次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が……   作:顔のない女

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第25話 山にお出かけ

 やっぱり日を跨いでも考えてしまう。

 正直に言って、来週からの登校が憂鬱で仕方がなかった。

 葵が意識を保っていると知りながら、本能に突き動かされるままに、彼女の唇を貪らなければならないのだから。

 

 でも、あんな近くにいられたら欲求の抑えは利かないし…………これから私は、いつ葵に詰められるか分からない爆弾ゲームを続ける羽目になるのか……嫌だなぁ。

 

「その猫っていつも姉ちゃんの部屋に入り浸ってる子でしょ? 僕も触っていい?」

「ん〜……私は良いけど、レイが許すかは分からないなー?」

 

 土曜の朝、私は葵の家族の車に乗せられ、みんなで山に向かっていた。

 車の乗組員は父・母・弟・葵に私を合わせた5人構成である。

 たぶん、葵の家族達が抱く(レイ)への印象は、葵の元にしか現れない変わった猫という印象だと思う。

 

「じゃあ触ってみる!」

 

 無邪気な声を上げ、葵の弟が彼女の膝の上で丸くなっている私へと手を伸ばしてきた。

 

「……レイちゃん、ちょっと撫でるだけだから、少し触らせてね〜」

触んな!(シャーっ!)

 

 私はそうやって猫特有の怒りの声をあげた。

 

「そんなぁ――ちょっとくらいいいじゃんか!」

 

 いいわけがない。

 そもそも私は人間な上に、この状態は服を着てないので、事実上の裸みたいなのものなのだ。

 なので異性に触らせるつもりなど全くない。

 というか葵以外の人間が触るのは、基本NGだ。

 

「首のところを摘んだら、子猫みたいに動かなくなるのかな?……お願い! 一度だけでいいから!!」

 

 そう言って、彼は再び身を乗り出してきた。

 

 いい加減、学習してほしい。

 そんな風に強引な手段に訴えるというのなら、こちらも相応の覚悟で報復するが、構わないのだろうか。

 そもそも、苛立っている成猫に対して首根っこを掴む行為は、逆効果になることも多い。

 その危険性をこのガキは理解していないらしい。

 

「わっ……!」

 

 私は葵の腹部を足支えにして立ち上がると、両手の鋭い爪を剥き出しにし、射殺さんばかりの眼光で彼を睨みつけた。

 

「にゃー」

「…………」

「そんな威嚇の仕方をする猫、お父さんは初めて見たな……」

「もう嫌がってるんだから、やめてあげなさい」

「っていうか、首を掴んで無理やり触るのは、流石にレイも後からブチギレると思うよ」

 

 葵や両親に厳しく叱責され、彼はようやく手を引いた。

 

「……うん、ごめんなさ〜い」

 

 しゅんと肩を落とす彼を横目に、私は再び葵の膝の上で丸まった。

 

 猫の姿でいると、こうした無遠慮な接触を回避するだけで精神を削られる。

 だって言葉でコミュニケーションをとれないし。

 

 ……やっぱり安易についていく判断をしたのは、間違いだったかもしれない。

 

「猫ばかり見てないで、外を見てみなさい。ほら、他にも動物がいるぞ」

 

 葵の父親が促すと、車内の視線が一斉に窓の外へと流れた。

 

「ほんとだ、すごい……」

 

 車はすでに深い林道へと分け入っており、木々の隙間に鹿の影が走り、岩場には猿の姿が見え隠れしていた。

 

 猿は……この前、10体近くの群れが中学校のグランドを占拠していたのを見た覚えがある。

 猫科以外の野生動物とは対話にならないので、できれば関わり合いになりたくない。

 

「さて、ここら辺でいいだろう。今日はみんなで山菜をたっぷり収穫するぞ!」

「「「おー!!!」」」

 

 葵の家族は揃いも揃ってエネルギーの塊のようだ。

 その屈託のない賑やかさを眺めていると、私の両親もこれくらい健康的で明るかったら良かったのにと、場違いな羨望が胸をかすめる。

 

 やがて車が目的地に停まり、一家は意気揚々と外へ降り立った。

 

「お父さん、お母さん。私とレイはちょっと離れた場所で探そうと思うんだけど、いい?」

「一人で大丈夫か? 運が悪かったらイノシシや猿に遭遇するかもしれないぞ?」

「平気平気、私には最強に賢い猫がついてるし。ね〜、レイ?」

 

 ……は?

 全然無理だけど??

 

 無茶振りにも程がある。

 確かに私は化け物だけど、たぶん猿を正面から4〜5匹相手にしたら、普通にこっちが死んじゃう気がする。

 一回も動物として狩りをしたことないから、実際は分かんないけど。

 

 私は葵の肩に乗っかりながら、首を横に激しくブンブンと振った。

 

「レイもいけるって!」

無理!(にゃー!)

 

 ふざけた解釈をした葵のほっぺを、私は横から爪で引っ張った。

 

「い、痛い痛い! ちょっとやめてってば!!」

「まあ、葵ももう高校生だしな。ちゃんと帰って来れる自信があるなら、行ってきなさい」

「僕もいく〜」

「お前はダメだ。父さんのそばにいろ」

「そんな……姉ちゃんだけズルい」

 

 そうだ、もっと言ってやってほしい。

 猫の仲間を自在に呼び寄せられる住宅街ならともかく、この深山で一匹狼の私は無力に等しい。

 おまけに葵の前では、獣人としての身体能力を披露することも叶わないのだ。

 

 しかし、そんな切実な願いも虚しく。

 

「じゃあ、行ってくるね〜」

「にゃああああああああああッッッ!!!!」

 

 私は葵に抱えられながら、山の奥へと進んだ。

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