次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が……   作:顔のない女

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第2話 野良猫を監禁?!

「猫が喋ってる……? どうして? これ夢なの……?」

「残念ながら現実です。というか、そんな細かいことはどうでもいいんですよ。こんなところに座り込んでないで、家に戻ってください」

 

 私はそう言いながら、前脚を不恰好に突き出して、すぐ近くにある彼女の家を指し示した。

 猫の身体ではまともに方向を指せているのか怪しいものだが、意図くらいは伝わるだろう。

 

「でも……ムギが…………」

 

 いつまで死んだ猫の事を引きずっているつもりかと、イライラしてしまいそうになるが、ここら辺は死生観の違いか。

 死期を悟っていた猫を何百匹とも見てきた私と、初めて愛猫を亡くした彼女とでは、見えている世界が違う。

 

 ……少しだけ、助け舟を出してやることにした。

 

「分かってると思いますけど、ムギはもう寿命が近づいてました」

「……知ってる」

「なら話は早いですね。私はその猫から貴女のことを頼まれているんです。そんなところでじっとしてないで、もう大人しく家に戻ってください」

「ムギが……あんたに、私を……?」

 

 呆然とする葵を置いて、私は数歩先を歩き出した。

 

「ほら、何度も言わせないでください。いつまでそこにいるつもりですか? 帰りますよ」

 

 促すように鳴いて、私は葵を彼女の家へと導いた。

 

 

 

 ---

 

 

 

 その後ムギは一筋の望みをかけて、葵の家族総出で動物病院へと運ばれていく。

 けれど結局は私の見立て通りだった。

 ムギはやはりただの物言わぬ骸でしかなく、病院で正式に死亡が確認された。

 

 そんな騒動を終え、時計の針は21時を回った。

 今家に帰っても『どこに行ってたんだ!」って、お婆ちゃんに怒鳴られるんだろうなぁ。

 だけど、私はまだ帰れそうにない。

 

 なぜなら私は今、ベッドの上で葵にきつく抱きしめられているからだ。

 それも、骨が軋むほどの力で。

 

「大丈夫ですか?」

「うん……ありがとう。あんたの事を抱えてるおかげで、凄く落ち着いてられるよ」

「それはよかったです」

 

 ……大嫌いな女に抱かれ、なんとも居心地が悪い。

 でも、今は大目に見てやることにした。

 そろそろ解放してほしいが、今の彼女にそれを言えるほど、私は冷酷な化物になりきれない。

 

「…………ムギは……最後に、何か言ってた?」

 

 葵が震える声で尋ねてきた。

 

「あの子、何考えてるか全然分からなかったし……ずっと外で遊んでばかりだったから。私のこと、どう思ってたのかなって」

「『楽しい人生だった』と言っていましたよ」

「そうなんだ…………よかった。ムギが最後まで楽しんでくれたなら」

「それと自分の死を悟ってたからか、私に貴女のことを託そうとしてましたね」

「あのムギが、託す……」

「はい。まぁ私としてはムギに対する恨みは少しあれど、そんな願いを聞く義理なんか全くないんですけどね。ほんっとうに舐められたものです」

 

 そう言って私は、腕の中からすり抜けて脱出しようと試みた。

 が、力ずくで引き戻される。

 

「ん? そろそろ離してもらっていいですか? 用件は済んだので、帰りたいんですけど……」

「帰る? どこに?」

「どこって……そんなの普通に家に決まってるでしょう」

「どこの家? 教えてくれたら、送ってあげるよ」

 

 なんだコイツ。

 そんなの教えれるわけがない。

 だって猫の正体、私だし。

 だから「家は貴女の隣なんですよ」なんて絶対に口が裂けても、言えるわけがない。

 

 ここは適当な嘘で煙に巻くとしよう。

 

「すみません、間違えました。私は野良猫なので、外に――」

「野良っ……!!?」

「…………えぇ」

 

 突然の絶叫に、怖くて思わず体がすくんだ。

 ……一体、なんなんだ。

 

「本当に野良??」

「そうですけど……」

「じゃあ、うちの猫にならない? 絶対に幸せにするし、退屈させないから!!!」

 

 葵はキラキラとした……いや、ギラギラとした瞳で私を抱き上げ、真正面から見つめてきた。

 

「………………えぇぇぇ…………」

 

 思わず、低くて乾いた声が漏れる。

 

「お断りします」

「なんで!!」

「私もムギと同じく、野生で暮らすのが性にあってるんですよ。家の中で暮らすとかマジでごめんです」

「そっかぁ。ちなみにムギとはどんな関係だったの?」

「10年くらいの腐れ縁って感じです」

「ふ〜ん」

 

 生返事と共に葵が動いた。

 

 私を片手で器用に抱えたまま、部屋の扉を閉め、窓のクレセント錠を弾く。

 さらに備え付けのロックまで、カチリと小気味よい音を立てて固定した。

 

「あの……何をしてらっしゃるんですか?」

「こうすれば、逃げられないかなって思って」

「…………はい????」

 

 なんだ、逃げられないって。

 この馬鹿は何を言っている????

