次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が……   作:顔のない女

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第24話 寝たふり

 テスト期間という嵐が過ぎ去り、暦が六月の長雨を予感させ始めた頃。

 私はいつものように、レイとして葵の部屋に顔を出していた。

 

 これは当たり前と言えばそうなのかもしれないが、結局彼女は私とレイの繋がりについてまともな糸口を見つけられていない。

 そのおかげで、ここ最近の放課後は比較的平穏な時間が流れていた。

 ……唯一の懸念事項といえば、私がテストの時に譲り受けたあの葵のペンに、授業中の端々で意識を持っていかれそうになることくらいだろうか。

 

「レイって避妊手術とかしてないんでしょ?」

「いきなり何の話ですか……」

「だって、普通は飼い猫って去勢とか避妊手術をするもんじゃん。今はまだ野良だけど、いずれは家の猫になるんだし。そういうことも考えないといけないかな〜って」

 

 ……勘弁して欲しい。

 こっちは中身が人間なのだ。

 そんなことを言われては、ますます賭けに負けれなくなる。

 

「それに避妊しないと苦しかったりするんじゃない? レイがどれだけ賢くても、本能的にシたくなっちゃうものなんでしょ?……あ、もしかして既に子供がいたり――」

「しません。そんな経験も一度もありませんよ……下品な。それと欲求の問題は、お医者さんから貰ってる薬でどうにかしてるので、別に、貴女が心配するような問題は起きていません」

「薬っ?!?! レイって薬飲んでるの!? どこの誰にどういう風にして貰ったか教えてよ!!」

 

 葵は興味深々と言った様子で、私に顔を近づけてきた。

 

 あぁ……

 ミスった。

 完全に口を滑らせた。

 獣が医者や薬などという単語を出すことの不自然さを、失念していた。

 

「ダメです。教えられません」

 

 私は追求を遮るように、肉球を葵の頬に押し当てて突き放した。

 

「そこをなんとか!!!」

 

 このままでは根掘り葉掘り訊かれるのは目に見えている。

 私は強引に話題を逸らすことにした。

 

「そんなことより、玲香と仲良くなる方法でも考えたらどうですか?」

「えぇ?……最近の玲香はバイトばっかで、私に構ってくれないんだよね。夜中に通話をかけると、気分がいい時に出てくれるくらい?」

 

 そう。

 最近は物理的な時間の制限がある以上、そこまで葵にかまってられない。

 葵の思い通りに事が運ぶほど、今の私は暇ではないのだ。

 

「けど、玲香が私を恋愛的に好きだって情報もあるし、私もそんな気しかしないから、余裕を持ってやってくしかないよね」

「……私にはあの子が葵をそんな目で見ているようには思えませんけどね。そもそも、同性同士の恋愛に、貴女自身は抵抗がないのですか?」

「んー……性別とかはあんまり関係ないかな。今の玲香となら、別にそういう関係になってもいいかなって感じ――あ! もちろん私が世界で一番大好きなのは、辛い時に側にいてくれたレイだよ! だから嫉妬しないでね♪」

 

 葵はそう言って、私をよしよしと楽しそうに撫で回してきた。

 私はそれを前足でペシッとはね退けたが、彼女は気にした様子もなく言葉を続けた。

 

「それにレイは学校に来てないから分からないだろうけど、最近の玲香はすっごく私のことを意識してると思うんだよね」

「…………例えば?」

「例えばか〜。まず一緒に手を繋ぎながら登校してるんだけど、普通に手が震えすぎ。それと授業中に私が見つめてみると、玲香はすぐ気づいてくれる。あと玲香は授業中、私があげたペンやペンケースに意識が行き過ぎ」

 

 うっ……

 そんなところまで気づかれていたのか。

 意外と見られているのだと分かって、少し怖くなる。

 

「そしてもう一つ、一番大きいネタがあるんだけど……」

「だけど……?」

「レイって多分、基本的に私が話した話を、玲香に横流しにしてるじゃん? だからそれは教えれないかなー」

「…………」

「ほら、否定できないよね。ちゃんと玲香と繋がってる証拠だ!」

 

