次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が……   作:顔のない女

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第13話 お泊まりもするんですか?!

 翌朝。

 私はいつものように廊下の定位置で、登校してくる生徒たちの群れを冷めた目で見下ろしていた。

 今日は何故か隣に佳織がいないが、どうやらLI◯Eで様子を聞いた感じだと、サボりを決め込んだようである。

 

「おはよう、玲香」

「…………」

 

 背後から聞き慣れた声が届く。

 私は視線を外に固定したまま、一度無視を決め込んだ。

 

「返事」

「おはようございます……葵」

 

 ここまでの流れは、毎日のルーティンと化してる。

 

「いつもいつも朝早くに登校して、上から人を見下ろす。ずっと昔からそれやってるけど、よく飽きないね。……まるで猫みたい」

 

 その言葉に一瞬心臓が跳ねたが、すぐに冷静さを取り戻す。

 

 葵が私の正体に気づくはずがない。

 猫の姿では隠しようのないオッドアイも、人間の時はカラコンで封印している。

 幼少期の途中から始めた習慣だから、レイとの共通点は白髪という大まかな特徴に留まっているはずだ。

 

 今の葵にとって私は、猫のレイを知っている不仲な幼馴染という認識でしかないだろう。

 昔の私の容姿を細部まで記憶していれば話は別だが、レイを見て同一人物だと疑わないあたり、彼女の記憶からはとうに抜け落ちているはずだ。

 だから、焦る必要はない。

 

「ねえ玲香。昨日の話の続きなんだけどさ……やっぱり、嫌だったら全然断ってくれていいから――」

「行きますよ」

「え?」

 

 私は窓の外を見下ろすのをやめて、ゆっくりと葵の方へ振り返った。

 

「別に水族館くらい……行ってあげなくもないですよ。私に何かデメリットがあるわけでもないですし」

「本当……!? じゃ、じゃあその後の夜も、予定、空いてたりする?」

「ん? まぁ空いてますけど、それが何か?」

「えっ、べ……別になんでもないよ! あはは、あははは……」

 

 ……なんだ、この寒気のするような挙動不審さは。

 デートに誘ってきた時から変だとは思っていたが、それが確信に変わった。

 落ち着きがなさすぎて、まるで裏で誰かに操られている操り人形のようだ。

 

 けど佳織とも約束を交わしてしまった以上、今更引けないし、どうしようもないけど……

 

「それで日時と時間は?」

「GWの初日、つまり明日の昼頃から」

「帰りの時刻は?」

「それはぁ…………サプライズ的なやつがあるから、秘密で」

 

 なるほど??

 サプライズね。

 それなら深く追求するのも、野暮というものだろう。

 

「では明日の朝にでも、貴女の家に迎えまで行きます」

 

 どうせ当日知ることになるのだし、急かす必要もない。

 

 

 

 ---

 

 

 

「ってなわけで、明日は玲香と水族館行った後に、一泊二日の温泉旅館で泊まってくるの! レイは寂しくなっちゃうだろうけど、ちゃんとここでお留守番しててね?」

 

 思いもしない方向性で、サプライズの内容が分かってしまった。

 サプライズの内容は、ズバリ温泉旅館だった。

 それだけならまだいい……別によくないんだけど!

 

「葵はそれを正気……で、言ってるんですか?」

 

 それ自体をサプライズに選ぼうとしたところにある。

 だって、絶対に準備しないといけないから。

 

「正気ってどういうこと?」

「そんなの普通に着替えとか必要じゃないですか?」

「あ〜……それなら私のバッグに、玲香の分として余分に入れるつもりだったし、足りないものはあっちで足せばいいかな〜って、佳織や莉子と話した時に、そんな結論が出たんだけど」

「ほ――(絶句)」

 

 私はそれを聞いて、あまりにショックすぎて目を瞑って頭を天井に向けた。

 

 ……ヤバい。

 主犯格の中に当然のように紛れ込んでる佳織が、とんでもなく頭がおかしいのは大前提。

 

 だがそれ以上に、三人寄れば文珠の知恵とはよく聞く言葉だが、どうやらこれを計画した三人は馬鹿の集まりだったようだ。

 私達は中学を卒業したばかりだから、仕方ないとはいえ、まともに旅行を経験したことない田舎育ちが三人集まっても、この次元の結論になるのか。

 というか何故現地で揃えるなどという野生的な発想になる?

 理解できない。

 

 少し前に嫌々ながら、お婆ちゃんと二人で温泉街に出向いた経験が、ここに生きてよかった。

 

「どうしたの? 急に上なんか向いて。可愛いね〜♡」

 

 このクソ馬鹿は呑気な事を言いながら、私のフサフサな首元をこちょこちょと撫で始めた。

 

 正直、だいぶイラッとしているところがあるけど、佳織との約束&葵から受けた借りがあるので、ここは一旦目を瞑っておく。

 たまの休みくらい、幼馴染とお泊まりだってきっと悪くないかもしれないし。

 

 まぁそれはそれとして、今すぐ帰宅し、明日のお泊まりに備えなければならない。

 

「邪魔です」

 

 私は葵の手を猫の手でペシっと退かし、窓の方に飛び移った。

 

「あれ……どうしたの、急に?」

「ちょっと急用が入ったので、外出します。なので今日は葵と寝ることはできません」

「そ、そんなぁ! レイと寝るのが、ここ最近の私の癒しなの――」

 

 私は葵の話を聞くこともなく、窓の外へと飛び出した。

 

 

 

 

 ---

 

 

 

 私はバッグにお泊まり前提の必需品を詰め込んだ後、次の日の朝早くに葵を迎えに行った。

 

「おはよう、玲香。今日はその…………なんか顔色が悪そう、だね?」

「あぁん?!」

 

 私はイライラがフルマックスに見える感じに、葵に対して振る舞った。

 

 別に全くイライラしてないけど、反省して欲しいから、しばらくはこの感じで行ってやろうと思う。

 

「ひぇっ……どうしたの? 何か悩みがあるんなら聞くよ?」

「昨晩、とても久しぶりにレイが私の前に顔を出し、色々とお話をしてくれたんです。…………私の言いたいこと、分かります?」

「あぁっと……ってことは、そのぉ………………ごめん!!」

 

 葵は素直に強く頭を下げた。

 

「ですよね? 普通にそうあるべきですよね? だってこちらとしては全然ドタキャンしてやったっていいくらいですし。そうしたとしても、世間一般的に見れば、悪いのは馬鹿な貴女達なんですからね??」

 

 私は笑顔で詰め寄った。

 

 葵の最終目標は私と仲直りし、そしてレイを自身の物にするという一石二鳥。

 彼女にこの目標がある以上、立場的な力関係は今や私の方が圧倒的に上。

 

 おまけにこの作戦の原案は、おそらく莉子か佳織のどちらか。

 葵の頭で思いつくはずがないのだから。

 つまり彼女のペースで事が運ばないのは確定している。

 

 ならば、これはまたとないチャンス。

 

 一度も経験することのなかったこの優越感を、この水族館デートの間は、葵を弄びながら堪能させてもらうとしよう。

 

「まぁ、怒りをぶつけるのはこれくらいで勘弁しておいてあげます。では、そろそろ行きましょうか」

「う……うん!」

 

 今日は楽しい日になりそうだ。

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