それは嫌です。私も48個ものおにぎりを一度に買うなんて、恥ずかしくてできませんから」
「そんなの私だって超恥ずかしいんだけど……まっ、いっか」