 否定できないっていうか、そんなの私が本人なんだからそうなって当然だし……

 

「じゃないと、あの賭けが水面下で成立するわけないじゃないですか」

「確かにね」

「でも……その大きいネタの正体は知りたいです」

「知りたいんだ?」

「…………まぁ、はい」

 

 だって私のことなのだ。

 葵が私に対して、どのような切り札を隠し持っているのか、気にならないはずがない。

 

「なら、絶対に玲香に伝えないって約束できる?」

 

 葵は私の瞳をまっすぐ射抜くようにして言った。

 

「できます」

「玲香に言ったら、飼い猫になる前から避妊手術。この条件で誓える?」

「……………………誓えます」

 

 彼女の言ってることがヤバすぎるのは、一旦棚上げしておく。

 

 絶対に伝えない。

 これは嘘じゃない。

 

 なぜなら伝える必要がないからだ。

 私は私なのだから。

 ゆえに、避妊手術を受ける必要もない。

 

「じゃあ教えるんだけど、ここ最近は玲香と毎日バスで登校してるんだよね」

「ごくり……!」

 

 まずい。

 その滑り出しは、あまりに不穏すぎる。

 嫌な予感が背筋を駆け抜け、思わず喉が鳴った。

 

 お願いだから、私の予想を裏切ってくれ――!

 

「それがさ、私が寝たふりをしてると、あの子、毎日のようにキスしてくるの! しかも初日なんてディープキスだよ? ヤバくない……!?」

「や、ヤバい……ですね」

 

 …………やっっっっっっっっっっっっっっばああああああいいいい!!!!!

 

 予想は最悪な形で的中した。

 しかも葵は初日から起きていたのだ。

 

「なぜ…………寝たふりなんて、悪趣味な真似をしていたのですか?」

「悪趣味?……う〜ん、最初は寝てる最中にいきなりやられてびっくりしたから、胸ぐら掴んで問い詰め殺してやろうと思ったんだけど……なんか思った以上に気持ちよかったから、泳がせることにしたんだよね」

「なるほど……」

「それにこのネタは、次に何かあった時に玲香を黙らせる、とっておきのカードになるかなって」

 

 頭がくらくらする。

 吐きそうだ。

 でも、ここで下手なアクションをすれば、絶対に怪しまれる。

 

 そして問題はここからだ。

 

 私は葵に悟られないよう、明日からも毎日行っているキスを続けなければならない。

 葵が起きていると知りながら、知らないフリをして、彼女に唇を重ねなければならないのだ。

 

 だってそうしないと、レイがチクったって解釈をされかねないし、そうなったら避妊手術を強制されるんだから。

 

「うっ……」

「ん? どうかした?」

「いえ……眠くなってきたので、そろそろベッドに入りたいなと思いまして」

「おっけー」

 

 葵は私を抱きしめるようにして、ベッドの中へと潜り込んだ。

 彼女の香りが肌を伝い、脳の奥を直接揺さぶる。

 

 幸いなのは今の私が猫の姿であることだ。

 私の精神構造は人間ベースであるため、猫化している時の方が、皮肉にも性欲という本能を御しやすい。

 

 猫の因子のせいで人生が狂わされているのに、猫でいる時の方が理性を保てるというのは、生物としての皮肉なバグなのかもしれない。

 

「そう言えば明日の土曜ね、家族のみんなで山に行くんだけど、レイもついてくる?」

「えーっと……ちょっと待ってくださいね。少し考えます」

 

 山に行く〜……?

 

 これはアレだ。

 山菜を採りに行くやつだ。

 うちの近所は田舎なので、割とみんなやってる気がするが、大体は年寄りの趣味。

 私ももうお婆ちゃんに誘われても行かなくなったが、家族付き合いで行く人は、まだ普通に行ってたりもするのだろう。

 

 ここの土日、私はバイトを入れてない。

 なら別に行ってやってもいいかもしれない。

 

「行きます」

「おぉ〜! レイとの初デートだ!!」

「家族でお出かけの間違いですね。それに私は人前で喋れませんし」

「あー……そっかぁ」

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