 

「今からあんたはうちの飼い猫になるの。それにムギはあんたに私を託したんでしょ? だったら責任をもって、私の面倒を見るべきじゃない?」

「はぃぃいいいいいいいい?!?!?!」

「大丈夫だよ。今度は絶対に、ムギみたいに怖い思いをさせたりしないから。私が、ちゃーんとあんたの面倒を見てあげる」

 

 そう言って、葵は私を抱きしめたままベッドへダイブした。

 

「ねぇ、あんたの名前を教えてよ」

「なんか勝手に話を進めてるみたいですけど、こっちは一言も了承してませんよっ?!」

「えっと、真っ白い毛の猫だから――」

 

 この馬鹿女、都合の悪い言葉だけが綺麗に聞こえないらしい。

 クソっ!このままじゃ勝手に変な名前をつけられる……!

 

「あああああ!! もうっ! 勝手に名前を付けようとしないでください!! 私の名前は……」

 

 ――待てよ。

 ここで本名を出すのはダメだ。

 ただでさえ言葉を喋る猫なんて、世間一般的にみればキショいのに、もし自分が西園(にしぞの) 玲香(れいか)だと明かしてしまったら、今後の生活がとんでもなく面倒なことになるのは、火を見るより明らかだ。

 ここは適当な偽名でやり過ごすしかない。

 

「……私の名前はレイです」

「そっか、良い名前だね! 私は椎名 葵っていうの!」

「知ってます」

「……え、知ってるの??」

 

 あっ、普通にミスった。

 なんで脊髄で返答してるんだ、私は。

 ちゃんと考えて話さないと……

 

「ムギから名前を聞いてるので……知ってます」

「そうなんだ! じゃあ、今日はムギがどんなことを思ってたのか、私が寝るまでたっぷり教えてほしいな」

「そんなことより、私を早く外に――」

 

 解放を訴えようとした私の前で、葵が平然とスマートフォンを取り出した。

 レンズの先は、迷いなくこちらを向いている。

 

「そういえば家族みんなで集まってた時、私がいくら話しかけても、全部無視してたよね? 喋る猫って初めてみたし、他の人にバレるとまずいんでしょ?」

「……………………」

「今のほんの一瞬だけど、レイが喋ってるところ、しっかり動画に撮れちゃった。これでもまだ、外に出たいなんて言っちゃうのかな?」

 

 酷い……酷すぎる。

 清々しいほどのクズだ。

 まさか葵がここまで最低な人間になってるとは、全く思いもしなかった。

 

 すべてはあの猫、ムギとの出会いが原因に違いない。

 ……マジで恨む。

 

「……喜ンデ。葵サンノ、家猫ニナロウト思イマス」

「やったあ!!」

 

 よくもまぁ平然と脅しておいて、そんな無邪気に喜べるものだ。

 

「貴女……絶対にロクな死に方し――」

 

 その時。

 窓の外が真っ白に弾け、すぐ近くで鼓膜を震わせるような激しい落雷が響いた。

 

「突然どうしたの、レイ? 私のお腹に自分から抱きついちゃったりして」

「…………」

「死に方がなんとかって言おうとしてなかった? 今」

「……そ、そうですよ! 貴女はロクな――」

 

 言い終える前に、二度目の雷鳴が部屋を揺らした。

 

「ヒッ…………!」

「まさか、レイ……雷が怖いの?」

 

 葵の隠そうともしないニヤニヤした声が、すぐ頭上から降ってくる。

 

 彼女はお腹にしがみついていた私を引き剥がし、ひょいと抱き上げた。

 視線が嫌な角度で交差する。

 

「ハッ、誰が雷如きに……っ」

「でも、身体震えてるよ?」

「これは、さっき雨に打たれたせいで身体が冷えたからで、雷なんて何の関係もありませんよ。馬鹿言わないでくださ――」

 

 強がってみたものの、三度目の雷鳴にはもう耐えられなかった。

 

「……すみません、嘘をつきました。雷が怖いんです。お願いですから私を布団に隠してください。……大きい音が大嫌いなんです」

「さっきまで外に逃げたがってたのに、雷には弱いんだ? ……レイ、超可愛いじゃん」

「うるさい……です」

 

 蚊の鳴くような声で返すと、葵は私を抱えたまま布団に潜り込み、そのまま腕の中でそっと私を抱きしめてくれた。

 

「雷が怖い、ね。……ふふっ、なんかどっかの馬鹿白髪頭を思い出しちゃうな〜」

「誰が白髪頭ですか。これは生まれつきなんですけど」

「あははっ、レイのことじゃないよ。玲香って人のこと。私には髪の白い幼馴染がいたの。――って、レイにこんな話をしても意味ないか」

「………………」

「そんなことより、こうやって抱きしめててあげるからさ、交換条件としてムギの事を話してよ。それくらいいいでしょ?」

「……まぁ、寝るまでの間くらいなら」

 

 雨音と時折響く雷鳴を遠くに聞きながら、私たちは日付が変わるまで、あの一匹の老猫について語り合った。

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