次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が……   作:顔のない女

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第21話 恋の病

「よくもここまで私を裏切ってくれましたね!!!???」

『うわっ……うるさ。開始一秒で叫ばないでよ』

「葵に余計なことを吹き込んだのは、貴女ですね? ……よくもここまで、勝手なことばかりしてくれたものです」

 

 翌朝、自宅に戻った私は、溢れ出す怒りを抑えきれずに佳織へ電話をかけた。

 

『やべ〜。色々口滑らせたから、玲香が何のこと言ってんのか、全然わかんねぇでべや〜』

「おい」

『ウソウソ冗談だって。あれだよね? たぶんブチギレてるのは、玲香は葵ちゃんに好意があるって言った件っしょ?』

「その他諸々含め、こっちはイライラフルマックスですよ」

『でもそれで仲直りできたようだし、葵ちゃんからの報告を聞く限りだと、その過程は結構楽しんだんじゃないの〜?』

「それは……まぁ、そうなんですけども」

 

 確かに佳織の強引な介入がなければ、これほど劇的に、かつ私の納得できる形で関係を修復することは不可能だっただろう。

 その点だけを鑑みれば、情状酌量の余地がないわけでもない。

 

『なら、ここは寛大な玲香様のお慈悲により、おにぎりの件は無かったことにとか……できたりは?』

「猫を100匹ほど佳織の家に送りつけますけど、それでもいいんですか?」

『最高じゃん』

「貴女を喰い殺すよう命令付きで」

『おにぎりを計12列でお許しください、玲香様』

「まぁ、いいでしょう。それで裏切ったことも不問にしてあげます」

『ちなみにだけど葵ちゃんは馬鹿だけど、結構本能的な勘が働くタイプだと思うよ。あんま下手を打つと正体がバレちゃうし、玲香にとってよくない方向に進むかも?』

 

 そんなのは忠告されなくても理解している。

 というか、こうなったのは佳織のせいでもあるんだから、一々警告してくるな。

 おかげさまでこっちは新たな賭けを、持ち込まざるを得なくなったし、それにあっちはまるで勝算があるかのように勘違いしてしまっている。

 

 今の私は、微塵も葵のことをそんな目で見ていないというのに。

 

「私はお口がゆるゆるな貴女から漏れる心配の方が、ずっと大きいですけどね」

『えぇ……ひど』

 

 

 

 ---

 

 

 

 それから数日が経過したゴールデンウィークの終盤、私は朝から病院へと向かった。

 表向きはごく一般的な形成外科として看板を掲げているが、二週間に一度、人目を忍ぶように特別な医者が姿を現す。

 

 人外の者を専門に診るその医者のもとへ、私は一ヶ月に一度のペースで通い続けていた。

 診察室の椅子に座る私の正面で、黒髪ロングで小柄な医者が、私の近況を一通り聞き終えた。

 

 彼女は退屈そうに机に肘をつき、身も蓋もない言葉を吐き捨てる。

 

「えー。それは……いわゆる、恋の病だね」

「違います」

「違わない。そもそもとして獣人タイプの亜人って中学生くらいの時には、自分の事を理解してくれる()()の相手を見つけてるのが、普通なんだよね」

「…………」

「確か私のところで出してるのは性欲抑制剤と、え〜っと…………キミの名前なんだっけ?」

「西園玲香です」

「そうそう。今は玲香さん自身の理性で必死に押さえ込んでると思うんだけど、結構やってることヤバいよ? 去勢なしで獣が自分の本能に抗ってるようなものだからね〜。そんな馬鹿やってる獣人はキミしか知らないな〜」

「でも、今までは全く問題ありませんでした」

「だからこその恋の病だって言ってんじゃん」

 

 そういうと彼女は、患者を寝かすためのベッドに自分自身が寝っ転がった。

 

「今までは欲を発散したい相手がいなかったから、なんとかなってただけ。それが好きな相手ができちゃったから、おかしくなり始めた」

「あの……弦巻先生。患者の立場で言うのもアレだと思うんですけど、流石にその姿勢で喋るのは、医者としてどうなのかと」

 

 先生は私の苦言を涼しい顔で聞き流し、天井を見上げたまま言葉を続ける。

 

「でも凄いよ。それでもそこまで欲求を抑えてられるんだから。玲香さんは他に類をみないくらい頑固な性格をしてるんだろうね〜」

 

 弦巻先生はそう言うと同時に、どこから取り出したかよく分からない小瓶を私に投げつけた。

 私はそれをキャッチする。

 

「いきなり物を投げるのやめてくださいよ……これ、何ですか?」

「媚薬」

「媚薬ぅ?!」

 

 急に何言ってるんだこの人。

 気でも狂ったんじゃないだろうか。

 

「獣人っていうのは本来、自分が選んだ相手を自前のフェロモンで骨抜きにしちゃうから、基本的には不要なものなんだけど。玲香さんみたいに強情で、かつ相手も同レベルに性格がねじ曲がってるなら、これを無理やり飲ませるのが手っ取り早い。この薬さえ使えば、ほぼ百パーセントで勝ちよ」

「えぇ……」

「あとなんだっけ? 首を噛まれちゃったんだっけ? そんな事を好きな人にされたら、そりゃあ性的なスイッチも入っちゃうよね」

「だから恋の病でもないですし、好きな人でもないと、何度言えば分かっ――」

「すぴー……すぴー……」

 

 見れば、彼女の鼻先には小さな鼻ちょうちんが出来ていた。

 どうやら私が最後まで言い切る前に、眠りについてしまったらしい。

 いつも通りとことん適当な医者だ。

 

「ありがとうございました」

 

 私は力なく呟くと、小瓶をバッグに押し込み、診察室を後にした。




◇あとがきです。
医者はただのモブ枠なので、名前を覚える必要はありません
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